コラム

今週の内外政治経済金融情勢の展望

 『金利・為替・株価特報2008年2月7日号=060号』の投資戦略欄で「節分天井彼岸底」の可能性を指摘した。「「節分天井彼岸底」の格言があるが、3月にかけて各ファンドの決算に向けての株式売却が増加することが予想される。3月にかけて安値を見定める対応が求められる。」と記述した。『金利・為替・株価特報2008年3月8日号=062号』はタイトルを「日米株価「節分天井彼岸底」の可能性」とした。ほぼ予想通りの株価変動が生じている。

 米国株価に連動して変動している日本の株価は、3月17日以降反発している。日経平均株価は2月27日の14,031円以降(波動としては2月4日の13,859円以降)、昨年7月以来4度目の株価下落局面に移行していた。
 日経平均株価は昨年7月9日の18,261円から8月17日の15,273円までの2988円、16.4%下落、10月11日の17,458円から11月21日の14,837円までの2621円、15.0%下落、12月11日の16,044円から本年1月22日の12,573円までの3471円、21.6%下落と3度の下落局面を示してきた。
 2月27日の14,031円から4度目の下落局面を示し、3月17日には11,787円まで下落した。3月17日が下落の終了点になると、4度目は2244円、16.0%の下落になる。3月17日の11,787円は昨年7月9日の18,261円と比較すると、6474円、35.5%下落した水準になる。

 NYダウは昨年7月9日の14,000ドルから8月16日の12,845ドルまでの1155ドル、8.3%下落、10月9日の14,164ドルから11月26日の12,743ドルまでの1421ドル、10.0%下落、12月10日の13,727ドルから本年1月22日の11,971ドルまでの1756ドル、12.8%の下落と、昨年7月9日以降、3度の下落局面を示してきた。本年2月1日の12,743ドル以降、4度目の下落局面を示した。
 今回の下落が3月10日の11,740ドル(波動としては3月17日ザラ場安値11,756ドル)で終了することになると、今回の下落は1003ドル、7.9%の下落ということになる。昨年10月9日の史上最高値14,164ドルから、2424ドル、17.1%の下落になる。日本の株価変動は米国株価に完全に連動しているが、下落率は日本が米国の約2倍になっている。

 日経平均株価は2003年央から2005年央にかけて10,000円から12,000円のレンジ内での推移を持続し、2005年8月に12,000円の上値抵抗ラインを突破して上昇トレンドに移行した。11,700円から12,000円が強い下値抵抗ラインになっている。
 NYダウは2000年1月14日に11,722ドルの史上最高値を記録したが、その後に高値を抜いたのは2006年10月4日だった。6年9ヵ月ぶりの高値更新となった。今回のNYダウ安値が3月10日の11,740ドルということになると、この11,700ドルラインが下値抵抗ラインということになってくる。

 米国株式市場で株価の乱高下が続いたが、NY株価は次第に底堅さを強めつつあるように思われる。FRBは3月11日に欧州の4つの中央銀行と連携して、昨年12月に続き2度目の緊急流動性供給策を発表した。3月11日、NYダウは5年8ヵ月ぶりの上昇幅となる前日比416ドルの大幅上昇を示したが、金融市場で米国大手証券ベア・スターンズ社の資金繰り警戒感が強まり、株価は反落した。
 3月16日は休日だったが、FRBは0.25%幅での公定歩合引下げを決定し、証券化商品市場へ資金供給を実施する新制度を創設して第1弾としてJPモルガンチェースが買収したベア・スターンズ社に対する緊急融資を実行した。さらに、18日にはFFレートの0.75%幅での引下げを決定した。

 金融市場の最大の懸念は不良債権の拡大が大手金融機関の破たんを通じてシステミックリスクを顕在化させるかに置かれている。システミックリスクとは、金融機関の連鎖的な破たんが拡大して信用機構が機能不全に陥ることだ。
 システミックリスクを回避するために、公的資金の投入が必要になるのではないかと考えられているが、米国市場は政府系ファンドを活用した金融機関の自力での資本調達と、買収による問題処理を示している。ベア・スターンズ社の場合、買収に際してFRBが資金供給したことに特徴がある。この方式が一般的に確立されるなら、広い意味で公的資金による問題処理のモデルケースになるとも考えられる。

 今週25日(火)、米国では1月ケース・シラー住宅価格指数が発表される。米国金融危機の原点は住宅価格の下落である。住宅価格下落がさらに加速するのかどうかに関心が注がれる。また、同日、3月消費者信頼感指数が発表される。米国の個人消費動向を見通す上で注目される。

 日本政府は3月19日の月例経済報告で、景気の基調判断について「景気回復はこのところ足踏み状態にある」と表現し、日本経済が踊り場にあるとの認識を示した。「設備投資」、「生産」、「企業収益」の3部門に対する現状判断が下方修正された。日本経済の先行き不透明感が増して株価は大幅に下落したが、その結果、日本株価の割安感はさらに強まっている。
 東証第1部上場企業の予想PERは13倍程度にまで下落し、株式益利回りは7.7%に達した。米国の金融危機が収束に向かうとの見通しが強まれば、日本株価が上昇波動に移行する可能性も考えられる。

