コラム

当面の経済金融情勢の展望

 4月6日、米国3月雇用統計が発表された。非農業部門の雇用者は18万人増と事前予想12万人を上回った。失業率は4.4%と2月の4.5%から低下した。労働時間も増加した。住宅価格下落、住宅融資の焦げ付きが米国経済全体に与える影響が懸念されているが、現状では景気後退のリスクは限定的であることが示された。
 日本では、4月8日に東京都など13の都道県知事選挙などの統一地方選挙前半戦が投開票された。知事選挙では現職が立候補した9の選挙区で現職候補者が全勝した。民主党は議会選挙で議席数を大幅に増加させたが、政局全体の流れを転換させる勢いを示すには至っていない。
 先週は週初に日銀短観が発表され、日経平均株価が急落したが、その後反発に転じて堅調な推移を示した。米国でも株価は堅調に推移し、NYダウは12500ドル台を回復し、2月27日以降の下落をほぼ回復した。

 米国経済では、住宅価格の下落が住宅投資、個人消費に与える影響が懸念されている。個人の資金調達能力の低下が個人消費の減退につながれば、経済成長率の大幅な低下につながりかねず、景気後退のリスクも浮上することになる。しかし、FRBは2004年から2006年にかけてFFレートを1%から5.25%の水準まで引き上げてきており、今後、景気後退のリスクが浮上すれば、利下げ政策を実施しうる状況にある。金融政策の自由度の大幅な高まりが米国経済の先行きに対する大きな安心感を生んでいる。
 昨年FRB議長がグリーンスパン氏からバーナンキ氏に交代したが、政策路線が円滑に継承され、インフレの未然防止に軸足を置いた政策が実行されてきた。原油価格の大幅上昇というリスクが拡大したものの、FRBが毅然とした姿勢で金融引締め政策を敢行したことが経済の安定を維持する大きな要因になった。米国金融政策の安定感が米国経済への大きな安心感を付与していることを改めて確認しておくべきである。

 日本経済は2002年1月以降の経済改善の流れが曲がり角に差しかかっている。本年1−3月の生産活動は横ばい気味に転じており、今後の海外経済、株式市場の動向によっては、緩やかな経済調整局面に移行する可能性も否定できない。しかし、現状で大きな変動が生じているわけではない。日銀短観が示したように、企業の業況判断は小幅悪化したものの、全体としては高水準を維持しており、景気調整局面に移行したとの判断は時期尚早である。
 東証第1部上場企業の株価収益率(PER)は20倍強であり、益利回りは5%の高水準を示している。10年国債利回りは2%弱の水準にあり、株式利回りは依然として投資妙味の大きい水準にある。すなわち、株価水準には依然として割安感が強く、日本の株価の大幅下落のリスクは高くない。
 株式市場の堅調さが維持されるならば、日本経済の大幅な悪化が生じるリスクも限定的になると考えられる。

 今週、国内では10日(火)に日銀経済金融月報、11日(水)に2月機械受注が発表される。機械受注では「船舶・電力を除く民需」ベースで、1月に引き続き増加が示されるかどうかが注目される。米国では13日(金)に2月貿易収支、3月卸売物価、4月ミシガン大消費者信頼感指数が発表される。また、11日(水)に3月20−21日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録が発表される。米国経済の先行きについての見通しと金融政策の方向感についてどのような論議があったのかが注目される。
 米国金融政策については、11日(水)にバーナンキFRB議長の講演が予定されており、注目される。13日(金)にはワシントンで7カ国財務相・中央銀行総裁会議(G7)が開催される。米国経済の堅調さを示す経済指標の発表に連動して、再び円安・ドル高傾向が強まっており、G7で為替レートについて言及があるかどうかに注目が集まる。

 為替市場では日米の実質短期金利差を背景にドル買い、円売りが優勢になっているが、G7での協議、米国景気動向に神経質な状況が継続するものと予想される。米国での金利引下げ観測が浮上すれば、キャリートレードの巻き戻し圧力なども加わって、円高・ドル安方向に為替レートが大きく変動する可能性もあり、細かな神経を配る必要がある。
 国内金融政策は小幅利上げを実施したのち、小康状態を確保している。経済動向にも緩やかな翳りが観測されており、金利上昇が予想される局面ではない。もとより日本の長期金利には米国長期金利との連動性が強く観測されており、米国長期金利動向に対する注視が必要である。米国では景気悪化観測が後退し、長期金利の低下が中断した局面にあるが、現状では金利反転上昇のリスクは大きくない。しばらく落ち着いた動きが継続すると考えられる。

 日本の政治状況では7月に予定される参議院選挙が最大の焦点になる。安倍政権の支持率は政権発足後、低下してきたが、最近になって下げ止まり傾向を示している。自民党サイドに政治と金をめぐる問題が噴出したが、同様の問題が民主党サイドからも噴出し、自民党を追い込め切れていないこと、格差拡大、天下り廃止などについて、民主党サイドからインパクトの強い提言が示されていないことが背景にあると考えられる。

 日本の政治状況が大きく転換するためには、7月参議院選挙で与党が過半数割れに陥るかどうかがポイントになる。参議院選挙に向けて、民主党などの野党がどのような具体的政策提言を示せるのかが焦点である。福島県、沖縄県で参議院選挙が展開されている。4月5日告示、22日投開票である。参議院選挙の行方を占ううえで、大きな注目を集める選挙である。

2007年4月9日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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