コラム

今週の金融市場の展望(2006年5月31日)

 5月10日以降の株式市場での調整局面が継続している。5月10日までの市場環境と5月10日以降の市場環境の根本的相違は、米国金融政策についての見通しである。4月18日に3月28日FOMCの議事録が公表された。FRBが利上げ終結を視野に入れていることが判明した。5月10日にFRBは、2004年6月以来16回目になるFFレート引上げを決定したが、利上げ後のコメントで利上げ終結を示唆する表現が盛り込まれるかが注目された。
  コメントには利上げ終結示唆は盛り込まれなかった。筆者は『金利・為替・株価特報』2006年4月17日号、5月1日号および4月21日付本コラムにて、4−6月にかけて、米国金融政策についての見通しが転換することを警告した。4月中旬、原油価格が昨年8月の史上最高値を更新して高騰した。昨年の経緯では、原油価格上昇が金融市場の懸念要因としてもっともつよく作用したのは10月だった。4月に原油価格が史上最高値を更新したことで、6月にかけて金融市場には警戒感が広がる可能性が高いことを警告したのである。

 5月10日以降、内外市場で株価が下落した。日本では、原油価格上昇、米国金融引締め政策持続観測浮上に加えて、二つの要因が株価下落要因として作用した。円高進行と企業会計不信の強まりである。円ドルレートは4月20日以降、10円幅での円高が進行した。1ドル=119円から1ドル=109円へと円高が進行した。4月20日米中首脳会談、4月21日G7後に円高が進行した。底流には中国人民元切上げ圧力が存在しており、人民元に連れての円高となった。
  いまひとつは、ライブドア問題に端を発する企業財務情報に対する不信感の強まりである。とりわけ新興市場では強い影響が生じており、東証マザーズ、大証ヘラクレス市場などでは、株価下落が非常に大幅になっている。新興市場の株価大幅下落が個人投資家の動きを鈍くしていることも市場低迷の大きな要因になっている。

 米国では、原油価格上昇の影響で金融引締め政策が長期化するとの観測が広がるなかで、これまでの金利上昇などの影響から経済活動が減速するとの思惑が強まり始めている。住宅価格上昇にいよいよブレーキがかかり始めてきた。金利の大幅上昇は、住宅投資の増勢を鈍化させる働きをこれから強く発揮することになると思われる。
  5月30日に発表された、コンファレンスボード消費者信頼感指数は4月の109.8から5月には103.2へ急落した。インフレ懸念と景気減速の組み合わせは、いわゆる「スタグフレーション」懸念を意味しており、株式市場は「スタグフレーション」懸念に巻き込まれつつある。

 イランの核開発疑惑、今後のハリケーンによる産油設備への影響などが懸念されて、原油価格はWTIで1バレル=70ドル台の推移を続けている。シカゴ連銀のモスコウ総裁は5月30日に、米国のインフレ率が許容範囲の上限に張り付いていることを指摘し、追加的な利上げを示唆した。
  5月30日のNY株式市場では、利上げ継続観測、景気減速観測を背景にNYダウが前日比184.18ドル下落し、11094.43ドルに下落した。5月10日の11,642ドル以来548ドル、4.7%の下落を記録している。

 日経平均株価は4月7日17,563円から約2000円、11%の下落を示している。東証マザーズ市場では株価指数が本年1月の高値から約50パーセントの下落を示しており、暴落状況となっている。新興市場を中心に株価下落が非常に大幅になっており、投資家の損失拡大が株式市場の動きを非常に鈍いものにしていると考えられる。
  米国のインフレ懸念は6月末までくすぶるものと考えられ、6月末ころまで不透明な市場環境が持続しそうである。

 しかし、日本経済のファンダメンタルズは悪化していない。5月30日に発表された4月鉱工業生産指数は前月比1.5%の上昇を示し、指数は過去最高を記録した。東証第1部225種の2007年3月期予想PERは20倍にまで低下している。企業の益利回りは5%に上昇しており、債券利回り2%と比較して、株式利回りはあまりにも高水準(株価があまりにも低水準)になっている。
  原油価格が小幅下落し、米国でのインフレ懸念が後退し、米国利上げ終結観測が広がれば、米国株価は再上昇に転じるものと考えられる。この状況を受けて、日本市場でも株価が再上昇に転じるのではないかと考えられる。
  本日31に前回FOMC(5月10日)議事録が公表される。6月2日(金)には5月米国雇用統計が発表される。景気減速、インフレ指標を両睨みしながら、どのような政策の方向感が浮上するかが注目される。

 原油価格の落ち着きを前提に置けば、当面の不透明感強まりののちの市場環境の好転を期待することができるのではないか。

2006年5月23日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

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