コラム

今来週の金融市場の展望(2006年7月13日)

 6月29日のFOMC(連邦準備制度理事会)で、FRBは2004年6月のFOMC以来17回連続となる金利引上げを決定した。FFレートは今回の利上げにより、2004年6月の1.0%から5.25%に引き上げられた。
  市場は利上げ後のFRBのコメントに注目した。利上げ終結を示唆する表現が盛り込まれるのかどうかを注目した。前回FOMCまでは、利上げ後のコメントで「一段の金融引締めが必要になる可能性がある」と表現してきたが、今回は「必要となるかもしれない追加的な引締めの程度とタイミングは、物価と経済成長の見通しの変化に左右されるだろう」に変化した。

 利上げ終結を示唆してはいないが、利上げ終結に一歩近づいたことを示唆する表現がとられたわけだ。米国でインフレ懸念が広がっている直接の根拠は、消費者物価統計で、食品とエネルギーを除いたいわゆる「コア」の消費者物価前月比上昇率が3月から5月まで3ヶ月連続で+0.3%を記録したことである。前年比上昇率は5月に2.4%に達した。
  FRBが示している消費者物価コア指数の前年比上昇率は1-2%であり、すでにこの範囲を小幅ながら超えており、このまま前月比0.3%の上昇が続くと、前年比上昇率は3%に突入することになる。

 インフレ懸念が強まっている背景は原油価格の上昇である。指標とされているWTI先物価格は本年5月3日に1バレル=73ドル台の史上最高値を記録し、5月から6月にかけてのインフレ懸念再燃、FRBによる利上げ継続の背景となったが、原油価格はその後も強含みの動きを続けている。
  7月7日には1バレル=75ドル台の高値を記録した。原油価格が60ドル台に下落して安定傾向を示せば、市場のインフレ懸念は緩やかに後退してゆくと考えられるが、状況が明確になるまでに、なお暫くの時間を要すると考えられる。6月米国消費者物価指数は7月19日に発表される。次回FOMCは8月8日に予定されている。当面は7月19日の消費者物価統計のコア指数前月比上昇率が注目の的になるが、前月比上昇率+0.3%以上の数字が発表されると、インフレ懸念はなおおさまらず、8月8日のFOMCでの利上げ実施の可能性が高まる。

 米国ではFRBのインフレ未然防止姿勢が明確であり、最終的にはインフレの未然防止に成功してゆくことが予想されるが、FRBの利上げ政策が持続する間は、市場の先行き不透明感がなかなか払拭されにくいと考える。
  それでも主要国の株式市場は、6月中旬に底を記録したのではないかと考えられる。7月上旬にかけて5月から6月の下落幅の約半分の株価上昇(半値戻し)を記録したが、7月5日に北朝鮮がミサイル発射実験を行い、不透明感が広がって株価が反落した。

  こうしたなかで、日本銀行は7月14日の金融政策決定会合で「ゼロ金利政策解除」を決定する見込みである。3月9日に量的金融緩和政策を解除し、2006年後半にゼロ金利政策を解除することが予想されてきた。
福井日銀総裁は7月3日に発表された日銀短観において、大企業の業況判断DIが改善したこと、企業の設備投資計画が2006年度も非常に旺盛であること、6月30日に発表された5月消費者物価上昇率(生鮮食料品を除く)が前年比で0.6%上昇となったことを受けて、ゼロ金利政策解除を決定するものと考えられる。

内外の株式市場は、当面は不透明感を払拭できない状況を持続する見込みだが、米国経済は最終的にソフトランディング(インフレを顕在させずに経済成長を維持すること)を実現する可能性が依然として高い。原油価格が何らかの事情で高値更新を続けるのであればシナリオは転換せざるを得ないが、原油価格の安定が実現するなら、米国経済のソフトランディング実現の可能性はなお高い。

 日本経済の基調はしっかりとしており、こちらも景気失速の懸念は大きくない。1996年と2000年に株価が急反落に転じた状況と4月7日以降の日本株価下落の状況が非常に似ているために、日本の株式市場の先行きについても警戒感が強く残存している。ただ、96年、2000年と状況はまったく違う。96年は橋本政権が史上最強の財政緊縮政策を始動させたことが、事態悪化の原因になった。2000年は小渕元首相が逝去され、森政権が超緊縮の財政政策を実行し、1年後に小泉政権が緊縮財政政策を一段と強化したことが、事態悪化の原因になった。
  幸い、今回はそのような「政策逆噴射」が予定されていない。本年4月から6月にかけて日経平均株価が19%下落した最大の背景はNY市場における8%の株価下落だった。この株価下落が世界市場に伝播され、主要国の株価は約10%下落したのだ。日本の株価下落が大幅になったのは、日本の新興企業市場の株価が急落し、東証第1部にも影響を与えたからと考えられる。
  米国経済がソフトランディングを実現し、日本経済がゼロ金利政策解除を混乱なく消化できれば、株式市場は出直りに転じると考えられる。米国金融市場の不透明感が8月8日の次回FOMCまで残存することになると、日本市場の差先行き不透明感もそのころまで残存することになると考えられるが、その先の視界は良好になってくると考えられる。

 9月に実施される自民党総裁選挙であるが、安倍晋三氏、福田康夫氏のいずれが後継総裁に選出されても、当面は経済政策上の大きな方針転換は予想されない。政局のヤマ場はやはり2007年夏の参議院選挙である。参議院選挙で与党が参議院で過半数割れに追い込まれると、大きな変化が生まれる可能性が浮上する。2007年夏の参議院議員選挙の意味は非常に重いものとなる。

 今週は14日(金)に日銀の金融政策決定会合が終わり、結果が発表される。ゼロ金利政策が5年4ヶ月ぶりに解除される。解除後の市場の反応が注目される。7月28日(金)には7月東京、6月全国の消費者物価指数が発表される。
  7月15日(土)から17日(月)まで、ロシアのサンクトペテルブルグで主要国主脳会議(サミット)が開催される。米国では18日(火)に6月卸売物価指数が、19日(水)に6月消費者物価指数が発表される。また、バーナンキFRB議長が19日(水)と20日(木)に上院と下院の委員会で証言を行う。金融政策について言及するかどうかははっきりしないが、注目する必要がある。

 原油市況、米国金融政策の着地点、日本のゼロ金利政策解除および欧州の昨年来4度目の利上げ(8月3日実施の可能性あり)の金融市場への影響をじっくりと見定めることが必要である。

2006年7月13日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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