コラム

今週の内外政治経済金融情勢の展望

 『金利為替株価特報2007年11月22日号=055号』第5章「投資戦略」に、「人のゆく裏に道あり花の山」の格言を記述した。「日本の株式市場は大型の投資チャンスを迎えている。日経平均株価が14,000円を下回る可能性は低いと考える。日経平均株価14,000円台の期間が優良な投資チャンスである。大幅に価格調整した銀行、商社、不動産などの押し目を狙うことは検討に値する」と記述した。
 米国での株価調整の影響を受けて、日本の株価も調整した。日経平均株価は10月11日の戻り高値17,458円から、11月21日の14,837円へと2,621円、15.0%下落した。本年7月9日の18,261円から8月17日の15,273円にかけての、2,988円、16.4%の株価下落に近似する株価下落になった。私は、短期循環的な株価変動の視点から、日経平均株価の反発を予想し、優良な投資チャンス到来との判断を示した。

 東証第1部上場企業の2008年3月期予想利益を前提にした株価収益率(PER)は約17倍である。株式益利回りは5.87%だ。10年国債の利回りを1.5%とすると、利回り格差は4.4%に達する。株式の利回りは著しく高い。換言すれば株価が著しく安いのである。
 一般的にPERが国際間で単純比較されることが多いが、この判断は誤りである。株式利回りは債券利回りと比較されるべきもので、利回りを国際比較する場合には、予想インフレ率を差し引いた実質利回りで比較しなければならない。

 日本企業の株価は東証第1部に限らず、ジャスダック市場まで含めて、全市場で理論的見地から見れば割安な状態に置かれていると判定できる。それでも、これまでの日本市場は米国市場との連動性が強く、米国市場で株価が調整すれば、日本市場も調整を免れなかった。
 それが、ここに来て、日本市場の米国市場離れを示唆する変動が生じていることに留意が必要だ。11月22日にはNY市場での株価大幅下落にもかかわらず、日本の株価は底堅く推移した。

 米国のサブプライムローン問題の影響、アジアなどの新興国市場の動向など、チェックしなければならない事項は多いが、大きな押し目を形成した日本の株式市場に大きな投資チャンスが広がっている可能性を見落とさない冷静さが求められている。

 本年の金融市場では、米国のサブプライムローン問題に関連する金融機関の巨額損失が明らかになるにつれて、その影響がボディーブローのように広がってきた。本年の米国株式市場の調整は三次にわたって繰り返された。2-3月、7-8月、10-11月の三度である。
 2-3月は中国上海市場の株価下落がきっかけだが、世界同時株価下落が生じるなかで、米国のサブプライムローン問題に対する認識が広がった。7-8月はサブプライムローンを組み込んだファンド資産の損失が顕在化して混乱が広がった。FRBの機動的な対応が混乱を収束させた。10-11月はFRBによる機動的な政策対応だけでは問題解決が得られないのではないかとの懸念が広がるなかで、金融市場の混乱が広がり、不安定性が世界に伝播した。

 NYダウは11月26日に12,743ドルまで下落し、先行き悲観論が広がった。こうしたなかで、流れの転換のきっかけになったのが、アブダビ投資庁による米国大手金融機関シティーグループに対する出資のニュースだった。さらに、11月29日、コーンFRB副議長が利下げに前向きの発言をして、NYダウが大幅上昇した。米国政策当局および金融機関の「柔軟な」対応が注目される。
 株価が急落すると世の中は悲観論一色に染まる。経済専門紙も、かねてより悲観論を主張し続けてきたかのように論調を悲観色に染める。だが、世の中が悲観色に染め抜かれた時が「陰の極」となることも少なくない。このような局面こそ、洞察力が問われるのである。

 米国のサブプライムローン問題の根は深いと思う。しかし、問題に対処する米国金融機関および政策当局の対応力が向上していることも見落とせない。安易に悲観論に加担せずに、状況をしっかりと見極める視点が重要だと考えられる。

 日本では、11月29日に発表された本年10月の鉱工業生産指数が季節調整後112.1、前月比+1.6%上昇を記録して、史上最高値を更新した。また、2007年度の企業の設備投資計画も2006年度比10%程度の増加が見込まれている。住宅投資の急減、個人消費低迷の問題を抱えてはいるが、日本経済が拡大基調を維持していることが確認された。
 米国経済、金融市場、中国、インドなどの新興国市場の動向に十分な留意が必要だが、日本経済の粘り腰が現段階ではまだ強いことを認識しておく必要がある。

 今週、国内では6日(木)に10月機械受注統計が発表になる以外に大きな経済指標の発表が予定されていない。12月14日(金)に発表される日銀短観11月調査結果が注目される。米国では3日(月)に11月ISM製造業景気指数、11月自動車販売台数、5日(水)に11月ISM非製造業景気指数、7日(金)に11月雇用統計が発表される。雇用統計が最大の注目材料である。
 また、欧州では6日(木)にECB(欧州中央銀行)定例理事会が予定されており、政策金利を引き上げるかどうかが注目される。EU13ヵ国の物価上昇率が3%に達してインフレ警戒感は強まっているが、ECBは世界の金融市場が動揺していることを考慮して利上げを見送る可能性が高いと考えられるが、予断を持つことはできない。重要な注目点である。

 国内政局では、3日(月)に予定されていた額賀福志郎財務相に対する参議院での証人喚問が中止になった。政府、与党、メディアは民主党攻撃の格好の材料を手にして、民主党攻撃を繰り広げているが、防衛省を舞台とした政・官・業の癒着の構造についての真相解明は重大な課題として存在し続けている。真相解明に民主党が果たすべき役割は依然として大きい。
 民主党は次期総選挙に向けて、候補者調整、野党共闘、マニフェスト提示を急がなければならない。米国に支配され、また、米国に隷従する日本の政治状況を根本的に改変する最後のチャンスが次期総選挙である。メディアが政治権力に支配されていることを明確に認識したうえで、民主党もメディア戦略を十分に検討してゆかなければならない。次期総選挙で政権交代を実現し、「日本国民の日本国民による日本国民のための政府」を樹立することが現下の至上命題である。

2007年12月3日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草一秀

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