コラム

安倍政権の発足と今後の日本経済・金融市場への影響

9月26日安倍晋三政権が発足した。52歳の新首相が誕生した。安倍政権の新体制と特徴と今後の金融市場への影響につき論評をまとめておく。

 安倍新体制について五点のポイントを指摘しておきたい。第一は,自民党総裁選出に向けての過程における論功行賞が重視されたことだ。早い段階から安倍氏と行動を共にしてきたNAISの会のメンバーが揃って処遇された。再チャレンジ議連の山本有二氏が入閣し,早い段階で安倍氏支持を鮮明にした久間氏(津島派),伊吹氏(伊吹派),甘利氏(山崎派)が入閣した。自民党総裁選に向けての論功行賞が第一の特徴である。

 第二は,外交路線での方針の統一性が重視された点である。麻生氏が外相で留任した。また中川昭一氏が政調会長として三役入りした。また防衛庁の省への昇格の可能性を念頭に入れて久間氏が防衛庁長官に就いた。高市早苗氏の処遇も軌を一にしている。

 第三の特徴は官邸スタッフが増強され若手が大量に登用されたことである。
首相補佐官のポストが五つに拡充され,拉致問題担当に民間の中山氏,財政金融に根本匠氏,教育問題に山谷えり子氏,広報担当に世耕弘成氏,安全保障担当に小池百合子氏が登用された。
  また,幹事長代理に石原伸晃氏が起用された。官房長官には日銀出身の若手の政策通である塩崎恭久氏が起用され,官房副長官には下村博文氏が登用された。
  安倍氏を中心に力量のある若手が総動員される形を示しており,この点が新体制の最大の特徴と言える。
 
  第四,第五は経済政策運営に関する二つの特徴である。第四は経済産業政策に通じる人材が要所に起用されている点だ。財務相の尾身幸次氏,政調会長の中川昭一氏,経済相の甘利明氏などいずれも経済産業省と関わりが深い。産業政策の視点からの政策減税等の提案がされてゆく可能性があるだろう。

 第五のポイントは,第四の特徴と表裏一体を成す点であるが,マクロ経済政策運営の方向が極めて不透明である点だ。経済財政担当大臣に大田弘子氏が民間人から起用された。また,事務の官房副長官に元大蔵官僚の的場順三氏が就任した。今後,経済財政諮問会議の民間議員が決定されるが,財務省主導のマクロ経済政策運営が鮮明になるリスクが存在する。

 『金利・為替・株価特報』に記述する予定であったが,2006年度の国家財政運営が日本経済に対して三度目の強烈な急ブレーキを与える可能性を筆者は発見した。これまで数値の意味を十分に吟味できていなかったわけで,一種の見落としになるが,2006年度一般会計予算には2001年度当初予算以上に日本経済に対して強いブレーキとなるリスクが存在している。
  国税収入が50兆円を突破する勢いである一方で,一般歳出が5兆円以上も削減されている。歳出削減のスピードが早過ぎるのである。
  米国経済が好調でNYダウが上昇している間は問題が顕在化しないと思われるが,米国経済にリセッション風が吹く場合には,大きなリスクが日本経済を覆うことになる。

 若手を積極登用した安倍新財政権に期待するところは大であるが,マクロ経済政策運営が最大の急所となるリスクが高い。
  成長重視を唱える中川秀直幹事長及び尾身財務相の力量も問われるが,マクロ経済政策運営における財務省主導の図式に安倍新首相が早期にくさびを打ち込んでおかないと,2007年夏の参議院選挙の局面では大きな誤算に直面することも考えうる。財政政策運営を超緊縮から中立に近付ける早期の軌道修正が求められる。

2006年10月1日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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