コラム

今週の内外経済金融情勢の展望

 米国株式市場でNYダウが史上最高値を更新した。7月16日(月)には13,950ドルと14,000ドルの大台寸前まで上昇した。7月12日(木)には4年強ぶりの大幅上昇となる前日比283ドルの上昇を示した。12日(木)に発表された小売各社の6月売上高が市場予想よりも強く、個人消費の先行きに対する強気見通しが広がる一方で、スタンダード&プアーズが格下げ方向で見直すと表明していた住宅ローン担保証券の規模を120億ドルから70億ドルに下方修正したことが好感された。低所得者向けの住宅ローンであるサブプライムローンの焦げ付きやヘッジファンドの損失が懸念されているが、この問題の深刻さに対する否定的な見直しが生じたことが株価上昇の大きな背景になった。
 筆者は米国経済がインフレ抑止と成長持続を両立させる可能性が高いことを予測してきた。インフレの未然防止に軸足を置くFRBの巧みな政策運営が成果をあげていることを重視してきた。現状でもこの基本見通しを維持している。米国株式市場の基調は堅調であると考える。

 しかしながら、懸念材料が存在しないわけではない。原油価格が上昇傾向を維持しており、7月17日現在、WTI先物価格は1バレル=74ドル台に上昇している。昨年7月に記録した1バレル=78ドルの史上最高値まで4ドルの水準に上昇している。
 米国経済の懸念要因はサブプライムローンの焦げ付き問題が拡大して、景気が失速してしまうことに傾きかけているが、他方で、インフレの確実な抑制は金融市場の変わらぬ関心事項である。エネルギー価格、食料品を除く物価指数(コア物価指数)の上昇率は消費者物価の場合、FRBは1-2%を許容範囲としているが、昨年半ばには3%に接近する状況にあった。金融市場のインフレ懸念が強まり、株式市場も調整を演じた。

 FRBは2004年6月から2006年6月にかけて1.0%のFFレートを5.25%にまで引き上げた。4-5%のFFレートを中立水準とすると、若干引締め的な水準にまでFFレートは引き上げられた。コア消費者物価指数の上昇率は低下傾向を示し、前年比上昇率が2%台前半にまで低下してきている。
 米国のインフレ抑制については全般的な安心感が広がっていると言える。この安心感が株価上昇を支えていると考えることができる。しかし、原油価格が大幅に上昇しているため、エネルギー価格や食料品を含む総合的な物価指数は再び上昇傾向を示している。原油価格とインフレ懸念は依然として金融市場の重要なリスクファクターなのである。

 今週、18日(水)、19日(木)にバーナンキFRB議長が上下院で半年に一度の議会証言を行い、経済見通しと金融政策について証言する。10日(火)の講演で総合的なインフレ指標を重視するとの発言を示しており、原油価格上昇下の米国のインフレ情勢に対して警戒的な文言を盛り込んでくる可能性がある。
 バーナンキ議長は昨年7月19日の議会証言で、中期的なインフレ懸念に対して楽観的な見通しを示した。筆者はバーナンキ発言が金融市場の流れを転換させることになることを予測して、『金利・為替・株価特報』に記述した。結果的に米国株式市場、金融市場は昨年7月19日を転換点にして長期金利低下、株価上昇の反応が生まれた。不安定な株式市場動向を踏まえて、過度の悲観論を払拭する議会証言だった。

 米国株価の上昇速度が非常に速い。本年3月上旬の12,000ドル水準から4ヵ月で17%近い上昇を示している。バーナンキ議長が米国経済の中期的な安定的拡大を誘導するために、過度の楽観論を抑制するための発言を示す可能性があることに注意を払うべきである。
中期的な米国経済のソフトランディングの可能性は高いと考える。しかし、金融市場の短期的な行き過ぎには警戒が必要である。今週の最大の注目材料はバーナンキFRB議長の議会証言である。

 米国では17日(火)に6月卸売物価指数、6月鉱工業生産指数、18日(水)に6月消費者物価指数、6月住宅着工、着工許可件数が発表される。また、バーナンキFRB議長が18日(水)、19日(木)に上下両院で議会証言する。今週の最大の注目材料である。19日(木)には6月27-28日開催のFOMC議事録が公表される。
 国内では、17日(火)に7月月例経済報告、5月第3次産業活動指数が発表された。月例報告では「生産の一部に弱さが見られるものの回復している」と基調判断が8ヵ月連続で据え置かれた。これ以外に重要な経済指標の発表は予定されておらず、4-6月期の企業業績の開示に関心が寄せられる。

 為替市場では、米国の金融政策、日本の金融政策に関心が注がれる。日本では8月の短期金利引上げが予想されている。米国ではバーナンキFRB議長が米国経済、インフレ懸念、金融政策にどのような表現をするのかに関心が注がれる。
 債券市場では内外の金融政策動向をにらんだもみ合いが予想される。原油価格とFRBの政策スタンスをにらんだ展開となると見られる。

 国内政治は7月29日(日)の参議院選挙に向けた各党の駆け引きが本格化する。与党が強引に進めた(1)社会保険庁改革、(2)公務員制度改革、(3)政治資金法改正はいずれも羊頭狗肉の見かけ倒しの政策である。十分な審議を尽くさぬ社会保険庁解体は同庁の無責任体質をさらに拡大させる可能性が高い。公務員制度改革は天下りの全面禁止ではなく、天下りの制度的存続を保証する法律改正である。政治資金法改正は赤城農水相の事務所費問題が表面化して再び明らかになったように、領収書添付が5万円以上、政治資金管理団体のみを対象として政治団体を対象からはずす「ざる法」の典型である。

 経済的格差は拡大し、格差が固定化されている。政府が進めている財政再建のための歳出抑制は医療、介護、年金、教育、障害者支援などを直撃し、格差拡大を牽引するものである。「消えた年金」問題で、政治に対する国民不信が噴出するなかで、野党がこれらの問題について、いかに分かりやすく具体的に国民に真実を伝えられるのかが問われている。
 小沢一郎民主党代表が表明するように、今回の参議院選挙は自民党長期支配の日本の政治状況を大転換できるかどうかの最大の試金石である。政治の諸問題に真摯な眼を向けて真剣な姿勢で参議院選挙に臨むことが有権者の責務である。日本の有権者の資質が問われる選挙でもある。大幅な与野党逆転を金融市場は中期的に確実に好感することになると考えられる。

2007年7月17日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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