コラム

今来週の金融市場の展望(2006年9月7日)

 昨年8月8日に郵政民営化法案が参議院本会議で否決されて以来、日本の株価の大幅上昇が生じた。筆者は日本の株価の割安修正が進行するとの予想から、2006年央にかけての株価大幅上昇を予想してきた。
  本年1月に入り株価小幅調整の可能性を指摘したが、そのタイミングでライブドアショックが発生した。ライブドアショックに伴う株価調整は本年3月末まで持続した。ライブドアへの強制捜査、ライブドア上場廃止観測、日銀の量的金融緩和政策解除などの要因で、株価は乱高下を繰り返した。

 本年4月から5月にかけて、米国で金融引締め政策終結観測が広がった。NYダウは5月10日に11,642ドルに到達した。2000年1月14日の史上最高値まであと80ドルの地点だった。日本の株式市場も連動して上昇し、日経平均株価は4月7日に17,563円に到達、5月9日までは17,000円台を維持した。

 ところが、こうしたなかで原油価格の高騰が進行した。WTI先物価格は4月中旬に昨年8月に記録した史上最高値を更新した。昨年の事例では8月に原油価格が史上最高値を更新したが、金融市場でインフレ懸念がもっとも広がり、株価が下落したのは10月だった。
  私は原油価格高騰を重視し、5、6月にかけてインフレ懸念がもう一度広がり、利上げ終結観測が利上げ継続観測に転換するリスクが存在することを警告した。

 5月10日のFOMCでは予想通り16回目の利上げが決定されたが、市場が期待した金利引上げ終結観測は否定された。「金利引上げ終結観測」は「金利引上げ継続観測」に転換してしまった。予想したことが現実化していった。
  NYダウは6月13日の10,706ドルまで936ドル下落した。下落率は8.0%だった。米国株価の下落に連動して世界の株価が下落した。日経平均株価は4月7日17,563円から6月13日14,218円まで、3345円、19.0%も下落した。

 米国を震源地とする株価調整は7月まで持続した。6月14日に発表された米国地区連銀経済報告書(ベージュブック)が米国経済減速の可能性を指摘したことを受けて、6月中旬以降株価は反発した。NYダウの5月−6月の株価調整の半値戻りは11,174ドルだが、7月3日には11,228ドルと半値戻りを達成した。
  ところが、7月初旬以降、いわゆる「地政学上のリスク」が噴出した。7月5日に北朝鮮がミサイル発射実験を実行した。7月12日にはイスラエルとレバノン内イスラム教シーア派民兵組織ヒズボラとの間で軍事衝突が勃発した。原油価格は高騰して、7月14日にはWTI先物価格は1バレル=77ドル台の史上最高値を記録した。NYダウは急落し、7月14日には10,739ドルに下落した。

 潮流を転換させたのは7月19日のバーナンキFRB議長の上院銀行委員会での議会証言だった。金融市場ではインフレ懸念が台頭し、米国の金利引上げ政策が2007年まで持続するのではないかとの警戒感が強まっていた。
  バーナンキ議長は原油価格に大きなリスクが存在することを認めながらも、基本観としてはFRBのインフレ抑制の政策スタンスにより、米国のインフレはコントロールされるとの自信を示した。金利引上げの効果発動には時間を要する。これまでに米国では大幅な金利引上げを実施済みであり、その効果が今後2年間にわたって発揮されることが期待される。
  バーナンキ議長はさらに足下の物価指標に即応した金利引上げ政策スタンスでは、金利の引上げすぎのリスクがあることを指摘した。バーナンキ議長発言を受けてNYダウは212ドル上昇した。
 
  8月8日のFOMCでは18回目の利上げが見送られた。8月4日発表の7月米国雇用統計が弱かったことも影響した。こうしたなかで、8月14日にイスラエルとレバノンの間での停戦決議が発効した。さらに8月16日に発表された7月米国消費者物価統計では、市場が注目するコアインフレ指数が+0.2%に低下した。4ヵ月連続で+0.3%上昇したあとだけに、インフレ懸念が大幅に後退した。
  原油価格は7月14日の1バレル=77ドルをピークに下落した。8月下旬にハリケーンが発生して一時的に原油価格が上昇したが、その後ハリケーンが低気圧に格下げになり、原油価格は9月5日にはWTIで1バレル=68ドルに下落した。

 5月から8月にかけて、原油価格高騰、米国のインフレ懸念、米国金融引締め長期化懸念が米国株価調整の背景となったが、これらの諸要因が緩やかに収束に向かい始めた。
  私は4月以降、原油価格高騰を背景に株式市場は濃霧に包まれ、濃霧が晴れるのは8月以降にずれ込むと記述してきたが、8月中旬以降、徐々に霧が晴れる方向に変化が生じ始めている。
  原油価格が下落し、米国のインフレ懸念が後退し、米国利上げ終結観測が広がり、米国経済ソフトランディングの見通しが広がってくれば、NYダウは史上最高値更新に向かうだろうと記述してきた。その時期は8月以降になるとも記述してきた。
  依然として手放しの楽観は禁物だが、予想してきた楽観シナリオが実現する可能性が徐々に高まりつつあるように思われる。日本の株価下落が大幅になった最大の理由は進行企業市場の株価暴落である。本年1月から7月にかけて東証マザーズ指数は60%、JASDAQ指数は38%下落した。
  新興企業市場の株価反発力は依然として弱いが、値幅調整は7月に完了したものと考えられる。残る点検項目は日本経済の基調である。企業の設備投資の基調は非常に強いが、個人消費は4月から7月にかけて停滞した。株価下落と天候不順が影響したと考えられる。

 8月31日に発表された7月鉱工業生産指数では、生産指数が事前予想を下回り、前月比-0.9%を記録した。さらに在庫率指数が急上昇した。在庫率の上昇が続けば、やがて生産調整=景気後退に移行してゆくことになる。
  今後の株式市場の動向が非常に重要な意味を有する。また9月に発足が見込まれる安倍政権が経済成長持続のためにどのような具体的施策を打ち出すのかも注目される。

 今週は7日(木)にイエレン・サンフランシスコ連銀総裁の講演、8日(金)にピアナルト・クリーブランド連銀総裁の講演が予定されている。国内では7日(木)に7月景気動向指数、8日(金)に8月景気ウォッチャー調査が発表される。
  来週は13日(水)にポールソン米国財務長官の講演、15日(金)に8月米国消費者物価統計発表が予定され、15日(金)、16日(土)にG7財務相・中央銀行総裁会議が開催される。
  国内では11日(月)に7月機械受注、13日(水)に7月国際収支が発表される。また自民党総裁選挙は9月8日(金)に告示され20日(水)に新総裁が選出される。一方、民主党は25日(月)に党大会を開催し、小沢一郎氏が代表に再選される見通しである。新しい総理大臣を指名する臨時国会は26日(火)に召集されることが固まった。安倍晋三政権が発足することになる。

2006年9月7日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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