コラム

今来週の内外政治経済金融情勢の展望

 世界的な株価下落の連鎖が拡大している。1月21日、日経平均株価は前日比535円、3.9%下落した。上海総合株価指数は5.1%、香港ハンセン指数は5.5%、インド・ムンバイ市場のSENSEX指数は7.4%、欧州でも英国FT指数が5.5%、ドイツDAX指数が7.2%下落した。
 1月21日のNY市場はキング牧師記念日で休場だったが、NYダウの先物価格は500ポイントも下落した。1月22日の各国市場は前日の流れを引き継いで、日経平均株価が前日比752円、5.7%下落したのをはじめ、上海総合株価指数が7.2%、香港ハンセン指数が8.7%、インド・ムンバイ市場のSENSEX指数が5.0%下落し、インド・ムンバイ市場では株価急落を受けて取引が一時停止された。

 1月18日、米国のブッシュ大統領は米国のGDPの1%にあたる1400億-1500億ドル程度の緊急景気対策の骨格を発表した。対策の柱は個人向けの戻し減税と企業の設備投資を促す優遇税制である。政策の効果として年内に50万人の雇用創出が見込まれた。対策の最終案は1月中にまとめられ、議会での早期承認を得る方針が示された。
 ブッシュ大統領が緊急景気対策の骨格を発表したにもかかわらず、1月18日のNY株式市場ではNYダウが下落した。NYダウは寄り付き後には前日比180ドル高まで上昇したが、景気対策の内容が「GDP比で1%程度」と伝えられると下落し始め、前日比59ドル安で引けた。株式市場はブッシュ政権の緊急対策が事態悪化に歯止めをかけるには不十分と判断したと理解できる。

 米国のサブプライムローン問題に端を発する経済、金融の先行き不安が自己増殖的に拡大している。問題の出発点には米国住宅価格の下落がある。S&Pケース・シラー住宅価格指数によると、米国主要10都市の住宅価格は2006年6月にピークをつけて昨年10月までに7.3%下落した。昨年10月の前年比下落率は6.7%となり、1991年4月の-6.3%を上回り、統計開始後最大の下落率を記録した。
 1925年から33年にかけての米国大恐慌時には米国住宅価格は30%下落したが、今回の住宅価格下落も対応を誤れば大幅になるとの指摘がある。不動産格下落がサブプライムローンの焦げ付きを生み、ハイリスク・ハイリターン型金融商品に組み替えられたサブプライムローンを大量保有した大手金融機関が巨額損失に直面している。

 金融市場の信用逼迫懸念が強まり、株価が下落し、先行き心理が大幅に悪化している。住宅価格下落を背景に住宅投資が激減し、他方、心理の悪化から個人消費や企業の設備投資が下方圧力を受けている。米国経済がリセッションに陥るとの見通しも強まっている。
 資産価格下落−景気悪化−金融不安が悪循環を形成し、事態悪化のスパイラルが形成されることが警戒されている。事態を改善するには、悪循環を断ち切る必要がある。金融市場の信用収縮を回避するFRBによる潤沢な資金供給、財政政策の発動、大胆な金利引下げ政策の主要政策手段を総動員し、事態改善に向けての明確な政策意思を市場に明示することが求められている。

 本来、1月21日にFRBは大幅利下げを決定するべきだった。グローバルな株価下落の連鎖はNY市場で断ち切られるはずだった。しかし、同日はNY市場が休場で、連鎖的同時株価下落が丸1日延長されてしまった。
 1月22日、FRBは電話による臨時FOMCを開催し、FFレートと公定歩合をそれぞれ0.75%ポイント引き下げることを決定した。市場が想定する利下げ幅の上限が選ばれた。FFレートは4.25%から3.5%に引き下げられた。

 資産価格下落−景気悪化−金融不安の連鎖は日本が1990年から2003年にかけて経験した。日本の場合、1996年と2000年に景気回復、株価上昇の改善局面を迎えたが、財政収支改善を優先する近視眼的な緊縮財政政策が採用されて、事態を再悪化させ、深刻な金融不安を招いてしまった。
 迅速かつ大胆な対応が求められている。「兵力の逐次投入」は失敗を招く代表事例である。米国政策当局が利下げ、財政政策、金融市場安定化策を総動員して市場に驚きを与える必要がある。金融市場の不安心理はオーバーシュートしており、心理の振れを是正できれば、問題への対処は格段に容易になる。

 米国では住宅価格下落に連動して住宅投資が急減している。1月17日発表の昨年12月の米国住宅着工件数は季節調整後年率100.6万戸で前月比-14.2%、前年比-38.2%の減少、住宅着工許可件数は年率106.8万戸で前月比-8.1%、前年比-34.4%減少した。着工件数は1991年5月以来、着工許可件数は93年3月以来の低水準になった。事前予想は着工件数、着工許可件数ともに114万戸だった。実績は予想を大幅に下回った。
 1月15日発表の昨年12月の小売売上高も前月比0.4%減少(季節調整後)した。昨年6月の0.6%減少以来、6ヵ月ぶりに減少した。全米小売業協会は昨年11-12月の年末商戦の売上高が前年比3.0%増になったと発表したが、増加率は5年ぶりの低水準だった。米国ではクリスマス期間中の消費の年間消費に占める割合が高く、クリスマス商戦の不調は米国経済の基調の大きな変化を示している。