 為替市場で急激なドル安・円高が生じた。3月17日の東京外為市場では、円相場が一時、1ドル=95円台に上昇し、12年7ヵ月ぶりの円高水準を記録した。米国の金融収縮、経済悪化に対する警戒感が強まったことが背景で、米ドルはユーロに対しても1ユーロ=1.59ドル台まで下落し、1999年のユーロ導入以来の最安値を更新した。

 しかし、米ドルが主要通貨に対して全面的に下落しているわけではない。米ドルの対英ポンドレートは3月13、14日に1ポンド=2.039ドルまで下落したが、昨年11月には1ポンド=2.116ドルまで下落しており、安値を更新していない。3月20日には1ポンド=1.97ドルまで米ドルが反発している。
 米ドルの対加ドルレートは2月28日に1加ドル=1.03米ドルまで下落したが、昨年11月の1加ドル=1.10米ドルを下回っていない。3月21日には1加ドル=0.97米ドル台まで米ドルが反発している。

 日本円は2001年から2007年にかけて、対米ドルで横ばい推移を続けてきたが、この間、米ドルは他通貨に対して趨勢的に下落した。したがって、日本円も他通貨に対して趨勢的に下落した。
 最近の米ドル下落のなかで、日本円は米ドルに対して上昇し、これをきっかけに、日本円の他通貨に対する趨勢的な下落が修正される傾向を強めている。「ドル下落」より「円高=円安修正」の傾向が強くなりつつあることを踏まえておくべきだ。

 日銀人事では、白川方明前京大教授(元日銀理事)と西村清彦前日銀審議委員(元東大教授)の副総裁就任案が国会で同意され、2名の副総裁が決定されたが、総裁ポスト空席のまま新体制が発足した。当面の総裁代行は白川副総裁が務めることになった。
 日銀人事問題が紛糾しているのは、福田政権が財務省(あるいは大蔵省)出身者の総裁就任に固執しているからだ。民主党を中心とする野党は財務省(あるいは大蔵省)次官経験者の総裁就任は認められないとのスタンスを明確に示している。このため、決着がつかない状態が続いている。

 「なぜ財務省次官経験者の日銀総裁就任がいけないのか、理由が分からないんですよ」と福田首相は繰り返し、読売、産経、日経、朝日、毎日新聞はそろって、「財務省次官経験者の日銀総裁就任を排除する民主党の主張は理解できない」と政府、自民党、財務省を擁護している。
 財務省は公正取引委員会委員長ポストを握り、新聞の再販価格維持制度の生殺与奪権を通じて新聞メディアを支配する立場にある。マスメディアは特ダネの入手、経営上の恩典を重視して権力迎合の姿勢を鮮明にしている。マスメディアの堕落が日本の真の構造改革実現を妨げている。
 唯一、東京新聞(中日新聞)だけが3月20日の社説で『日銀総裁問題 天下り慣行を見直せ』と正論を述べた。

 欧米で財政部門幹部を経験した人材が中央銀行総裁に就任している例が存在しているが、日本とは事情がまったく異なる点に留意しなければならない。
 これらの国では法律、慣例、政策決定メカニズム等により中央銀行の独立性が完全に確保されている。そのため、財政部門の幹部を経験した者が中央銀行総裁に就任しても中央銀行の独立性が脅かされるリスクが存在しない。
 しかし、日本の場合には政策決定の最高機関である日本銀行政策委員会の委員選任方法を含めて、日本銀行の独立性を完全に担保する制度および慣行が確立されていない。
 また、日本では財務省出身者が財務省を離れても「財務一家」、「大蔵一家」の一員として財務省と連携して行動していることは周知の事実である。財務省出身の日銀総裁は財務省と連携して政策運営にあたる蓋然性が極めて高い。

 財務省出身者の日銀総裁就任を認めるべきでない三つの理由を改めて整理して示す。

 第1は通貨価値維持を担保するするセーフティーネットとして、制度的に財務省出身者の日銀総裁就任を排除しておくべきことだ。
 旧日銀法は1942年に戦時立法で日本銀行条例を改変して制定されたもので、日本銀行が政治権力の支配下に置かれていた。第2次大戦の戦費を政府は国債の日銀引受けで調達し、その後遺症として戦後にハイパーインフレが発生して、預金は紙くずになった。1997年に日銀法は全面改正され、98年に施行された。日本銀行の独立性は重要視されたが、政府からの関与は色濃く残存している。

