コラム

今週の内外政治経済金融情勢の展望

 NYダウは10月1日に史上最高値を更新した。10月1日終値は14,087ドルで、7月19日終値14,000ドルを2ヵ月半ぶりに上回った。私は本コラムで6月以降の株価調整を警告し続けた(5月28日付コラム6月4日付コラムなど参照)。その背景に3月から5月にかけての株価上昇の速度が速すぎるとの判断があった。
 米国株式市場は6月から高値波乱局面に移行して乱高下するなかで、7月19日に史上最高値を記録したのちに急落した。8月16日には、12,845ドルに下落した。信用力の低い個人に対する住宅ローンであるサブプライムローンの焦げ付き問題が表面化し、米国住宅市場、信用市場の混乱が拡大するとの警戒感が広がった。また、原油価格が1ドル=80ドルを突破し、金利引下げ期待が後退したこと、米国経済の先行き不安が広がったことなどが重なり、株価調整が生じた。

 本コラムでは、米国株式市場の調整に連動する日本の株式市場の調整にも警戒を呼び掛けた。日経平均株価は7月9日に18,261円の高値を記録したのちに急落し、8月17日に15,273円の安値を記録した。NYダウの下落が7月19日高値から8月16日安値までで8.3%だったのに対して、日経平均株価の下落は7月9日高値から8月17日安値までで16.4%に達した。
 サブプライムローン問題に対する警戒心が広がるなかで、先行き悲観論が台頭した。世界の株式市場の下落、世界経済の調整を警戒する論調が一気に広がった。しかし、私は一貫して今回の株価調整が、株式市場のトレンドを上昇から下落に転じさせる契機にはならないとの見解を示し続けた。内外株式市場は一時的に調整局面を経過するが、調整完了後は反発に転じる可能性が高いとの見解を表明し続けてきた。
 NYダウが史上最高値を更新したことで、これまでの予測が適正であったことがとりあえず確認された。

 私が米国株式市場の基調は堅調であるとの予測を示し続けてきた根拠については『金利・為替・株価特報2007年10月6日号=052号』=『本誌が米国株価堅調持続を予測した鍵』を参照いただきたいが、基本的には金融政策を中心に米国の経済政策が適切に運営されていることが最大のポイントである。
 米国では不動産価格が下落に転じている。不動産価格の下落は住宅投資を減退させ、個人消費に強い下方圧力を与える。また、不良債権問題を発生させる。どの程度の影響が広がるかについては、今後の経済指標の推移を慎重に見定めなければならない。この意味で、米国経済の先行きに対する警戒感を持たねばならないことは当然である。グリーンスパンFRB前議長は米国経済が景気後退に陥る確率をこれまでの3分の1から50%以下に引き上げた。米国経済が調整局面に陥るリスクは低いものではない。

 ただ、そのなかで私が米国株式市場の堅調が維持されると考える根拠は、事態の悪化を緩和する政策対応が今後も実行され、経済主体の心理の悪化が最小限に食い止められる可能性が高いと考えている点にある。これまでのところ、政策はかなり巧みに運営されている。
 9月11日付本コラムで私は、9月18日の米国FOMC(連邦公開市場委員会)でFRBはFFレートを5.25%から4.75%へと0.50%引き下げる可能性が高いと記述した。市場では0.25%引下げ予想が多数派だったが、FRBは0.50%引き下げに踏み切った。株価は大幅に上昇し、10月1日には史上最高値を更新した。バーナンキFRB議長がマーケット心理を読み抜く技量を備えていることが改めて示された。
 8月31日付本コラム9月11日付本コラムで、9月中旬まで株式市場の調整に警戒が必要だが、その後反発に転じる可能性が高いとの見通しを示した。内外株式市場の調整が2006年央の調整と規模、期間で類似したものになる可能性が高いことを想定してきた。これまでの市場動向は予測通りのものとなっている。

 10月1日に発表された日銀短観2007年9月調査では、大企業の業況判断が前回6月調査とほぼ横ばいであることが示された。調査が実施された8月末から9月末にかけて、米国のサブプライムローン問題を契機とする金融・資本市場の混乱、原油価格高騰、政局混乱が重なり、企業心理の悪化が懸念されたが、調査結果は事前の市場予想よりも強いものになった。
 ただし、先行き見通しは大企業製造業で4ポイントの悪化が示された。また、中小企業の業況判断DIは製造業で5ポイント、非製造業で3ポイント悪化した。中小企業非製造業の業況判断DIはマイナス10であり、不況水準に落ち込んでいる。

