コラム

当面の内外政治経済金融情勢の展望

 12月28日発表の11月全国消費者物価指数は生鮮食品を除く総合ベースで前年比0.4%の上昇を示した。上昇率は1998年3月以来、約10年ぶりの高さとなり、原油高が物価を押し上げる傾向が鮮明になった。
 福井総裁は12月20日の記者会見で、消費者物価指数の前年比上昇率について、「この先、しばらくプラス幅があるスピードで増していく可能性があると感じている」と述べていた。また、亀崎英敏審議委員は12月26日の記者会見で、「実勢より低すぎる金利は将来に危険性をはらんでおり、タイムリーに金利を上げていかなければいけない」と述べた。

 グローバルな信用収縮リスクが強まっており、食品、エネルギー価格を除くコア指数が前年比0.1%下落しているため、日銀の利上げは当面封印されているが、福井総裁は短期政策金利の引上げ方針を表明しており、今後の日銀関係者のコメントには注意を払う必要がある。

 米国では12月21日発表の11月米国個人消費支出(PCE)価格指数(市場ベース)が前月比0.6%上昇したが、コア指数前月比上昇率は0.2%にとどまった。
 12月13日発表の11月米国卸売物価指数が前月比+3.2%(季節調整後)、前年比+7.2%上昇し、12月14日発表の11月米国消費者物価指数は、前月比+0.8%(季節調整後) 、前年比+4.3%上昇した。食品・エネルギーを除くコア指数の前月比上昇率(季節調整後)は卸売物価指数が+0.4%、消費者物価指数が+0.3%(季節調整後)になった。
 金融市場はとりわけコア指数の前月比上昇率を注目しており、11月の卸売物価、消費者物価のコア指数上昇率が0.2%を上回ったため、FRBの追加利下げ難しくなったとの観測が生じていたが、PCEコア価格指数前月比上昇率が0.2%にとどまったため、インフレ懸念の強まり歯止めがかかった。

 原油価格の上昇などが物価指数全体の押し上げ要因として作用しており、インフレ懸念の鎮静化には時間がかかると思われるが、原油価格が下落傾向を示せば市場のインフレ警戒感は徐々に低下すると考えられる。
 サブプライムローン問題に端を発する信用収縮懸念、米国の景気失速リスクを排除するためにはFRBの追加的な金利引下げが必要と考えられ、米国でのインフレ懸念が後退するかどうかが極めて重要な意味を持ってくる。米国インフレ指標とFRBの行動に引き続き注視を怠れない。

 欧州ではECB(欧州中央銀行)のトリシェ総裁が、インフレ警戒感を繰り返し表明している。ECBは12月6日の定例理事会で6ヵ月連続の政策金利据え置きを決定したが、複数の理事が利上げを主張した。トリシェ総裁は「ECBは原油や食品価格の上昇がインフレ率を広範に押し上げるのを防ぐために行動するのをためらわない」と表明しており、今後の外部環境の変化によっては、ECBが利上げを再開する可能性も残存している。
 12月14日発表のユーロ圏13ヵ国の11月EU基準消費者物価指数は前月比0.5%、前年比3.1%上昇した。この数値はECBの年間ベース消費者物価上昇率設定目標の2%以下を大幅に上回っており、ECBが物価警戒姿勢を強めるのは順当ではある。

 サブプライム問題に端を発する信用収縮リスクはグローバルに強まっており、ECBも金利据え置きや短期金融市場への潤沢な資金供給を実行しているが、信用収縮リスクが後退すれば、平時の金融政策スタンスに回帰することが予想される。1月10日にECB定例理事会が開かれる。現状では政策金利が据え置かれる可能性が高いが、今後のECB幹部の発言には十分な注意が求められる。

 米ドルは2002年以降、下落トレンドを示してきたが、本年11月以降、小幅反発した。2004年から2006年にかけての米国金融引き締め、米国経常収支赤字減少、米国大手金融機関の資本強化策などの対応がドルの基調を変化させている可能性があり、十分な考察が求められる。『金利・為替・株価特報2007年12月22日号=057号』に分析を記述したので参照いただきたい。
 サブプライムローン問題が深刻化しているが、11月末以降に不安心理がいったん後退した。巨額損失を計上した大手金融機関の、アジアや中東諸国からの資本還流による資本増強策の図式が示されて、金融市場の安心感が広がったと考えられる。

