コラム

2006年の年間回顧と2007年経済金融情勢の展望

 2006年も残すところ僅かになった。2006年の金融市場を回顧する時、金融市場変動の中核に位置付けられるのは、原油価格高騰とそれに連動した米国の金融引締め政策だった。4月、7月に原油価格は史上最高値を更新した。5月10日に終了するかと憶測を呼んだ米国の金融引締め政策は、6月29日まで継続した。
  7月19日のバーナンキFRB議長の議会証言が金融市場の流れを転換させた。8月中旬以降原油価格が下落に転じ、NYダウは予想通り10月に6年半ぶりに史上最高値を更新した。主要国株式市場は米国株式市場との連動性を強めており、米国株価の史上最高値更新に連動して再び上昇基調を示している。

 日本の株式市場は上記の(1)原油価格・米国金融政策・米国株価要因に加えて、(2)本年1月16日に表面化した「ライブドア・ショック」以降の新興企業市場を中心とした株価下落圧力と(3)9月26日に発足した安倍晋三政権の経済政策方針とその影響を考慮しなければならなかった。
  12月15日に発表された日銀短観11月調査は、大企業を中心に日本企業の業況判断の改善が持続していることを示した。また12月20日に内示された2007年度一般会計予算財務省原案、2006年度補正予算案の内容は、当初懸念された水準と比較して、財政政策の緊縮程度が大幅に縮小されたものになった。
  こうした変化を反映して、日経平均株価は10月下旬から11月下旬にかけての約1か月、1000円の下落を経た後に反発に転じ、12月20日に17,000円台を回復した。今後の動向を読む鍵は(1)米国経済金融変動、(2)為替市場、(3)日本の財政金融政策の三点である。

 まず、本年前半の変動を整理しておこう。私は昨年8月下旬以降、日本の株価大幅上昇を予想した。昨年8月8日の郵政民営化法案否決を「きっかけ」にして、2006年央に向けて株価が大幅に上昇すると予想した。最大の理由は、日本の株価が理論的妥当値よりも大幅に低い水準にあると判断したことだ。
  日経平均株価は12,000円割れの水準から10月4日には13,738円に上昇。その後10月24日の13,106円まで下落した後、本年1月13日には16,454円まで上昇した。本年1月10日の本HPコラムに私は、「株価調整の可能性あり」と記述した。このタイミングで1月16日にライブドアショックが発生した。株価は2月20日に15,437円まで下落した。ライブドアショックに日銀による量的金融緩和政策解除(3月9日)などの影響も加わり、調整は長びいた。

 日経平均株価は3月29日に2月6日の16,747円を上回り調整を脱し、4月7日に17,563円の水準に上昇した。5月10日の米国連邦公開市場委員会(FOMC)に向けて、米国の金融引締め政策終結の観測が広がり、主要国の株価は5月10日にかけて上昇した。NYダウも5月10日に11,642ドルまで上昇し、史上最高値に接近した。
  しかし、私は4月下旬以降、警告を発した。4月中旬に原油価格が史上最高値を更新し、1バレル=70ドルを突破したので、米国の金融引締め政策は6月29日まで続く可能性が高くなり、6月に向けて株価反落が生じる可能性が高いことを記述した。

 5月10日のFOMCでは、利上げ終結を示唆するコメントは発表されなかった。米国を始めとして主要国の株価は5月中旬から6月中旬にかけて10〜15%下落した。日経平均株価は6月13日の14,218円へと3345円、19%の下落を示した。
  日本の株価下落が大幅になったのは、ライブドア・ショックに村上ファンド問題が重なり新興企業市場の株価が暴落したことを背景にしている。東証マザーズ市場の指数は1月から7月にかけて60%も暴落した。

 年後半の解説に移る。流れを転換させたのは、7月19日のバーナンキFRB議長の議会証言だった。私は『金融・為替・株価特報』8月上旬号のタイトルを『面目躍如のバーナンキ議会証言』とした。議会証言の内容は、「中東情勢、原油価格にリスクはあるがFRBはインフレ抑制に毅然と対応しており、中期的なインフレ抑制には自信を有している」というものだった。
  7月に入り、北朝鮮によるミサイル発射実験(5日)、イスラエル・レバノン軍事衝突勃発(12日)、原油価格市場最高値更新(14日、1バレル=77ドル)などの悪材料が重なったが、バーナンキ証言によって不安心理は大幅に後退した。

 8月8日のFOMCで利上げは見送られた。8月14日にレバノン・イスラエル間の停戦合意が発効した。原油価格は8月下旬に1バレル=70ドルを割り込んだ。私は原油価格が1バレル=60ドル方向に下落する可能性が高いこと、その場合、10月頃にNYダウが史上最高値を更新する可能性が高いことを記述した。日本の株価も10月にかけて17000円台に向かう可能性が高いと『特報』に記述した。
  10月13日にNYダウは終値で史上最高値を更新した。日経平均株価は10月26日に16,811円まで上昇した。

