コラム

日本の望ましいポリシー・ミックスについての考察

 日銀の福井総裁が短期金利の段階的な引上げを検討している。他方、自民党の中川秀直幹事長は日銀の金利引上げを阻止しようと考えている。どちらの考え方が政策の中心に置かれるかにより、2007年の日本経済の変動は大きく左右される。この問題をしっかりと考察することが2007年の金融変動を読む鍵となる。

 中川秀直氏が唱える「上げ潮」政策は、超縮財政と超緩和の金融政策の組合わせによる成長と財政再建の同時達成である。低金利に支えられ、企業の設備投資を中心に成長が続く。超金融緩和政策の維持によりインフレ率が徐々に上昇し、名目経済成長率が上昇し、税収が増加する。他方、歳出削減を続けることで財政赤字減少も実現する。この見解に立つと、日銀の「量的金融緩和解除」、「ゼロ金利政策解除」は「間違った政策」ということになる。
  12月8日に、2006年7−9月GDP統計第2次速報が発表され、第一次速報の年率2.0%成長が年率0.5%に大幅下方修正された。中川秀直幹事長は日銀の「量的金融緩和政策解除」、「ゼロ金利政策解除」を批判した。本年6,7月の福井日銀総裁の村上ファンドへの出資問題が大々的に報道され大問題とされた背景には、福井日銀総裁排除の狙いがあったのではないかとも考えられる。

 私は、経済政策としては福井総裁のスタンスは適正であると考える。米国経済の失速がなければ2007年に日本の短期金利は段階的引上げに追い込まれることになると見る。そうであれば利上げに追い込まれる前に、自発的に短期金利調整に動く方が市場の受けるダメージは限定的になると考えるからだ。
  どういうことか。1987年から1990年の経験を「学習する」必要がある。1987年10月、日本銀行は利上げを内定していた。そのタイミングで「ブラック・マンデー」が発生した。NYの株価暴落が世界的に連鎖した。日銀は米国の要請を受けて利上げを中止した。
  米国は日本に利上げ中止を要請しておきながら、ブラック・マンデーの影響が深刻化しないことを見極めた上で、88年3月から金利引上げを開始し、89年半ばまで利上げを続けた。日本が利上げに踏み切ったのは当初の予定から1年半後の89年5月だった。この1年半の金融緩和延長が日本の資産価格バブルを生み出した。

 1990年前半、日本の金融市場は暴風に襲われた。年初から長期金利が急上昇を始めた。続いて株価が暴落に転じ、為替市場では急激な円安が進行した。「円安ー金利上昇ー株価下落」の連鎖が広がったのである。日銀は急激で大幅な金利引上げに追い込まれた。長期金利は2倍以上の水準にはね上がった。株価は暴落した。

 米国は2004年6月から2006年6月までの間にFFレートを1.0%から5.25%まで17回の利上げを実施した。欧州中央銀行(ECB)は2005年12月から本年の12月7日にかけて政策金利を2.0%から3.5%へ6度の利上げを実行した。
  今後、確実に円安圧力が強まり、日本も数度の利上げに追い込まれると見るべきである。利上げが後手に回る場合は、円安ー長期金利上昇ー株価下落ー短期金利引上げの最悪パターンにはまりこむ。このコースを辿るよりは、先手を打って利上げを段階的に進め、長期金利上昇と株価下落、円安を限定的に留めることが望ましい。金融政策が若干引締めにシフトする分は、財政が小幅緩和に転じる必要が生じる。このポリシー・ミックスが採用されるなら、金融市場の混乱が回避され、成長持続も可能になる。

 この場合、財政政策の緩和は個人消費増大を狙いとして所得税減税を選択することが正しい選択である。短期金利引上げは個人の金利所得を増加させ、企業の設備投資をやや抑制する効果を発揮する。一部に散見される不動産のミニ・バブル的な動きも回避される。
  それでも短期的には、日銀の利上げは、長期金利上昇、円高、株価下落の反応を生む。中川自民党幹事長などが利上げに強硬に反対しているなかで、福井総裁が金利引上げに動くことは極めて困難である。日銀の金利引上げは1月に先送りされる可能性の方がやや高いと思われる。当面は12月15日発表の日銀短観、18,19日の日銀の政策決定会合、25日の福井総裁の講演が最大の注目材料である。

 財政政策では、中規模の補正予算が編成されるが、国債発行額は06年度が補正後で27.5兆円、07年度当初予算が26-27兆円と基本的には超縮傾向の運営が続く。
  12月14,15日に中国で米中経済協議が実施され、米国からポールソン財務長官、バーナンキFRB議長が出席する。中国人民元の切上げ圧力の強みから、連動した円高圧力の発生も予想されるが、12月8日発表の11月の米国雇用統計の内容が事前予想よりも景気の底堅さを示す内容であったことから、円高、ドル安の進行は当面限定的と考えられる。
  日銀による短期金利引上げが年明け以後に先送りされる場合、2007年前半の円安、長期金利上昇、株価下落圧力の強まりと、結果としての短期金利上昇に十分な警戒を払う必要がある。株価については、現在は1989年末のような割高感は無い。水準は依然として割安である。株価の大幅下落への過剰な警戒は不要と考えられ、下落が一巡する局面では中期的な投資妙味は高まると考えるべきと思われる。

2006年12月10日執筆
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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