コラム

今週の内外経済金融情勢の展望

 米国金融市場は景気失速懸念とインフレ懸念の行方を見定めようと揺れ動いている。先週は景気失速懸念が後退したが、逆に景気の地合いが予想以上に堅調で早期の金利引き下げ期待が後退して株価が反落した。景気失速は避けたいけれども、強すぎる景気はインフレ懸念を残存させ、長期金利上昇、警戒的なFRBの金融政策運営を予想させ、株価下落要因になる。それでも、週末に発表された中古住宅販売が弱く、週末に株価は持ち直した。今週も景気、インフレ懸念の行方を見定めるなかで株式市場は一進一退を継続すると考えられる。
 日本市場はNYダウが21日(月)から24日(木)まで4日連続下落したことを受けて25日(金)に日経平均株価が215円下落した。景気の先行きに不安が残るなか、米国株式市場の動向に神経質な展開が続いている。それでも、週末には新興企業市場の株価に底堅さが見られ始めており、新興企業株価反転の可能性が徐々に高まりつつある。

 今週は週末の6月1日(金)に米国5月雇用統計が発表されるため、米国市場は大きく動きにくい状況が予想される。国内株式市場では週初に堅調な動きが予想されるが、その後は米国株式市場を睨んだ展開に切り替わると予想される。 
 グリーンスパン前FRB議長が23日(水)に「中国株にはいずれ劇的な収縮が起こる」と発言した。上海株価指数は昨年11月以来の半年間で2倍以上の上昇を示しており、いずれかの時点での株価反落が予想される。市場はグリーンスパン発言を受けて強い警戒感を持って進むことになると考えられる。
 米国の早期利下げ期待が後退したことを受けて、米国長期金利が上昇傾向を示している。主要国の長期金利は国際間の金利裁定から米国金利との連動性を強く有しており、日本を含めて長期金利の上昇傾向が観測されている。長期金利上昇は株価下落要因になるため、長期金利の動向からも目を離せない。

 24日(木)に発表された米国4月耐久財受注は市場予想の前月比+1.0%を下回る前月比+0.6%となった。振れの大きな輸送機器の減少が予想を下回った要因だ。米国経済失速を示唆する内容とはならなかった。同日発表された4月新築1戸建て住宅販売は事前予想を大幅に上回る前月比+16.2%、年率98.1万戸となった。前年比では-10.6%だが、住宅市場底入れとの観測が急速に広がることになった。米国景気失速懸念の後退がFRBによる早期金利引下げ観測を後退させ、長期金利上昇、株価下落の反応を生んだ。
 しかし、25日(金)に発表された4月米国中古住宅販売は前月比-2.6%となり、2003年6月以来の低水準を記録した。行き過ぎた景気楽観論が後退し、インフレ懸念も沈静化し、株価も反発した。原油価格も1バレル=60ドル台で一進一退の推移を続けている。しかし、先週は週のなかばにWTIが1バレル=65ドルを超えており、市場のインフレ懸念は依然として根強く残存している。米国経済の地合いの強さを反映して、利下げ期待が後退し、長期金利がやや強含むなかで、株価に弱い下落圧力がかかる状況が暫く残存することが予想される。

 日本では、25日(金)に4月全国、5月東京の消費者物価指数が発表された。生鮮食品を除くコア指数の前年比上昇率は4月全国が-0.1%、5月全国が横ばいとなった。事前の市場予想通りの数値発表で市場に与える影響は限定的である。日銀による早期金利再引上げの可能性は高まっていない。それでも、米国長期金利が上昇した影響で、日本の長期金利も小幅上昇した。
国内株式市場は米国市場の動向を神経質に眺めながら、一進一退の推移を続けているが、新しい市場の変化として、新興企業市場の株価の底堅さが観測され始めていることを指摘できる。新興企業市場の株価が堅調に転じれば、個人投資家の動きが活発になることが予想される。今週の新興企業市場の株価動向が注目される。

 今週28日(月)は、米国株式市場がメモリアルデーで休場になる。米国では、31日(木)に2007年1-3月期GDP改定値、5月シカゴ購買部協会指数、6月1日(金)に5月雇用統計、4月個人所得、個人消費支出、PCE価格指数、5月ISM製造業景気指数が発表される。GDP成長率は速報値の1.3%成長が0.8%成長に下方修正されることが予想されている。市場の関心は週末の雇用統計とPCEコア価格指数に注がれる。強い経済状況とインフレ懸念を示唆する数値の発表は金利引き下げ期待後退と長期金利上昇をもたらすことから、株価下落要因と受け止められやすい。
 米国経済のソフトランディングの可能性は高く、米国株価のトレンドは堅調が予想されるが、3月から5月にかけての株価上昇のスピードが速かったことを踏まえれば、利下げ期待後退に伴う株価調整が生じる可能性を念頭に入れておくべきと思われる。

 日本では、29日(火)に4月失業率、有効求人倍率、30日(水)に4月鉱工業生産指数、31日(木)に4月勤労統計、6月1日(金)に5月新車販売が発表される。鉱工業生産指数の市場の事前予想は前月比+0.5%である。日本経済の減速懸念が存在しており、事前予想に対して発表値がどのように振れるかが注目される。
 日本の株価は東証第1部上場企業の場合、株式の益利回りが5%程度の水準にある。10年国債の利回りが2%程度であることを考えると、株価は著しく割安な状況に置かれている。日本の株式に対しては、押し目買い継続の戦術で臨むことが求められる。今週は新興企業市場の株価の反発力が占われる。米国株式市場、長期金利動向をにらみながら、日本の株式市場の底堅さが試されることになる。

 中国株式市場の動向に常に注意を払う必要が生まれている。常に警戒姿勢を怠れない。為替市場では、米国での利下げ期待後退からドル堅調の地合いがなお継続する可能性が高い。米国の経済指標、インフレ懸念、FRB関係者の発言、原油価格動向を引き続き注視する必要がある。

 国内政局では、7月22日の参議院選挙に向けて与野党の攻防が今後激化してゆくことが予想される。社会保険庁による年金データ消失問題は極めて重大である。与党は社会保険庁を組織変更する法律案を成立させようとしているが、新しい組織においても職員の給与は税金で賄われる。その一方で、新機関からの天下りは制限されない。国民からの監視が甘くなり、天下りなどが温存されるなら、改悪と言わざるを得ない。野党が与党案をいかに的確に攻撃できるかが問われている。年金制度改革問題が参議院選挙の争点に浮上するなら、政局の大転換の可能性も浮上してくる。

2007年5月28日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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