 こうした状況のなかで、9月26日に安倍政権が発足した。安倍政権は「上げ潮政策」と称して、「成長重視」を掲げる一方で、「財政支出抑制による財政赤字削減」も提唱しており、政策スタンスを読み取ることが難しい。
  2006年度当初予算は税収の大幅増加により、補正予算を編成しないと、超緊縮政策となり、株価上昇、景気改善の流れを崩壊させてしまう懸念があることを私は、10月以降に警告してきた。

 もうひとつの懸念要因は、米国経済の変化である。住宅価格が下落に転じ、住宅投資が減少すれば、個人消費停滞につながってゆく。日本での経験は、この変化は「始めは気付かぬスピードでゆっくり進み、暫くしてから急激に進む」というものだった。2007年年初以降の米国経済の動向に細心の注意が必要だ。

 警告してきた、日本の財政政策であるが、安倍政権は3.8兆円というかなり大規模な補正予算を編成した。「超緊縮」財政が「緊縮」財政に緩和された。日本経済が撃墜されるリスクはやや後退した。
  2007年度当初予算での財政赤字削減額は下表の通り、3.6兆円と、2006年度補正後予算での、3.5兆円削減とほぼ同水準に着地した。「緊縮」財政が継続する。ただし、2007年度は歳出の中に約2兆円の国債整理基金への繰り入れが含まれており、実態上の財政赤字削減額は「5.6兆円」となり、補正予算が組まれないと「超緊縮」予算になる。

一般会計財政赤字(C)の前年差の推移

(兆円)
年度 歳出(A) 税収(B) (A)-(B)=(C) (C)の前年差
1996 78.8 52.1 26.8 +2.8
97 78.5 53.9 24.5 -2.3
98 84.4 49.4 35.0 +10.4
99 89.0 47.2 41.8 +6.8
2000 89.3 50.7 38.6 -3.2
01(当) 82.7 50.7 31.9 -6.9
01 84.8 47.9 36.9 -1.7
02 83.7 43.8 39.8 +3.0
03 82.4 43.3 39.1 -0.7
04 84.9 45.6 39.3 +0.2
05 85.2 49.1 36.5 -2.9
06(補) 83.5 50.5 33.0 -3.5
07(当) 82.9 53.5 29.4 -3.6

(注1)実績値。ただし(当)は当初。(補)補正後
(注2)ここでは、会計操作の影響を除去するために、(歳出)−(税収)を財政赤字と見なしている。

 米国経済、米国株式市場が堅調に推移しているために、日本の株式市場も暫くは連動が予想される。
  しかし、2007年前半の波乱要素は少なくない。前回コラムにも記述したように、米国は2004年6月から2006年6月までに17回、4.25%ポイントの短期金利引上げを実行した。欧州中央銀行(ECB)は2005年12月から本年12月までに6度、1.5%ポイントの短期金利引上げを実行した。
  この影響で円に対する下落圧力の強まりが予想される。日銀は1月17、18日の政策決定会合で二度目の金利引上げを決定する可能性が高いが金利据え置きを主張する中川秀直自民党幹事長と福井俊彦日銀総裁の対立が一段と尖鋭化することも予想される。日本の株価は調整局面を迎える可能性がある。

 米国の2006年の貿易赤字は過去最大であった2005年の7258億ドルを上回る見通しだ。しかし、2006年8月以降原油価格が下落したために、今後は減少が予想される。これもドル上昇要因となる。
  ドルが上昇基調を強めるなかで、2007年前半に米国経済の減速がより鮮明になれば、民主党が多数を占めることになる米国議会は日本に対して円安是正を求めてくる可能性が高い。
  緊縮財政の下で円安を抑制するには短期金利を引上げなければならないが、政府と日銀の対立で利上げが遅れれば、円安が進行し、長期金利も上昇し易くなる。この場合、株式市場でも下落の反応が生じ易くなる。

 日本の株価水準は依然として割安と判断するが、2007年前半には、上述した波乱要因が存在することを念頭に入れておく必要がある。
  日本の経済政策としては、個人消費を支援する方向への緊縮財政政策の緩和と短期金利の小幅引上げの組合わせが適正だが、この政策を実現するために越えねばならないハードルは多い。
  米国経済がどの程度減速するかがもうひとつの焦点だが、バーナンキFRB議長の力量が高いことは安心材料である。

 『金融・為替・株価特報』ご購読の皆様には大変ご迷惑をお掛けしておりますことを心よりお詫び申し上げます。
  皆様がお健やかに幸多き新春をお迎えになられますことを心よりお祈り申し上げます。

2006年12月24日執筆
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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