 大企業の業況は好調であるが、中小企業の業況は悪い。中小企業の「建設」、「小売」、「飲食・宿泊」が地方の街角経済を代表するが、これらの業種の業況が著しく悪化している。また、軽工業の業況も非常に悪い。小泉・安倍政権が推進してきた「改革」政策の根幹は「市場原理主義」であり、「格差問題」を生み出し、拡大させてきた。
 地方、競争力の乏しい産業、一般労働者が疲弊し、格差がますます拡大している。地方経済の活性化、競争力の乏しい産業の構造転換、労働者を守る分配政策の変革が求められているが、まったくその検討が行われていない。

 ただし、マクロ的視点から日本経済を見る限り、設備投資の強さが経済成長をしばらく支える姿が見えている。日銀短観調査での2007年度設備投資計画では全規模・全産業のソフトウェアを含み土地投資を除くベースで、前年比6.8%増と2006年度の7.9%増に近い水準の伸びが見込まれている。
9月28日に発表された8月鉱工業生産指数は季節調整後前月比3.4%増の111.8ポイントとなり、2006年12月の水準を上回り、史上最高値を更新した。日本経済は米国経済の失速がなければ、なお暫く緩やかな成長を持続する可能性が高まっている。

 10月5日に発表された米国9月雇用統計では、非農業部門の雇用者が11万人増加した。同時に、8月雇用者が4000人減から8.9万人増に、7月雇用者が6.8万人増から9.3万人増に上方修正された。合計で11.8万人の雇用者増加が示された。9月7日発表の米国雇用統計が4年ぶりの雇用者減少を示し、NYダウを急落させたが、その統計が大幅に上方修正された。
米国経済は減速しているが、リセッションには陥っていない。米国経済はこれからクリスマス商戦の時期を迎える。消費者心理が非常に重要な意味を持つことになる。

 今週、米国では9日(火)に9月18日のFOMCの議事録が公表され、12日(金)に9月卸売物価指数、9月小売売上、10月ミシガン大消費者信頼感指数が発表される。FRB関係者の発言機会としては、9日(火)にプール・セントルイス連銀総裁講演、イエレン・サンフランシスコ連銀総裁講演、ピアナルト・クリーブランド連銀総裁講演、10日(水)にローゼングレン・ボストン連銀総裁講演、11日(木)にクロズナーFRB理事講演、12日(金)にバーナンキFRB議長、フィッシャー・ダラス連銀総裁、イエレン・サンフランシスコ連銀総裁の発言が予定されている。
 日本では、9日(火)に9月景気ウォッチャー調査、10日(水)に9月工作機械受注、11日(木)に8月機械受注、12日(金)に9月消費動向調査が発表される。また、日銀は10-11日の日程で金融政策決定会合を開催し、11日(木)の午後3時30分より福井日銀総裁が記者会見を行う予定である。

 米国経済の底堅さが確認され、NY株価が堅調に推移し、日本経済の失速懸念も後退していることから、日本の株式市場は堅調な推移を示す可能性が高い。私は本コラムでも本年8、9月の株価下落局面は中期的に優良な投資チャンスとなる可能性が高いと指摘してきたが、予測通りの市場推移が示されていると判断する。
 為替市場ではドルの買い戻しが強まり、ドル強含みの推移が予想される。内外長期金利は経済の堅調さを背景に上昇圧力を受けやすくなる。日銀は年内に3度目の金利引上げを決定する可能性がある。11日(木)の福井総裁発言に注意が必要だ。具体的な投資戦略、銘柄選択については『金利・為替・株価特報』をご活用いただきたい。

 福田康夫首相は10月1日に所信表明演説を行った。臨時国会での本格審議が始まる。福田政権にとって最初の試金石となった政府系金融機関のトップ人事が示されたが、財務省からの天下りを完全に温存するスタンスが明確に示された。一般労働者、若年貧困層、高齢者、障害者、母子世帯、中小零細企業、地方経済に対する諸施策を切り捨て、官僚利権を温存する「改革」政策が継承されることが確実になっている。
 民主党は「障害者自立支援法改正案」、「年金保険料流用禁止法案」、「政治資金規正法改正案」を国会に提出するが、具体的な政策を国民に強くアピールすべきである。「テロ特措法」に関しては、これまでインド洋上で自衛隊によって給油された燃料がイラク戦争などに流用されていなかったのかどうかが、最大の焦点になる。また、民主党は官僚利権の本丸である「天下り」に対してどのような根絶を目指すかについて、具体案を示すべきである。

 9月の政治空白は郵政民営化を凍結されないために仕組まれた可能性も強い。郵政民営化が利用者に甚大な不利益を与え、米国に巨大な利益を与える実態を日本国民はこれから知るようになるが、日本の歴史にまた重大な汚点が印されてしまった。米国シティーグループによる日興コーディアル証券の三角合併による完全子会社化のニュースが伝えられたが、会社法改正が何を目的にして強行されたのかとの疑問に対する象徴的な回答が示されたわけだ。日本政府の米国隷従外交路線を一刻も早く糺さなければ、日本の植民地化はますます進展してしまうことになる。

2007年10月9日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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