コラム

今週の金融市場の展望(2006年8月21日)

 本コラムに長期間のブランクが生じましたことをお詫び申し上げます。今週より通常体制に回帰いたしますので、引き続きご愛顧賜りますようお願い申し上げます。
  内外株式市場は米国市場との強い連動性を維持している。5月10日以降、6月から7月にかけて米国株価が下落し、主要国の株価も連動して下落した。しかしながら、前回コラムにも記述したように、主要国株価はすでに6月13日に安値を記録した可能性が高まっている。日米株式市場ともに7月中旬に株価が再び下落する局面があったが、6月安値を下回らなかった。7月下旬以降には、新たに株価上昇圧力が発生し始めていると判断する。

 昨年来、米国金融市場の中心テーマは原油価格−インフレ懸念−金融引締め政策だった。原油価格の上昇が続き、インフレ懸念が強まり、FRBは2004年6月に始動させた金利引上げ政策を本年6月まで継続してきた。5月10日以降は金利引上げ継続観測が金融市場を支配し、株価調整をもたらしてきた。
  一方、日本の株式市場は昨年8月8日に参議院本会議で郵政民営化法案が否決されて以来、株価割安修正が始動した。本年1月から3月のライブドア・ショックに伴う株価調整を経過した後、4月まで上昇を続けたが、その後は完全に米国との連動関係に回復して現在に至っている。

 米国株式市場の推移について、簡単に整理しておこう。3月28日のFOMCで米国利上げ政策の終結について論議されたことが4月18日に公表された。米国金利引上げ政策終結観測を背景に5月10日にかけてNYダウは上昇した。5月10日終値は11,642ドルで2000年1月14日の史上最高値まで80ドルに迫った。
  ところが4月中旬に原油価格が市場最高値を更新した。私は4月21日付けの本コラムおよびそれ以後のコラム並びに『金利・為替・株価特報』で、市場変動の逆流の可能性について警告を発し続けた。インフレ警戒感が再燃し、「金利引上げ終結観測」が「金利引上げ継続観測」に転換する可能性が高いことを指摘した。また、4月の原油価格高値更新が消費者物価統計に反映されて発表されるのは6月になり、6月29日にFOMCが予定されているので、6月末まで警戒スタンスを維持すべきことも指摘してきた。

 5月10日のFOMCでは2004年6月以来16回目となる利上げが決定された。FFレートはついに5%に達した。利上げ後のコメントでは利上げ終結が示唆されずに、追加利上げの可能性が示唆された。5月10日を境に株価は下落に転じた。
  安値を記録したのは6月13日である。6月14日に発表された5月消費者物価指数では食品・エネルギーを除くコア指数の前月比上昇率が2ヵ月連続で+0.3%を記録した。市場のインフレ懸念を強める内容だった。だが、同日公表された米国地区連銀経済報告書(ベージュブック)が米国経済減速の可能性を示したために、NYダウは6月14,15日の二日間に309ドルも上昇した。
  NYダウは7月6日には11,225ドルと5月10日高値に対する6月13日安値からの半値戻りを達成した。

 ところが、このタイミングで北朝鮮がミサイル発射実験を実施した。また、イスラエルとレバノンのイスラム教シーア派民兵組織ヒズボラとの軍事衝突が勃発して原油価格が急騰した。原油価格は7月14日に1バレル=77ドル台の史上最高値を記録した。NYダウは7月12-14日の3日間に395ドル急落し、7月14日には10,739ドルと6月13日安値に接近した。
  流れを転換させたのは7月19日のバーナンキFRB議長の議会証言だった。詳しくは『金利・為替・株価特報』2006年8月1日号「面目躍如の7月19日バーナンキ証言」を参照いただきたいが、バーナンキ議長は月次の物価統計に一喜一憂してきた金融市場に対して、中期的な大局観が重要であり、中期的なインフレ抑制にFRBが自信を有していること、物価統計に連動しての金利引上げは金利の引上げすぎのリスクを有することを説いた。

