コラム

今週の内外経済金融情勢の展望

 先週末にワシントンで開催されたG7では、円安が大きな問題とはされず、EU経済の堅調さとECB(欧州中央銀行)の利上げ継続の方向、米国経済が減速しつつも堅調を維持する見通しなどが示された。G7の共同声明では、世界経済はリスクを持ちながらも過去30年間超で最も力強い拡大を経験し、均衡のとれた状況にあるとされた。
  米国経済における住宅投資市場の変調とインフレリスク、円ドル為替相場の不安定性、中国人民元の上昇圧力、原油価格動向などのリスクファクターは存在するが、現状では経済の失速を招かずに、種々のリスクが回避される方向に世界経済が動いていると判断できる。G7でも2月以降の世界同時株安については「グッド・コレクション(健全な調整)であったが、将来も起こりうるものであり、市場のリスク感覚の緩みに対して警鐘を鳴らし続けることになった」と表現された。
  米国経済の調整、原油価格、米国のインフレ、為替市場の変動などに十分な注視が必要であるが、各国の適切な金融政策運営を背景に全体としては引き続き安定した経済、金融変動が持続することが予想される。

 13日(金)に発表された米国3月卸売物価指数(PPI)は前月比1.0%、前年同月比3.2%の上昇を示した。市場の事前予想前月比+0.7%を上回った。しかし、食品・エネルギーを除くコア指数は前月比変わらず、前年比でも1.7%上昇に留まった。原油価格上昇の影響で全体の価格上昇率が高くなったが、コア指数が非常に安定しており、FRB(連邦準備制度理事会)には安心感を与える内容になった。
  トリシェECB総裁はG7開催後の記者会見において、バーナンキFRB議長が米国経済について、住宅市場の減速にもかかわらず今年の緩やかな経済成長を予測していると話したことを紹介した。
  米国では住宅価格の下落を背景に住宅投資の減少と住宅ローンの焦げ付き問題が危惧されているが、現状でFRBは住宅市場の変調が経済全体に与える影響が限定的なものに留まるとの楽観論を保持していることが示された。

 為替市場について、G7で円を問題視する発言は特に表面化しなかった。日米実質短期金利差を背景に円安傾向の市場動向が持続している。ただし、トリシェECB総裁は円為替相場について、日本の良好なファンダメンタルズを反映すべきと発言し、今後の円高方向への為替レート変動を示唆した。また、IMF(国際通貨基金)のバートン・アジア太平洋局長は「金融政策が正常化されれば中期的に円が上昇すると予想できる」と述べた。
  当面、日米の大きな実質短期金利差を背景にドル堅調の地合いが予想されるが、米国で金利引下げ政策の可能性が浮上してくれば、為替市場の方向が転換すると予想される。短期円資金を調達しドル金利で運用する「キャリートレード」のポジションは依然として巨大であると推察され、為替市場の方向感が転換する局面では、ポジションの巻き戻しから急激な円高・ドル安が生じるリスクがある。この点については十分警戒が必要である。
  中国人民元については、G7でもポールソン米国財務長官が「短期的には人民元の一段の上昇を説得することがわれわれの方針である」と述べ、明確に中国人民元の上昇を求めた。中国人民元の切上げが実施される局面では、円も連動して上昇することが予想され、人民元切上げの動向について、常に注視が必要である。

 日本経済は本年1-3月期に生産活動が横ばいに転じ、また企業収益にも頭打ち傾向が示され始めているために、先行きに対する不透明感は徐々に強まっている。しかしながら、企業収益の拡大が個人所得の緩やかな増加をもたらし始めており、個人消費の底堅さから景気の急激な変調はいまのところ予想されない。
  株式市場は米国株式市場との連動性が依然として強く、米国株価動向への注視を怠れないが、本コラムで再三指摘しているように、日本の株価水準から算出される株式益利回りは長期金利と比較して大幅に高く、株価の割安感は依然として非常に強い。日本の株価は依然として大幅上昇のポテンシャルを内包している。

 当面、注視が必要なのは原油価格動向である。2006年秋以降に原油価格が急落し、インフレリスクが大幅に後退したが、原油価格の指標であるWTIは再び60ドル台を回復し、やや強含みの推移を示し始めている。
  FRBは、今後必要に応じて金融政策を緩和方向に転換することを検討すると予想されるが、原油価格の上昇が続けば利下げの対応は困難になる。経済悪化のなかでインフレリスクが強まる「スタグフレーション」のリスクが高くはないが存在する。今後の米国インフレ指標、原油価格動向に引き続き注視が必要だ。

 今週は米国で重要経済指標の発表が多く予定されている。16日(月)には3月小売売上、4月住宅市場指数、17日(火)に3月消費者物価指数、3月鉱工業生産指数、3月住宅着工件数、19日(木)に3月半導体製造装置BBレシオが発表される。
  最大の注目点は住宅着工件数と消費者物価指数だ。2月の消費者物価のコア指数は前月比0.2%、前年同月比2.7%上昇だった。3月コア指数についての市場予想の中心は前月比0.2%、前年同月比2.6%上昇予想となっている。前月比上昇率が0.3%以上の数値になれば、市場でのインフレ警戒感が強まり、FRBの利下げ政策への転換予想が後退することになる。為替市場ではドル堅調の圧力が強まりやすくなる。
  また、米国では1-3月期の企業決算発表がピークを迎える。17日にヤフー、インテル、EMC、コカ・コーラ、J&J、AMD、18日にモトローラ、JPモルガン・チェース、19日にIBM、フォード、20日にSPA、キャタピラーなどが予定されている。IT企業および住宅ローン市場動向を占ううえで銀行の決算内容に注目が集まる。
 
  国内金融市場では重要経済指標の発表が予定されていないことから、米国金融市場の動向に神経質な展開が予想される。日本企業の2007年3月決算発表が再来週から本格化するため、当面模様眺め気分が強まると見られる。ただし、上述したように株価の絶対水準は依然として低く、押し目には自律的な買いが入り、基本的には堅調な株価推移が予想される。債券市場を変動させる大きな要因は見当たらないが、米国長期金利が強含みで推移しており、国際間の金利裁定から日本の長期金利も緩やかな上昇圧力を受けることに留意が必要である。
 国内では大きな経済指標の発表が予定されていないが、週末22日(日)に参議院補欠選挙が投開票される。福島県、沖縄県で与野党対決型の選挙戦が繰り広げられている。7月22日(日)に見込まれる参議院選挙の前哨戦であり、与党が過半数を維持できるハードルが決定されることから、政治的には極めて重要な選挙である。与野党ともに1勝1敗がニュートラルの勝敗ラインであり、結果が注目される。国民投票法案の処理が最終局面を迎える。参議院選挙に向けての安倍政権の求心力を左右する、法案処理と参院補欠選挙のゆくえが注目される。

2007年4月16日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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