コラム

今来週の金融市場の展望(2006年8月30日)

 日経平均株価は4月7日高値17,563円から6月13日安値14,218円まで、3345円、19.0%下落した。半値戻しは15,890円である。4月から6月にかけての株価下落の最大の背景は米国の株価下落だった。NYダウは5月10日高値11,642ドルから6月13日10,706ドルまで936ドル、8.0%下落した。日本だけでなく主要国の株価は米国市場に連動して5月から6月にかけて大幅下落した。
 主要国の株価下落を見ると、米国NYダウが5月10日から6月13日にかけて8.0%、NSDAQ指数が4月19日から7月21日まで14.8%、英国FT指数が5月9日から6月13日まで10.5%、ドイツDAX指数が5月11日から6月13日まで13.8%、シンガポールST指数が5月3日から6月14日まで14.3%、香港ハンセン指数が5月8日から6月13日まで11.9%下落した。

 主要国の株価下落はほとんどが5月中旬から6月中旬までで、下落率は10−15%だった。これに対して日経平均株価は約2割下落した。日本の株価下落が大幅になった最大の理由は、新興企業市場の株価暴落であると考える。新興企業市場では文字通りの株価暴落が生じた。
 東証マザーズ指数はザラ場高値安値の比較になるが、1月6日から7月26日まで60.3%、JASDAQ指数は1月16日から7月26日まで38.4%下落した。新興企業市場の株価暴落が東証第1部企業の株価下落を拡大させた可能性が高い。

 主要国の株価下落の震源地は米国と考えられる。米国での株価下落の理由はこうだ。4月18日に3月28日のFOMC議事録が公表された。米国金融引締め政策の終結が論議されたことが示された。5月10日のFOMCにかけて、米国金融引締め政策終結観測が広がり、NYダウは史上最高値に接近した。
 ところが、4月中旬に原油価格が史上最高値を更新した。5月10日FOMCでは、16回目の利上げが決定され、利上げ後のコメントでは利上げ終結が示唆されずに、利上げ継続が示唆された。利上げ終結観測が利上げ継続観測に転換して米国の株価が下落した。主要国の株価は米国に連動して下落した。

 5月中旬から6月中旬にかけてNYダウはほぼ一本調子に下げ、1ヵ月で936ドル下げた。6月14日発表の5月米国消費者物価指数は食品・エネルギーを除くコア指数が3ヵ月連続で前月比+0.3%上昇を示した。市場のインフレ心理を悪化させる内容だったが、同日発表された米国地区連銀経済報告書(ベージュブック)が米国経済減速の可能性を示したためにNYダウは6月14、15日に309ドル上昇した。
 6月29日のFOMCにかけてNYダウは11,000ドル近辺で推移したが、6月29日にFRBが17回目の利上げを決めた後に、金融引締め政策の終結を示唆するコメントを発表したために、NYダウは本年最大の上げ幅となる217ドル上昇を演じた。

 ところが、7月5日に北朝鮮がミサイル発射実験を強行し、7月12日にはイスラエルとレバノン民兵組織との間で戦闘が開始され、原油価格が7月14日に1バレル=77ドルの史上最高値を記録したことを背景に、NYダウは7月12−14日の3日間に395ドル下落し、7月14日終値は10,739ドルと6月13日終値10,706ドルに接近した。

 潮流を転換させたのは7月19日のバーナンキFRB議長の議会証言だった。バーナンキ議長はFRBが米国経済のソフトランディングに自信を有していること、金利引上げの効果波及には時間が必要で、金利引上げはすでに十分実施済みであること、今後は原油価格の推移に警戒が必要であることなどを示した。バーナンキ証言を受けてNYダウは本年2番目の株価上昇幅となる212ドル上昇を演じた。
 8月8日のFRBに向けてNYダウはやや弱含みに推移した。8月8日のFOMCでは18回目の利上げが見送られた。しかし、先行きの金利引上げの可能性は残された。NYダウは11,100ドル近辺でもみ合いを演じたが、その後にインフレ警戒感を後退させる二つのニュースが表面化した。

 第一はイスラエルとレバノンの間での停戦合意が発効したことである。停戦を求めた国連安保理1701号決議が8月14日に発効された。第二のニュースは8月16日に発表された7月米国消費者物価のコア指数前月比上昇率が+0.2%に低下したことである。
 こうした情勢変化を反映して原油価格が下落した。8月18日にはWTI先物価格が1バレル=70ドルまで下落した。NYダウは8月18日に11,381ドルまで上昇した。