 日本政府は巨額の財政赤字を抱えている。財政赤字のもっとも簡単な解消法はインフレの誘発である。手取り給料が30万円の人の100万円の借金の重みを考えるとわかりやすい。物価が10倍になると30万円の給料は300万円に増える。このとき借金100万円の重みは10分の1に軽減される。
 政府は巨額の財政赤字を抱えているが、いつの日か激しいインフレを一度だけでも引き起こせば、借金を帳消しにできる。財政当局にはインフレ誘導の強い誘因が内在している。

 日銀の意思決定は総裁1名、副総裁2名、審議委員6名の合計9名の多数決による。財務省の意向を反映する総裁と副総裁が1名ずつ存在するとき、財務省が審議委員6名のなかの3名をコントロールできれば政策委員会の多数を確保することができる。財務省は政策委員会のマジョリティー確保を狙っている。
 この状況を確保できれば、金融政策を財政当局の意向に沿って運営することが可能になる。政府が提案した伊藤隆敏氏、西村清彦氏はいずれも財務省との距離が近い学者である。財務省に近い副総裁と財務省出身の総裁を確保することは、財務省による日銀支配を実現するうえで好都合な状況になる。

 第2の理由は、日銀総裁ポストが財務省の「最高位の天下りポスト」と位置付けられていることだ。財務省にとって天下り利権は最重要の利権である。「天下り利権の維持拡大」が財務省の行動原理であると言っても過言ではない。「構造改革」が叫ばれ続けてきたが、財務省の天下り利権は完全に温存されてきた。

 「日本政策投資銀行」、「国際協力銀行」、「国民生活金融公庫」は財務省の天下り御三家である。これら機関への次官経験者の天下りも温存された。「天下り配置」は厳格な序列によって実行されており、財務省の最重要事項になっている。
 福田首相は財務省の「天下り利権死守」と「天下り秩序維持」に以上にこだわっている。日銀総裁にふさわしい人材であるかどうかは二の次、三の次である。「天下り秩序維持」の視点に立って人事案を考えるから人材が限られるのだ。「日銀総裁職にふさわしい人材」の視点で人事案を検討するなら、有力な候補者は多数存在する。

 日本が抱える最大の構造問題は、(1)官僚機構が意思決定の実権を握り、(2)官僚機構が国民の幸福を追求せずに、自己の利益増大を追求していること、(3)政治がこの現状を「改革」せずに「温存」していることにある。
 D=道路、N=日銀、年金、A=あたご=防衛省、のDNA問題のいずれも、上記の三つの問題に帰着する。財務省は財政収支改善のために何を優先してきたか。高齢者、障害者、母子世帯、生活困窮世帯、一般勤労者への政府支出を切り捨て、一般大衆の租税及び社会保障負担を増大させる一方で、天下り機関と天下り利権を死守してきた。

 福田首相の行動は国民の幸福追求と逆行する財務省の天下り利権温存に執着するものである。野党がこの点を重視して、財務省出身者の日銀総裁就任を阻止しようとするのは正当である。

 第三の理由は、財務官僚出身者に日銀総裁就任に値する素養、学識、実務能力を持った人材がほとんどいないことだ。榊原英資元大蔵省財務官などが例外的に存在するだけで、財務官僚の大半は法律、行政のエキスパートであっても、金融政策、金融実務、国際政策協議のエキスパートでない。日銀総裁には高度の専門能力と語学力を含む国際的なコミュニケーション能力が求められる。

 これらの要件を満たす人材は日本銀行内部に偏在している。日銀総裁候補としての山口泰元日銀副総裁について、メディアは「日銀出身の白川氏がすでに副総裁に就任しているため、バランス上、可能性は低い」と伝えるが、奇異である。日銀幹部の複数が日銀出身者で占められても不思議でも不自然でもない。
 日銀の専門家以上に金融政策の詳細について知識、学識を備えた経済学者も限られている。日銀内部に優秀な人材が多数存在する。財務省が日銀人事を「利権」と捉えて圧力を加えるから奇異な論評が生じるのだ。FRB幹部でもFRBに長く籍を置く者が多い。

 それでも日銀出身の総裁、副総裁が1名に限定されるなら、白川方明氏を日銀総裁に起用するべきだ。白川氏は実務能力、見識、学識、コミュニケーション能力、人格のいずれをとっても日銀総裁にふさわしい人材である。
 福田首相は民主党の考え方を知りたいと言っているから、民主党は「総裁職には財務省出身者を起用せずに日銀出身者をあてるべきこと」を提示するべきだ。「天下り利権」を死守するために財務省が日銀法を改正して日銀総裁ポストを奪還しようと画策する可能性があるが、これを許してはならない。

 財務省が中枢に存在する日本の「官僚主権構造」を廃絶することが「真の構造改革」の課題である。日銀総裁への財務官僚の天下りが財務省利権の象徴である。民主党は最後まで妥協してはならない。
 財務省、政府、与党は支配下のマスメディアを総動員し、米国の支援をも受けて財務官僚出身者の日銀総裁就任実現を目指すと考えられるが、民主党は最後まで正論を示し続けるべきだ。民主党の真価が問われる。

2008年3月24日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀

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