コラム

今週の内外政治経済金融情勢の展望

 2月9日、東京でG7(7ヵ国財務相・中央銀行総裁会議)が開催された。米国のサブプライムローン問題に端を発するグローバルな金融市場の不安定性に対して、具体的な対応が示されるかが注目されたが、具体策は示されなかった。
 G7は共同声明で、(1)経済の安定と成長を確保するため、個別にあるいは共同して適切な行動をとる、(2)金融機関が金融商品の損失を認識し、資本増強を講じることは市場機能回復に重要、(3)為替レートは経済の基礎的条件を反映すべきだとの考えを再確認。人民元の実効為替レートのより速いペースでの上昇を促す、ことが示された。

 NYダウは、昨年7月9日に14,000ドルに到達して以来、3度の下落局面を経験してきた。1度目が昨年7月9日から8月16日までで、ダウは1155ドル、8.3%下落した。2度目は10月9日の14,164ドルから11月26日の12,743ドルまでで、1421ドル、10.0%下落した。3度目は12月10日の13,727ドルから本年1月22日の11,971ドルまでで、1756ドル、12.8%下落した。
 1度目の下落に対しては、FRBが8月17日、9月18日の利下げで対応した。NYダウは史上最高値を更新した。2度目の下落は米国の大手金融機関のサブプライム関連巨額損失が明らかになり、信用収縮懸念が強まったために生じた。11月26日にアブダビ投資庁によるシティグループに対する出資が公表されて信用収縮懸念が後退した。

 3度目の下落はFRBが12月11日の利下げ幅を0.25%にとどめられたところから始動した。年末から1月中旬にかけて、米国金融機関の追加巨額損失が発表され、さらに金融保証会社の資本不足に対する懸念と米国経済失速懸念が広がり、株価が急落した。
 FRBのバーナンキ議長は1月10日の講演で大幅利下げの方針を表明し、1月22日に0.75%、1月30日に0.5%の利下げを決定した。また、ブッシュ政権は1月18日に減税を軸とする1500億ドルの景気対策を発表し、2月7日には米国議会が景気対策案を可決した。

 米国政策当局が財政金融政策を総動員したことで、NYダウは反発したが、先行き警戒感は依然として非常に強い。米国経済混迷の原因は不動産価格の下落にある。1月29日に発表された昨年11月のS&Pケース・シラー住宅価格指数によると、全米主要10都市の1戸建て住宅価格は前年同月比8.4%下落した。16年ぶりに過去最大を記録した10月の下落率6.7%を大幅に上回る下落率を記録した。米国不動産価格の下落が加速している。
 不動産価格下落を背景に米国の住宅投資が激減し、米国経済成長率が急低下している。1月30日に発表された昨年10-12月期の実質GDP成長率は年率0.6%と、7-9月期の年率4.9%成長から急低下した。2月1日に発表された1月雇用統計では非農業部門の雇用者が1.7万人減少した。4年半ぶりに雇用者減少が記録された。

 1990年代以降の日本経済は、資産価格下落-金融不安増大-景気悪化の悪循環を断ち切れずに、奈落の底に落ちて行った。公的資金を活用して信用不安を断ち切るための制度整備、環境整備が遅れるとともに、景気悪化を回避する経済政策路線が右往左往したことが、混迷拡大、長期化の理由だった。
信用不安を断ち切るには、公的資金を必要十分に注入することが必要だった。だが、責任処理を伴わない公的資金注入は「倫理の崩壊=モラル・ハザード」という致命的な問題を生み出す。公的資金注入は厳格な責任処理が不可欠の前提条件になるが、日本はこの面で、適切な対応を結局取ることができなかった。

 マクロ経済政策では1997年と2001年に致命的な政策失敗を演じた。回復過程にある経済を超緊縮経済政策で破壊してしまったのだ。経済政策の破綻の終着点が2003年5月の「りそな銀行危機」だった。小泉政権は公的資金でりそな銀行を救済して金融恐慌を回避したが、金融市場の「倫理の全面崩壊」を生み出してしまった。
米国のサブプライム危機では、日本の失敗の教訓が生かされなければならない。幸い米国政策当局は大胆な金融緩和策と迅速な財政政策発動を決定した。その結果、株価下落に一定の歯止めがかかった。しかし、信用不安を断ち切る明確な処方箋はまだ示されていない。

 最悪の状況に向かうリスクは大幅に軽減されているが、完璧な政策対応により、事態悪化を最小限にとどめる明確な見通しはまだ見えてきていない。3つの課題が存在している。(1)米国政策当局が財政金融政策をもっとも有効に活用すること、(2)米国当局が金融機関の資本不足不安に対して明確な安心感を与えること、(3)マクロ経済政策の協調をグローバルに広げること、の3つだ。
 1月18日のブッシュ政権による1500億ドル景気対策は、事前に内容が市場に織り込まれてしまっていたために、市場にサプライズを与えることに失敗した。FRBは昨年12月11日から本年1月30日までに1.5%ポイントもFFレートを引き下げたが、利下げのタイミングと方法を工夫していれば、はるかに大きな効果を生み出せたはずだ。残念ながら政策運営における芸術的技量が乏しい。

