コラム

NYダウ史上最高値更新と今後の金融市場

 米国株式市場では、『金利・為替・株価特報』および本コラムで予測してきた通り、NYダウが2000年1月14日のこれまでの史上最高値11.722ドルを10月13日に6年9か月ぶりに更新した。
  1バレル=77ドル台にまで上昇した原油価格(WTI)が8月に70ドルを下回った。私は原油価格下落が10月発表の消費者物価統計に反映されて10月にNY株価が大幅に上昇すると予測してきた。

 NYダウは10月27日に12.163ドルにまで上昇した。インフレ懸念の後退と経済成長の持続の組み合わせ(=ソフト・ランディング)に対する期待が強まったことを反映した市場の反応である。
  『金利・為替・株価特報』で私は、本年7月19日のバーナンキ米国FRB議長の議会証言が転換点を形成するきっかけになるであろうことを述べてきた。当時の金融市場は原油価格動向と月次で発表される消費者物価統計に一喜一憂する神経質な反応を繰り返していた。
  バーナンキ議長はこうした市場動向に対して中期的な視点を的確に指摘した。原油価格動向に大きなリスクが残存することを指摘しながらも、2年間にわたるFRBによる大幅な金利引上げ政策(FFレートの1.0%から5.25%への引上げ)およびインフレに対するFRBの毅然とした姿勢により、インフレリスクは顕在化しない可能性が高いことを的確に指摘したのである。

 その後、8月14日にイスラエルとレバノンの間での停戦合意が発効となり、原油価格はWTIで10月には1バレル=60ドルを割り込む水準にまで下落し、インフレ懸念は大幅に後退した。米国経済の軟着陸(ソフト・ランディング)期待が高まり、NYダウは6年9か月ぶりに史上最高値を更新したのである。
  世界の株式市場が米国市場との連動性を非常に強めていることもこれまで指摘してきたところである。日経平均株価は6月13日の14,218円から10月26日の16,811円まで2593円の上昇を示した。9月26日の15,557円からは約1か月で1,254円の上昇となった。

 しかしながら、今後の動向については十分な注意が必要と考えられる。10月4日付コラムでも指摘したが、今後の留意点は(1)米国経済の減速の程度、(2)安倍政権の今後のマクロ経済運営である。

 米国経済は緩やかな減速の過程にある。いまのところ、リセッション(景気後退)に陥るリスクは小さいが、住宅価格の下落、住宅投資の減少には十分な注意が必要である。
  米国の個人消費においては、家具、自動車などのウェイトが高く、これらは住宅投資と密接な関わりを有している。米国の個人消費の大きなウェイトを占めるクリスマス消費が11月から始動する。住宅投資減少が個人消費にどの程度の影響を及ぼすかを十分に注視する必要がある。

 11月7日には、米国で中間選挙が実施される。上院99議席の3分の1、下院435議席のすべてが改選される。米国ではイラク戦争に対する批判が強まっており、共和党の苦戦が予想されている。共和党が上・下両院あるいは下院で過半数を失うと、ブッシュ政権の残存する2年の任期は政治的に非常に弱体化する。
  このことは安倍政権の政権基盤にも少なからず影響を与える。神奈川、大阪の衆院議員補欠選挙は与党が勝利したが、いずれも与党議員の死去に伴う選挙であったから、とりたてて強い意味を持たない。注目されるのは福島県と沖縄県の知事選挙である。特に沖縄知事選挙は安倍政権の政策の基本路線と深く関わりを持つだけに強い関心が注がれることになる。

 第二の論点であるマクロ経済政策に言及しておこう。安倍政権は財政健全化について、「成長なくして(財政)改革なし」と主張している。この主張は2001年に小泉政権が発足した当初から私が主張していたものである。小泉首相、竹中経財相は「改革なくして成長なし」と唱えてきたのである。これが私と小泉政権のマクロ経済政策運営上の最大の対立点であった。
  小泉政権が「改革なくして成長なし」の政策を実行した結果、2003年に日本経済は金融恐慌の真正の危機に直面した。結局小泉政権は「改革」政策を放棄して、りそな銀行を税金で救済した。以後、「成長」を優先させた結果、日本経済が改善を示したのである。

 その何よりの証左が小泉政権末期から提唱され始めた「成長なくして改革なし」の基本路線である。この基本路線が「改革なくして成長なし」の基本路線の正反対であることを、改めて明確に確認しておく必要がある。

 安倍政権が正しい基本路線を提示していることは歓迎すべき点である。だが問題は現実のマクロ経済政策の実体である。
  既に述べてきているように、2006年度の国の財政運営(一般会計予算)は税収の大幅増加(2006年度の国税収入は50兆円を突破する見通し)を勘案すると極めて強力な緊縮財政となる。緊縮の程度は、過去最強であった小泉政権下の2001年度当初予算を上回っている。

 安倍政権は「技術革新による生産性向上」、および「労働市場の効率化」による成長率の引上げを提唱しているが、これはあくまでも「中期的」施策である。
  米国経済が堅調で米国株価が堅調である間は、日本の株価も堅調に推移し問題は表面化しないと予想されるが、この前提が揺らぎ、かつ、年末にかけての2007年度予算編成において「超緊縮」の財政政策運営が是正されない場合には、株価の下落トレンドへの転換、2007年春以降の景気後退のリスクを考察することが必要になる。この場合には2007年夏の参議院選挙での大きな波乱も可能性として浮上してくる。

 積極財政は必要ないが、行き過ぎた緊縮財政は弊害が大きい。これが1997年度、2001年度の教訓である。具体的政策内容の早期の軌道修正が求められる。

以上

2006年10月29日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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