コラム

今週の内外政治経済金融情勢の展望

 米国での株価調整に連動した日本の株価が7−8月と10−11月に発生した。日経平均株価は本年7月9日の18,261円から8月17日の15,273円へ、2,988円、16.4%下落したが、10月11日の終値17,458円から11月21日の14,837円へも2621円、15.0%下落した。極めて類似した株価下落が生じた。
 私は日経平均株価の14000円台への下落を「大型の投資チャンス」と判断して、『金利為替株価特報2007年11月22日号=055号』に記述した。11月下旬以降、米国市場に連動して日本の株価も反発した。日経平均株価は12月7日終値で15,956円に反発、11月21日から半月で、1,119円、7.5%上昇した。

 株価上昇では銀行や不動産の株価上昇が顕著だった。低PERにもかかわらず、商社株の反発は小さかった。株価上昇の特性を考慮する必要がある。
 金融相場的な色彩が強くなるのか、業績相場的な色彩が強くなるのかを見極める必要がある。米国経済が一段と減速する場合、株価上昇が続くとすれば金融相場的な色彩が強くなる可能性が高い。米国の景気が予想以上に堅調である場合には業績相場的な色彩が濃くなるだろう。
 米国経済と米国株式市場の基調判断がきわめて重要である。12月7日に発表された米国11月雇用統計では、非農業部門の雇用者が9.4万人増加した。事前の市場予想7万人増を超過した。米国経済は住宅市場の調整から減速傾向を示しているが、現段階では依然として底堅さを維持している。

 欧州ではECB(欧州中央銀行)が12月6日の定例理事会で、政策金利を4.0%に据え置くことを決定した。ユーロ圏13ヵ国の11月の消費者物価上昇率が3.0%と、ECBの設定目標2%を大幅に上回ったことを受けて、利上げ観測も生じたが、ECBは金利据え置きを決定した。
 米国のサブプライムローン問題に端を発する金融市場の動揺が続いており、欧州の利上げが米国金融市場を動揺させる原因になりかねず、欧州自身も金利引上げがユーロのさらなる上昇を招くことを回避したいとの考えを有していることが、金利据え置きの背景になったと考えられる。

 一方、英国中央銀行のBOE(Bank of England)は、12月6日の金融政策委員会で政策金利を0.25%引き下げて、年5.50%にすることを決めた。2005年8月以来、2年4カ月ぶりの利下げである。米国のサブプライムローン問題が波及して、英国の個人消費や住宅市場などの実体経済に悪影響が出始めていることを重視して利下げが決定された。2006年8月以降の金融引き締めに終止符が打たれ、利下げ政策が始動した。
 英国では住宅金融大手のノーザンロックの経営危機が表面化して売却交渉が進展しているが、英国金融政策当局がサブプライムローン問題に揺れる金融市場に強い配慮を示していることが明確に示された。

 BOEが利下げに動いたことで、ECB(欧州中央銀行)の利上げ政策には強い制約がかかることになる。金融市場の動揺が収束し、米国経済の下方リスクが解消すれば、各国金融政策は自由度と独立性を取り戻すが、二つの不安がくすぶる間、金融引締め措置の決定には重大な覚悟が必要となる。ECBの政策決定への大きな重しを提供する今回のBOE利下げ決定である。
 福井日銀総裁は12月3日の記者会見で、「長い目で見て低金利による上振れリスクがある」と強調し、中期的な金利引上げの方針を表明したが、現状では利上げを決定できる条件は整っていない。日本経済減速のリスクが存在し、低金利が持続する可能性が高まっている。

 米国の金融政策スタンスは金融危機シフトを強め、12月11日のFOMCでは3回連続の利下げが決定される見通しである。12月7日の雇用統計が景気の底堅さを示し、賃金上昇率も高かったことから、0.5%幅での利下げが決定される可能性は後退したが、FRBの柔軟な政策姿勢は維持される可能性が高い。FOMC後の声明で追加利下げの可能性について、どのようなメッセージが示されるかに注目が集まる。
 NYダウは11月26日に12,743ドルまで下落し、先行き悲観論が広がった。流れの転換のきっかけになったのが、アブダビ投資庁による米国大手金融機関シティーグループに対する出資のニュースだった。その後、FRB幹部から「柔軟な」金融政策の対応についての発言が相次ぎ、市場の不安心理が大幅に後退した。私が一貫して強調してきたのは、危機に対応する米国政策当局の能力が極めて高いことである。安易な楽観は許されないが、米国の政策対応能力の高さを十分に認識すべきである。

 OPEC(石油輸出国機構)は12月5日にUAE(アラブ首長国連邦)の首都アブダビで総会を開き、原油増産の見送りを決めた。増産見送りによって原油価格の一段の高騰が懸念されるが、イラン情勢が変化して中東有事懸念が後退した点を見落とせない。
 12月3日、米情報機関分析「国家情報評価(NIE)」が、イランが2003年秋に核兵器開発を停止していたことを明らかにした。イランの核開発疑惑が薄れたため、米国の対イラン強硬策が見直される可能性が高まっている。湾岸有事懸念の後退は原油価格を下落させる要因として作用する可能性が高い。

 中国では、12月3日から5日、中国・北京で中央経済工作会議が開催された。中国共産党・政府は2008年の経済政策の基本方針として金融引締め政策を一段と強化することを決定した。これまで本コラムで指摘してきた中国の金融引締め政策が正式に方針として示された。
 中国人民銀行は「人民元高がインフレを抑制する効果がある」とも指摘しており、今後の人民元切上げが注目される。

 日本では、12月3日発表の2007年7-9月期の法人企業統計で、企業の経常利益と設備投資の減少が示された。全産業の経常利益が5年ぶりに減少した。全産業の設備投資も2四半期連続で減少した。
 12月14日に日銀短観12月調査が発表される。大企業業況判断が9月調査比で悪化することが予想されている。住宅投資減少、個人消費の低迷持続のなかで、企業部門の先行き見通しが悪化すれば、景気の下方屈折の可能性も浮上する。十分な注視が必要になる。

 今週、国内では10日(月)に10月機械受注統計、11月景気ウォッチャー調査、14日(金)に日銀短観12月調査結果が発表される。米国では12日(水)に10月貿易収支、11月財政収支、13日(木)に11月卸売物価指数、11月小売売上高、14日(金)に11月消費者物価指数、11月鉱工業生産が発表される。またFOMCが11日(火)に開催され、声明も発表される。
 また、中国では10日(月)に11月卸売物価指数、11日(火)に11月消費者物価指数が発表される。

 国内政局では、福田政権が新給油法案で新テロ特措法の取り扱いをめぐり、臨時国会の会期を2008年1月中旬まで再延長するかが焦点になっている。会期の再延長は衆議院での3分の2以上の賛成による新テロ特措法の再可決を念頭に入れた対応で、野党は福田首相の問責決議を参議院で可決すると見込まれ、衆議院の解散総選挙の可能性が高くなる。

 国会の再延長を見送る場合、新テロ特措法は廃案となり、通常国会に再提出されることになる。福田首相が解散総選挙の覚悟を固めるかどうかが焦点だが、極めて優柔不断な姿勢がうかがえる。民主党は解散総選挙に向けて、万全の対応を加速させなければならない。日本の真の改革実現には政権交代が不可欠である。米国隷属、官僚支配の現状を打破し、「日本国民の日本国民による日本国民のための政府」を樹立するために、野党は次期総選挙に必ず勝利しなければならない。福田首相が決戦に挑む覚悟を固めることが望まれる。

2007年12月10日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀

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