コラム

今週の内外経済金融情勢の展望

 先週発表された米国の3月住宅着工件数は前月比+0.8%で市場予想を上回った。また、消費者物価上昇率は前月比+0.6%、前年比+2.8%、焦点のコア指数(食品・エネルギーを除く)は前月比+0.1%、前年比+2.5%となった。コア指数前月比上昇率の市場予想は+0.2%だった。住宅着工は落ち着いた動きを示し、物価統計も基調が落ち着いていることを示す内容だった。
 米国株価はインフレなき成長持続の可能性を評価して上昇した。NYダウは史上最高値を更新して4月20日には12961ドルと13000ドルまで39ドルの地点まで上昇した。金融政策がインフレの未然防止を基礎に据えて実施されていることが最大の安心材料である。

 日本の株式市場は米国との連動性を強く保持しており、堅調な推移を続けているが、生産活動が本年1-3月期に横ばいに転じ、財政政策が強度の緊縮を示しているために、景気の先行きに不透明感が浮上している。
 欧州景気は堅調で、ECB(欧州中央銀行)は6月にさらに金利引上げを実施する可能性が高い。ユーロの堅調が持続する公算が高い。円・ドルレートは日米実質短期金利差からドルが堅調に推移している。いずれかの時点で米国金融政策が緩和に転じると予想され、その時点でのドル買いポジションの手仕舞により、急激な円高、ドル安が生まれる可能性がある。

 米国のインフレ懸念は抑制されている。市場はコアインフレ率を注目している。消費者物価のコア指数は昨年10月から本年3月までの6か月のうち、4か月が前月比0.1%の上昇だった。卸売物価においてもコア指数は落ち着いている。
 ただし、原油価格が1バレル=60ドル台で推移しており、エネルギー価格を含めた物価全体ではインフレ警戒感が残存している。17日に講演したフィラデルフィア連銀のブロッサー総裁は「米国のインフレは不快なほど高く、警戒が必要」と述べた。3月20-21日のFOMC(連邦公開市場委員会)でも「一段の金融引締めが必要になる可能性」が示唆された。

 市場のインフレ警戒感はまだ払拭されていない。他方、住宅着工件数は前年比では2割から3割減少しているが、減少が強まってはいない。先週から本格化した本年1-3月期の企業決算で好調な数値が発表されており、市場は経済の先行きに楽観的な観測を保持している。
 ただし、17日に発表された米国の3月鉱工業生産指数は前月比-0.2%となり、本年1-3月の生産足踏みを示している。過度の警戒感は不要だが、経済の下方リスクが存在することは念頭に入れておく必要がある。米国経済についての楽観論の最大の背景はFRBの金融政策に対する信頼感である。景気悪化の兆候が広がれば、FRBは金融緩和政策を実施すると見込まれる。リスクは原油価格である。金利引上げが必要な局面で原油価格が高騰すれば、利下げを実施できなくなる。今後の経済指標と原油価格情勢に注視が必要だ。

 日本では、2007年3月期の企業決算発表が本格化する。2007年度も全体としては増益が見込まれるが、企業の業績見通しでは慎重な数字が示される可能性も高い。輸出関連企業では、為替レートの見通しを円高に置くと業績見通しが低く抑えられる傾向がある。企業業績に対する慎重な見方がどの程度示されるかが注目される。
 経済政策運営では目立った変化が生じていない。財政は強度の緊縮運営が続いており、今後の外部環境の変化によっては修正を迫られる局面が生じる可能性がある。金融政策は落ち着いた状況にあるが、一部に4-6月期の追加利上げ予想があり、日銀の動きから目を離せない。

 今週の注目材料としては、米国では24日(火)の4月消費者信頼感指数、25日(水)の3月耐久財受注、3月新築1戸建て住宅販売、27日(金)の2007年1-3月期GDP速報などをあげられる。GDP統計が最大の注目材料だ。市場は2%弱の成長率を予想しているが、予想を大幅に下回れば、ソフトランディング・シナリオが揺らぎ株価下落要因になる。
 FRB関係者の発言としては、25日(水)にバーナンキFRB議長の挨拶、26日(木)にイエレン・サンフランシス連銀総裁、フィッシャー・ダラス連銀総裁の講演が予定されている。また、25日(水)に地区連銀経済報告(ベージュブック)が発表される。FRBの政策方針を知る上で見落とせない資料である。

 日本では、27日(金)に重要統計の発表が集中する。4月全国、3月東京の消費者物価指数、3月失業率、3月家計調査、3月鉱工業生産指数、3月住宅着工戸数などが発表される。また同日、日銀が「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」を発表し、福井日銀総裁が会見する。金融政策は当面中立のスタンスで運営されると予想するが、会見に注視が必要だ。

 米国経済の底堅さと堅実なFRBの政策運営により、米国経済は安定的に推移している。米国株価は堅調に推移しており、これが日本の株式市場の最大の安心材料になっている。米国GDP統計が予想を大幅に下振れる場合には米国株価の調整が予想され、日本の株価への悪影響も懸念される。
 米国株価の堅調が持続する場合には、日本の株価の出遅れ感が強く認識されることになると考えられる。日本企業の2007年3月期決算発表を睨みながら、一進一退ながらも堅調な株価推移を期待できる。

 22日に投開票された参議院補欠選挙では沖縄では与党、福島では野党が勝利した。しかし、沖縄が接戦だったのに対して福島は野党の圧勝だった。7月22日に予想される参議院選挙では、公明党が現有の13議席を維持する場合、自民党が51議席を確保しないと与党は122議席の過半数ラインに届かない。前回2004年参議院選挙での自民党獲得議席は49議席であり、参議院選挙での与党過半数確保に向けての与野党決戦が今後本格化する。
 政府が検討している天下り制度改革の実効性は極めて疑わしい。民間の人材バンクが天下りを一元管理しても、政府が関与するのであれば、これまでと同じ結果がもたらされることは間違いない。政府の広報機関と化している大手メディアは天下り制度改革の政府案を高く評価するが、実態を厳しく見る目が必要だ。

 野党は7月参議院選挙に向けて、天下り制度改革の対案をしっかり示すべきである。また、格差拡大のなかで弱者を保護する政策の重要性を改めて提示すべきである。また、経済成長持続のための政策プログラムも提示する必要がある。野党が有権者に真正面から訴える政策をしっかりと提示することが政治状況の転換をもたらす契機になる。野党の精力的な対応が期待される。

2007年4月23日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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