  バーナンキ発言を受けて、NYダウは212ドルも反発した。8月8日のFOMCでFRBは18回目の金利引上げを見送った。8月4日に発表された米国7月雇用統計が事前予想を下回る弱い内容であったことを受けての措置であったと考えられる。だが、利上げを休止したことで追加利上げの可能性が残存する結果になった。NYダウは11,100ドル近辺でもみ合う展開となった。
 こうしたなかで、8月14日にイスラエルとレバノンとの間での停戦合意が発効した。イスラエルと民兵組織ヒズボラとの間の緊張関係は継続しているが、とりあえず国連安保理の停戦要請の決議が受諾され、合意が発効した。
 さらに、8月16日に発表された米国7月消費者物価統計では、注目のコア指数の前月比上昇率が+0.2%に低下した。市場の事前予想を実績が下回った。金融市場のインフレ懸念は大幅に後退することになった。
 インフレ懸念の後退を受けて、NYダウは明確に上昇に転じ、8月18日終値は11,381ドルまで達した。2000年1月14日の史上最高値を再び視界に入れ始めたと判断できる。

 ところが、こうしたなかでイスラエルが8月19日にヒズボラに対して軍事行動を実行し、停戦合意に違反したことが明らかになった。この新しい事態が発生する前に原油価格は大幅に下落し、18日の取引では1バレル=70.27ドルと70ドルの大台割れ寸前まで達した。
 中東情勢が不安定であるために、なお予断を許さないが、原油−インフレ−金利引上げの負の連鎖関係はようやく断ち切られる可能性が高まり始めている。

 日本の株式市場の株価下落が大幅になったのは、日本の新興企業市場の株価暴落が背景にある。東証マザーズ指数は1月6日高値2,799ポイントから7月19日安値1,144ポイントまで、59.1%の大暴落を演じた。ライブドア・ショックの根の深さがうかがわれる。
 JASDAQ指数は1月16日終値142.81ポイントから7月19日終値89.30まで37.5%下落した。日経平均株価は4月7日17,563円から6月13日14,218円までの19%の下落だった。NYダウは5月10日11,642ドルから6月13日10,706ドルまでの8%の下落だった。日本の新興企業市場の株価下落がいかに大規模なものだったかがよくわかる。

 日本の新興企業市場の株式信用取引残高のピークは本年2月だった。信用の期日を6ヵ月とするとこの8月には期日が到来したことになる。信用期日到来に向けて、投売りも発生したと考えられるが、そうした悪材料がとりあえずは出尽くした状況になった。
 7月19日はバーナンキFRB議長が議会証言した日である。金融市場に巣食っていたインフレ警戒の警戒心はバーナンキ発言を契機に緩やかに氷解に向かい始めているように見える。

 日本経済のファンダメンタルズは基本的に良好である。7月3日に発表された日銀短観では企業の業況判断の改善と設備投資計画の強さが改めて確認された。鉱工業生産統計でも製造業の活動が堅調に推移しており、しかも製品在庫率が低下していることが示された。
 4月から7月にかけての株価下落と天候不順を背景に個人の景気心理には若干のかげりが生じた。街角ウォッチャー調査、景気動向指数などには日本経済の若干のもたつきが示された。

 鍵を握るのは引き続き米国経済のソフトランディングの可否である。原油価格が下落し、金利引上げ一巡感がさらに強まる一方で、米国経済の成長持続の方向が見えてくれば、米国経済ソフトランディング成功観測が広がることになる。この場合、NYダウは史上最高値更新を実現することになるだろう。
 主要国の株式市場は米国市場との連動性を強めており、この場合には主要国の株価も4、5月の高値を更新することになると考えられる。日本の株価は利回りから判断して、依然として大幅に割安な状況に置かれていると判断される。米国市場の回復を受けて、日本株式の割安修正も再始動することになると思われる。

 中東情勢に依然として不透明さが残っており、この部分には細心の注意が必要であるが、大局観としては、インフレ懸念後退−米国金利引上げ終結−米国経済成長持続−米国株価上昇の基本環境の下で日本の株価も堅調に推移してゆく可能性が高いと考える。
 日経平均株価は2007年前半に2万円の大台を回復する可能性を有していると考える。

 今週は大きな経済指標の発表が予定されていない。中東情勢に細心の注意を向けなければならない。バーナンキFRB議長が米国ワイオミング州ジャクソンホールでの恒例のシンポジウムで講演する。金融政策には言及しない可能性もあるが、注目が必要である。
 国内では23日(水)に7月貿易統計が発表される。日本の貿易黒字の減少傾向の持続が予想される。ドル支持要因となる。次期首相に就任することが確実視されている安倍晋三氏の発言に注目が集まっているが、25日(金)に講演が予定されている。経済政策路線についての発言に注目する必要がある。

2006年8月21日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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