 日経平均株価は昨年12月26日以降、米国株価の下落に連動して急落している。年明け後、1月4日に634円、11日に278円、16日に468円、21日に536円、22日に752円の大幅下落を示した。1月22日の終値12,573円は、2005年9月16日以来、2年4ヵ月ぶりの安値で、昨年12月26日の15,653円から3080円=19.7%、10月11日の17,458円から4885円=28.0%、7月9日の18,261円から5688円=31.2%下落した水準である。
 国内経済指標も景気悪化を示唆しており、12月28日発表の1月鉱工業生産指数は季節調整後で前月比1.6%ポイント低下し、11月有効求人倍率は0.99倍と2005年11月以来、2年ぶりに1倍を下回った。12月27日発表の11月住宅着工戸数は前年同月比27.0%減少し、建築基準法改正に伴う建築確認の遅れが持続していることが示された。

 1月10日発表の昨年11月の景気動向指数では一致指数が33.3%と景気判断の分かれ目となる50%を8ヵ月ぶりに下回った。先行指数は10%で、4ヵ月連続で50%を下回った。1月11日発表の昨年12月の景気ウォッチャー調査では現状判断指数が36.6と前月比2.2ポイント低下し、9ヵ月連続の悪化を示し、4年11ヵ月ぶりの低水準になった。
 1月18日発表の昨年12月の全国百貨店売上高は前年比2.3%減少し、2007暦年の売上高も前年比0.5%減少した。また、同日発表された昨年12月の消費者態度指数は38.9と、3ヵ月前比5.0ポイント低下し、4年6ヵ月ぶりの低水準を記録した。

 主要国のなかで日本の株価下落がもっとも大幅になっている。福田政権が日本経済の安定的な成長維持にまったく関心を払っていないこともその一因と考えられる。衆参ねじれ国会のなかで政府与党は2008年度予算の早期成立と租税特別措置法案の成立を求めているが、2008年度予算は景気抑制型の緊縮予算である。
 民主党はガソリン税の暫定税率廃止を要求しているが、正当性を備えた主張である。道路特定財源である揮発油税などの税収規模が道路整備支出規模を超過していることから、政府は道路特定財源を道路以外の使途に流用する「一般財源化」を推進してきた。しかし、税収が道路整備への支出を上回っているのであれば「暫定的に」引き上げられている税率を本来の「本則基準の水準」に引き下げるのが筋である。

 政府は「暫定的」の名目で獲得した税金を「既得権益」と捉え、一度獲得した既得権は絶対に手放さないとのスタンスを取っている。暫定的に引き上げている税率を本則基準に戻し、政府の無駄な支出を切り詰めることによって必要な道路整備を確保すべしとの民主党の主張は正義の主張である。
 しかし、マスメディア情報が政治権力のコントロール下に置かれて著しく偏向しているために、正しい情報が有権者に提供されていない。前近代的な日本の言論空間のなかで、日本を近代化するために不可欠な政権交代を実現することには多大の困難が伴うが、民主党を中心とする野党は次期総選挙を通じて政権交代を是が非でも実現しなければならない。

 福田政権は経済・金融情勢の変化に対して生体反応を示していない。日銀のこれまでの政策対応に誤りはなかったが、グローバルな金融危機のリスクに対応して、財政政策、金融政策を総動員することを検討すべきである。
 政府、与党のなかに政府・財政当局による日銀支配と過剰流動性供給によるインフレ誘導を目論む勢力が存在する。日銀総裁人事が本格化する局面で、現在の金融市場混乱が人事の口実に悪用されることを回避しなければならない。民主党は(1)財務省からの天下り根絶、(2)財政による中央銀行支配排除、(3)金融専門家の総裁就任、を満たす日銀総裁人事を実現させなければならない。
岩田一政現日銀副総裁、山口泰元日銀副総裁、植田和男元日銀審議委員のなかから次期総裁を選出すべきである。

 現在の金融市場は先行き不透明感からパニック的な様相を示しているが、日米欧の政策当局が協調して行動し、市場の不安心理除去に全力をあげなければならない。ブッシュ政権の責務は大きいが、政権の迅速な対応力に対する疑念を払拭することができない。
 福田政権も経済、金融市場の変化を的確に読み取り、迅速かつ大胆に行動しなければならないが、機動的な反応がまったく見られない。事態が大幅に悪化してから、「兵力の逐次投入」が行われることは、1997-98年、2001-03年の政策失敗を三たび繰り返すことを意味する。経済政策の失敗が政治状況の大転換をもたらす可能性を考察する必要が生まれているように思われる。

 

2008年1月23日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀

コラム一覧
2008/05/16 当面のコラム更新についてのお知らせ
2008/04/08 日銀総裁人事についての補論(3)
2008/03/24 今週の内外政治経済金融情勢の展望
2008/03/18 日銀総裁人事についての補論(2)
2008/03/07 日銀総裁人事についての補論
2008/03/05 今来週の内外政治経済金融情勢の展望
2008/03/05 『金利・為替・株価特報』062号発行日変更のお知らせ
2008/02/21 『金利・為替・株価特報』061号発行日変更のお知らせ
2008/02/20 今来週の内外政治経済金融情勢の展望
2008/02/12 今週の内外政治経済金融情勢の展望
2008/02/05 今週の内外政治経済金融情勢の展望
2008/01/23 今来週の内外政治経済金融情勢の展望
2008/01/15 今週の内外政治経済金融情勢の展望