コラム

当面の内外政治経済金融情勢

 11月12日に実施された福島県知事選挙では、野党推薦の佐藤雄平氏が10万票の大差をつけて与党推薦候補に圧勝した。これに対して、11月19日実施の沖縄県知事選挙では与党推薦の仲井真弘多氏が当選した。朝日新聞の出口調査では沖縄県知事選挙においては投票者の56%が経済問題を最重視し、その67%が仲井真氏に投票(糸数氏に投票した人は32%)した。基地問題を最重視した投票者は28%で、その84%が糸数氏に投票したとのことである。沖縄県知事選挙では経済問題が重視され、その結果として与党候補者が勝利を収めたと判断できる。

 安倍政権としては、政権発足直後の衆議院議員補欠選挙と知事選挙を3勝1敗で乗り越えることが出来、無難なスタートを切ることになった。
  だが、今後については手放しの楽観が許される状況ではない。(1)政局、(2)経済動向と経済政策、(3)米国の政治経済情勢の三つの重要問題が存在するからである。

 政局については、郵政民営化問題で自民党を離党した無所属議員の復党問題がヤマ場に差しかかっている。本稿執筆時点(11月26日)では、まだ決着を見ていない。自民党を追われた12名の元自民党議員のなかで、平沼赳夫氏だけが、最後まで郵政民営化反対を貫いた。平沼氏の処遇をめぐり、交渉はヤマ場を迎えている。
  郵政民営化賛成を復党の条件に掲げている自民党幹事長中川秀直氏の行動には小泉前首相の意向が影響していると見られる。経済政策路線で新政権は既に「成長無くして改革なし」と小泉政権と反対の方針を掲げており、さらに郵政民営化への賛成を確認しない自民党復党を認めることになれば、小泉前政権の路線は実質的に全否定されることになる。
  また、次の総選挙においては、いわゆる「刺客」議員と復党議員および落選議員との調整も難航が予想される。平沼氏が志を曲げて自民党に復党願いを提出することは考えられず、安倍政権は平沼氏に譲歩して12名全員の復党を認めるか、平沼氏を除く11名のみの復党を認めるかの厳しい選択を迫られることが予想される。可能性としては12名の無所属議員と統一会派を組むケースも有る。

 全員の復党を認める場合には、世論への影響および自民党内の意見対立表面化が懸念され、復党を認めない場合には、来年夏の参議院選挙への直接的な影響が懸念されることになる。
  12月15日に会期末を迎える国会での最大の争点は、教育基本法改正問題だが、「いじめ問題」、「履修漏れ問題」「タウンミーティングでのやらせ質問問題」のいわゆる三点セットが尾を引いており、予断を許さない状況が続く。とりわけ、タウン・ミーティングでの「やらせ」は教育問題に限られていない可能性が高く、今後の調査への関心が高まることになる。

 経済動向と経済政策も予断を許さない。11月14日に発表された本年7−9月期の実質GDPは前期比+0.5%、年率2.0%の成長率を示し、事前予想を上回った。しかし0.5%成長のうち0.3%分は在庫の増加によるものである。最大の需要項目である個人消費は前期比-0.7%(実質)の大幅減少となった。企業の設備投資、輸出、在庫の増加がプラス成長をもたらしたものの、在庫の増加は先行きの生産抑制要因となる。米国経済が減速し、円高傾向が強まれば輸出にも黄信号が灯る。
  設備投資は企業の生産力を増強するものである。GDPの55%程度を占める個人消費の安定的な拡大が無ければ、企業の設備は過剰となり、設備投資は減少に転じてしまう。

 9月以降、本コラムで繰り返し警告を発しているように、2006年度の国家財政(一般会計)運営は超緊縮となっている。2006年度の国税収入は当初見積もりの45.9兆円を4兆円以上上回り、50兆円を突破する見通しであることが発表された。
  2006年度補正予算および2007年度当初予算がどの程度の規模で編成されるかが焦点となるが、安倍首相は現段階では財政赤字削減を優先する方針を示している。