 ところがその後にハリケーン「アーネスト」が発生し、産油地帯への影響が懸念されてWTIは8月25日に1バレル=73ドル台まで反発した。結局ハリケーンは低気圧に格下げされて、8月29日、WTIはついに1バレル=70ドルを割り込んだ。
 原油価格の下落を受けて、NYダウは上昇に転じており、11,174ドルの半値戻りの水準を完全にクリアし、2000年1月14日の1バレル=11,722ドルの史上最高値を視界に入れ始めている。

 日経平均株価はNYダウに連動して推移し、7月18日に14,437円の安値を記録したが、7月後半以降に持ち直し、8月23日には16,163円まで反発した。ちなみに4月高値、6月安値の半値戻りは15,890円だ。半値戻りの水準でもみ合いを演じているが、米国株価が堅調に推移するなら、日経平均株価も4月高値更新に向かうものと考えられる。

 チェックポイントは以下の三点だ。第一は原油価格動向。1バレル=60ドル台に落ち着いてくるのかどうか。第二は米国の金融引締め政策。米国の利上げ政策は本当に最終段階と見てよいのかどうか。第三は日本の新興企業市場の株価調整が完了したのかどうか。この三点の見極めが重要である。
原油価格の見通しは極めて難しいが、中東情勢が曲がりなりにも安定化傾向を示し始めており、また米国ブッシュ政権も政権に対する支持率確保のために原油価格安定化が重要であるとの認識を有しており、基本見通しとしては原油価格が1バレル=70ドル以下の水準で安定してくるものと考えている。
 米国の金融政策においては、あと1度の利上げの可能性が残されているが、広い意味では利上げが最終局面に差し掛かっていることは間違いないと言ってよいと思う。
 日本の新興企業市場の株価調整は半年間の日柄の経過により、一巡した可能性が高い。ライブドアが引き金を引く形で、文字通りの株価大暴落が生じた。新興企業市場の株価は7月26、27日に安値を記録したと考える。
 
 もうひとつのチェック項目が日本経済のファンダメンタルズだ。製造業は設備投資の強さを背景に、素材および組み立て加工を中心に好調である。中小企業の軽工業は不調であるが、アジア諸国との競争条件が悪化しており、低迷はかなり構造的なものとなっている。
 GDPの6割弱を占める個人消費が景気の鍵を握っているが、4月から7月にかけてやや勢いを失った。最大の背景は株価低迷と天候不順である。8月以降、個人消費に勢いが出てくるか否かは、株価動向と天候などの要因に左右されるだろう。

 原油価格がこのまま落ち着いてゆくとすれば、非常に大きな株価支援材料となる。昨年8月、本年4月に原油価格が史上最高値を更新したが、株式市場がインフレ懸念に包まれて調整したのは10月と6月だった。
 8−9月にかけて原油価格が下落するなら、今度は逆に10−11月にかけて株価上昇に勢いがつくことも考えられる。市場環境が大幅に好転しつつあることに十分な留意が必要である。

 今週31日(木)に日本の7月鉱工業生産指数が発表される。予測指数では前月比+2.2%の高い伸びが示されていた。生産活動の堅調さが改めて確認されるのかどうか注目が必要だ。
 米国では30日(水)にフィッシャー・ダラス連銀総裁、31日(木)にプール・セントルイス連銀総裁、9月7日(木)にイエレン・サンフランシスコ連銀総裁の講演が予定されている。金融政策の方針についての発言が注目される。経済指標としては9月1日(金)の8月雇用統計が注目される。米国経済減速の実態、賃金上昇率の変化に関心が寄せられる。
 また、9月6日(木)に米国地区連銀経済報告書が発表される。米国経済の減速の程度についての言及が注目される。

 為替市場では米国の利上げ終結、日本のゼロ金利政策解除などを理由に円高・ドル安を見込む見解が存在するが、筆者はドルの下落を見込んでこなかった。日米の実質短期金利差は現状でも2%近く残存している。ドル実質短期金利の高さはドル買いを恒常的に生み出す原動力となる。
 日本の経常収支黒字は原油価格上昇の影響もあり、明確に減少している。米国の経常収支赤字は緩やかにピークアウトし始めている。また、米国の財政赤字が大幅に減少しており、いわゆる「双子の赤字」問題を背景にするドル安は進展しにくい状況にある。
 他方、欧州は景気が相対的に強く、ECB(欧州中央銀行)の金利引上げ政策は持続が見込まれ、ユーロは当面堅調に推移するだろう。世界的にインフレ懸念が後退して長期金利が低下しており、外貨建て債券投資は現在優良な投資環境に置かれている。外債投資も検討に値する。

2006年8月30日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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