 NYダウは7月19日に14,000ドルの高値を記録したのち、8月16日に12,845ドルに下落、10月9日に14,164ドルの高値を記録し、11月26日に12,743ドルに下落した。12月10日に13,727円まで反発したあと、もみ合っている。
 NYダウが終値で11月26日の12,743ドルを下回ると、チャート上の三尊天井が形成され、株価ピークアウトの懸念が強まる。11月26日の12,743ドルを守れるかどうかが焦点になる。

 米国不動産価格が今後どの程度下落するのかが重要である。12月26日発表のケース・シラー不動産価格指数は、本年10月の全米主要20都市中古住宅価格指数が前年比6.7%下落したことを示した。下落率は1991年4月の前年比6.3%下落を上回った。不動産価格下落が加速し、住宅投資、個人消費の減速が加速すると、米国経済がリセッションに陥るリスクが高まる。
 米国調査会社ブルーチップ社は、10-12月期の米国実質経済成長率が7-9月期の+4.9%から前期比年率+0.8%に急減速するとの民間予測機関の見通しを発表した。景気減速は2008年1-3月期にかけて持続すると見込まれている。米国経済の減速が「減速」の段階にとどまるのか、「リセッション」に移行するのかに関心が集まる。今後の不動産価格、住宅投資、住宅販売、個人消費関連指標に十分な注意を払う必要がある。

 日本経済の減速観測も強まっている。12月14日発表の日銀短観2007年12月調査は、大企業の業況判断が製造業、非製造業ともに9月調査時点から悪化し、先行き3月にかけても悪化するとの見通しを示した。12月25日発表の法人企業景気予測調査も大企業の業況判断悪化を示した。
 日本経済の成長率は低下が見込まれるが、現状では景気失速のリスクは明確になっていない。米国経済がソフトランディングできるかどうかが極めて重要になる。日銀による追加利上げの可能性は当面、封印されており、国内長期金利は低位推移が見込まれている。

 米国の株式市場が安定感を取り戻して米国経済に対する悲観論が後退すれば、日本の株式市場にも安心感が広がるだろう。日本の上場企業の株式益利回りは長期金利利回りを4%以上も上回っており、日本企業の株価割安感は極めて強い。グローバルな信用収縮懸念が後退するかが焦点である。

 福田内閣の支持率が大幅に下落した。防衛省汚職、年金問題公約破棄、薬害肝炎問題への対応、独立行政法人改革の後退などに対して、有権者の厳しい評価が強まっている。薬害肝炎問題では内閣支持率急落を受けて政府の対応が全面転換した。国民の利益ではなく、政治家の利益の視点から政治決定がなされていることが鮮明に示されている。
 新給油法案に対する有権者の支持は低い。臨時国会で政府が衆議院の3分の2の多数を活用して、参議院が否決した法案を再可決すれば、有権者の強い批判が生じると考えられる。

 民主党は揮発油税の暫定税率廃止を主張し、福田首相の問責決議可決を視野に入れている。政府、与党は権力維持のために手段を選ばない姿勢を鮮明にし始めているが、政権の信はできるだけ早く問われるべきである。
 新年春までに解散総選挙が行われるよう、野党は結束して国会対応にあたるべきである。総選挙を通じた政権交代を実現し、「官僚主権」、「対米隷属」、「弱者切り捨て」の政治の現状を根本から糺さなければならない。
 米国では1月3日のアイオワ州党員集会、8日のニューハンプシャー州予備選で大統領選挙が本格的に始まる。本選挙は11月4日に実施される。イラク戦争を推進した8年間におよんだブッシュ共和党の政治が総括される。クリントン女史が選挙戦のトップに立っているが、過去の大統領選では冒頭の2州の結果が極めて重大な意味を有しており、1月決戦の結果が注目される。

 米国の政治潮流の変化は日本の政治状況にも大きな影響を与える。日米の政治状況が転換され、新年の日本に新しい希望の光が射しこむことが期待される。

2007年12月28日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀

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