 財政制度等審議会の西室会長は11月22日に現在の財政赤字が「常軌を逸している」との建議を提出した。これに対して自民党の中川秀直幹事長は「財界人の発言として大目に見ると思ったら大間違い」と批判した。
  日本経済は現在非常に重要な分岐点に立っている。景気の最大の懸念要因は個人消費の低迷にある。企業収益は大企業を中心に史上最高水準を更新しており、これが設備投資の増加を支えている。

 この状況下で法人税の大幅減税を検討することは正しい選択ではない。特別減税を復活させ、恒久化することを検討すべきである。97年度も2000年度・2001年度も経済が改善基調を示しているなかで、目先の財政赤字削減を優先しようとして、結局、株価下落、景気悪化、財政赤字増大をもたらしてしまった。
  経済成長優先の政策方針を明確に示すべきである。経済の補強は企業を対象とするべきでなく、個人、労働者を対象とすべきである。非正規社員の賃金水準が正規社員に対して著しく低い現状の是正も制度的対応を図るべきである。
  株価が100円を割り込む建設会社が急増している。あまりにも急激な公共事業費の削減は地域経済の一段の疲弊をもたらしつつある。三村申吾青森県知事が指摘するように、「山・川・海をつなぐ水循環システム」に光を当てた「環境公共事業」など、より長期の視点に立った施策の検討が求められる。

 私は本コラムで、10月下旬以降の日本の株価下落を警告し続けてきた。株価は常に先行指標である。10月26日に16,811円まで上昇した日経平均株価は11月20日には15,725円まで下落した。現在は年末にかけての、政府の経済政策スタンスを見極める局面にある。
  現状では、安倍政権の政策スタンスが、明確に示されていない。中川秀直幹事長は「上げ潮政策」と発言するが、安倍首相は「財政赤字削減優先」と述べている。この点の見極めが最重要であるが、超緊縮の政策が修正されない場合は、株価の下落基調への転換、景気悪化への転換を十分に警戒しなければならなくなる。

 経済政策において所得税減税という正当な提案が提示されない大きな要因のひとつに、経済財政諮問会議の構成という問題がある。同会議は閣僚5名、日銀総裁、民間議員4名の合計10名で構成されている。民間議員4名は学者2名、財界人2名である。
  つまり、消費者と労働者の意向が反映されにくい構造なのである。民間議員枠を2名増員し、消費者、労働者の意向を反映し得る識者、または学者を同会議に参加させるべきだ。

 米国政府は11月21日、2006年の実質GDP成長率見通しを3.6%から3.1%へと下方修正した。同時に2007年の成長率見通しを3.3%から2.9%へ下方修正した。ラジアーCEA(大統領経済諮問委員会)委員長は、本年10-12月期のGDP成長率は7-9月期の1.6%から持ち直し、個人消費も力強いとしている。
  サンクス・ギビングデーも終え、米国は本格的なクリスマス商戦に入った。住宅価格の下落がどの程度深刻化するかが焦点である。米国の個人消費はこれまで住宅価格上昇に支えられてきた。住宅価格上昇により個人の銀行借入可能額が増加し、個人消費が増加してきたのだ。住宅価格が下落すれば逆の現象が生じることになるからだ。米国住宅価格動向に引続き注視が必要である。

 バーナンキFRB議長は12月中旬にポールソン米国財務長官と共に訪中し、米中経済会議に出席する。米国議会は2007年から民主党が多数を占めることになる。米国製造業の意向を受けて、米国の対中国貿易赤字が問題視されることになる。
  中国人民元の切り上げ圧力の高まりが予想され、連動して円がドルに対して上昇することも考え得る。日米の実質短期金利差は依然として大幅で、本格的な円高基調の発生は予想しないが、一時的に1ドル=110円程度への円高が生じる可能性は否定できない。年末に向けての為替市場の動向に留意が必要である。

2006年11月26日 執筆
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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