 サブプライムローン問題による大手金融機関および金融保証会社の資本不足懸念に対する米国政策当局の明確なコミットメントが求められているが、現状ではまだ示されていない。カナダや英国は米国に連動して利下げに着手しているが、ECB(欧州中央銀行)、オーストラリア中銀は利上げの可能性をまだ否定していない。日本銀行は利上げの可能性を排除したが、利下げには現段階では慎重である。
 今回のG7では、この3点への対応策が検討されることが期待されたが、結局、具体策には到達しなかった。日本のリーダーシップに期待するのは、元々無理だったが、米国が強いリーダーシップを発揮することが求められたが、期待は裏切られた。

 日本の株式市場の波動は昨年来、米国に完全に連動している。ただ、株価下落率は米国をはるかに上回っている。NYダウの下落が昨年10月9日の14,164ドルから本年1月22日の11,971ドルまでの2193ドル、15.5%であるのに対し、日経平均株価は昨年7月9日の18,261円から本年1月22日の12,573円まで5688円、31.1%下落した。日本の株価下落率は米国の約2倍に達している。
 日本企業の株価は各種指標から判断して、著しく割安な水準に位置している。東証第1部上場企業の今期予想利益ベースのPER(株価収益率)は2月7日終値から算出すると15.25倍で、株式益利回りは6.55%である。10年国債先物利回り1.60%を4.95%ポイント上回っている。

 日本の株価下落率が突出して高いのは、福田政権が日本経済の成長持続を支える政策スタンスをまったく示していないからである。自民党税制調査会副会長の茂木敏充衆議院議員は2月10日のテレビ番組で、「日本の株価が下がっているのは、日本経済、日本企業そのものが『サブプライム』だからなのだ」と断言した。
 自民党幹部が日本経済を「基本的に劣っている、信用力が不足している」と認定しているのでは、株価下落を回避することは不可能だろう。福田首相は株価下落についての見解を記者から質問され、「見解とは何ですか」と色をなした。「政策対応に問題があると言う専門家がいるなら顔を見たい」とも述べた。

 福田政権は財務省の近視眼的緊縮財政政策運営路線に何らの思慮もなく乗っている。財務省の近視眼的緊縮財政政策運営路線こそ、日本経済の「失われた15年」をもたらした主犯である。1997年、2001年に続き、3度目の政策不況に福田政権が日本経済を誘導するリスクが高まっている。
 財務省は日銀の超金融緩和政策を支援し、緊縮財政路線を維持しようとしている。日銀を完全にコントロールするには財務省出身者を日銀総裁に就任させなければならない。また、財務省の最大の目標は財務省の天下り利権を完全温存することである。日銀総裁ポストの奪取はその象徴でもある。

 財務省、政権、与党に完全に隷属している大手マスメディアの大半は、武藤敏郎氏の日銀総裁就任を、全力をあげて支援している。日銀関係者のなかには、日銀が従来同様、日銀総裁ポストを財務省と交互に獲得できるのなら、今回は武藤氏昇格を容認しようとの「利害と打算」で問題を考える輩も存在する。大手メディアはこうした輩の声を大きく取り上げ、議論を誘導しようとしている。
 民主党はこの問題に関して、絶対に妥協すべきでない。財務省利権にくさびを入れることが、「真の構造改革」の明確な第1歩になるからだ。民主党は次期総選挙で勝利して、政権交代を実現しなければならない存在だ。昨年7月の参議院選挙結果にはこの方向を求める有権者の声が反映された。

 自民党と民主党とが、「保守」と「リベラル」の軸によって大規模に再編されるなら、それは非常に分かりやすい政界再編になる。政界再編の胎動を感じさせる変化が蠢き始めているのは事実であるが、現状では明確な展望は開けていない。
 本来は民主党が(1)官僚利権根絶、(2)弱者保護、(3)独立自尊外交の確立、の3原則を明確に提示し、リベラル勢力の結集をはかり、自民党が@官僚利権温存、(2)弱肉強食政策の徹底、(3)対米隷属外交の強化、の3原則を明確化して、賛同者を結集すべきである。国民はその二つの政策路線から政権を選択すべきである。

 ブッシュ政権、福田政権の経済問題への対応能力不足から、経済、金融の不安定性は長期化するリスクが高まっている。だが、一方で、事態打開のために何が必要であるかはかなり明確になりつつある。不安定性が持続するとしても、最終的には必要な措置が取られる可能性が高いように思われる。
 米国では民主党のバラク・オバマ候補が民主党大統領選予備選挙で勢いを強めつつある。福田政権が旧態依然の財務省主導政策上を進むならば、早晩、日本経済は困難に直面する可能性が高い。民主党が道を踏み外さずに、広く一般国民の目線に立った官僚利権打破の政策路線を貫くなら、日本の政治状況の転換は必ず現実のものになるだろう。民主党は日銀総裁人事での過ちを絶対に犯すべきでない。

2008年2月12日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀

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