コラム

今週の金融市場の展望(2006年5月23日)

 株価下落が持続している。日経平均株価は5月9日には17,190円だった。4月7日に17,563円をつけて以来小幅下落はしていたが、高値圏内での推移を続けていた。NYダウは5月10日に11,642ドルに達した。史上最高値である2000年1月14日の11,722ドルまであと80ドルに迫った。

 5月10日ころから内外市場で株価下落が強まった。日経平均株価は5月23日終値で15,599円に下落した。5月9日からの下落は1591円、9.3%、4月7日からの下落は1964円、11.1%になった。短期間での急落である。
 NYダウは5月22日に11,125ドルまで下落した。5月10日からの下落は517ドル、4.4%である。株価下落の要因は(1)米国の金融引き締め政策終結観測が後退したこと、(2)為替市場で円高が進行したこと、(3)円高の進行、(4)日本の会計制度不信の顕在化である。とりわけ日本の新興市場では(4)会計制度不信の要因が加わって大幅な調整を示している。

 わずか10日あまりの時間のなかで、市場の空気は一変してしまった。株価下落が弱気の投資家心理を呼び起こし、株価下落が加速する。投資家の投げ売りが株価の下方へのオーバーシュートを生み出す。
 だが、冷静に考えてみると、経済のファンダメンタルズには大きな変化は生じていない。4月から5月にかけての最大の変化は、原油価格の急騰と為替レートの円高へのシフトだった。原油価格が上昇し、インフレ懸念が強まり、米国金融引き締め政策終結観測が大幅に後退した。

 4月20日、米中首脳会談、4月21日G7後に円高が進行した。こうした環境変化があったことに加えて、3月期決算の発表日程変更などが重なり、日本の株価が幅のある調整を演じたのだ。
 原油価格は1バレル=75ドルにまで上昇したが、その後は落ち着いている。為替レートは1ドル=109円台まで円高が進行したが、その後は若干円安に戻り、落ち着いた動きを示している。

 米国の金融政策について、カンザスシティー地区連銀のホーニグ総裁は5月19日にWSJのインタビューに対して、「米国の利上げの行き過ぎを警戒」するコメントを発している。金利引き上げ政策の効果発動には時間がかかる。これまでの利上げの効果により、米国景気に下方圧力が生じ、インフレ圧力が除去されるには多少の時間がかかると予想されるが、金利引上げ政策は確実に効果をあげてゆくとの見通しが示されたとも言える。
 短期で幅のある株価調整が生じたから、株価本格回復には多少の時間が必要になるだろう。筆者はすでに本コラムや『金利・為替・株価特報』で4−6月の株価調整の可能性を指摘してきているが、やはり6月ころまで調整局面を抜けきることは難しいと考える。

 だが、トレンド転換のリスクはそれほど高くないと考える。米国では、目先のインフレ懸念が後退した後にNYダウは市場最高値更新に向かうだろう。米国での利上げ終結観測が広がり、NYダウが市場最高値を更新した後に、日本市場も本格的な出直りを示すのではないか。日本の株式市場は押し目買いのチャンスを迎えていると考える。

 為替市場では、円高材料に投資家が反応しやすいが、今後、米国の財政収支が2005年度に引き続き、2006年度も改善するとの見通しが示されると、金利差に支えられた米ドルがある程度値を戻すことも考えられる。

 原油価格がさらに急騰を続ける、あるいは為替市場で1ドル=105円を超す円高が生じるのであれば、シナリオの抜本的な転換が必要だが、原油、為替に関する前提が崩れないのであれば、足元で生じている市場の変動は一過性の現象と捉えておくべきではないかと考える。

 今週国内では、25日(木)に4月貿易統計、26日(金)に4月全国、5月東京の消費者物価指数が発表される。来週30日(火)には、4月鉱工業生産指数が発表される。貿易統計では日本の貿易黒字の16ヵ月連続前年比減少が示される見通しである。4月鉱工業生産指数は前月比で大幅プラスが予想されている。

 米国では、24日(水)に4月耐久財受注、4月新築1戸建て住宅販売、26日(金)に4月個人消費支出、4月コアPCE価格指数が発表される。コアPCE価格指数は前月比0.2%の上昇が見込まれている。
 政策当局者の発言機会としては、23日(火)にバーナンキFRB議長の上院での証言、スノー財務長官の上院での証言、24日(水)にグロズナーFRB理事の講演、27日(土)にイエレン・サンフランシスコ連銀総裁の講演が予定されている。

 原油価格上昇の影響で内外金融市場には霧が立ち込めており、しばらく霧が残存することが予想されるが、原油価格の落ち着き、米国金融引き締め終結観測の広がりとともに、金融市場には再び光が差し込んでくるのではないかと考える。

2006年5月23日
スリーネーションズリサーチ株式会社
植草 一秀

コラム一覧
2006/12/24 2006年の年間回顧と2007年経済金融情勢の展望
2006/12/10 初公判における意見陳述について
2006/12/10 日本の望ましいポリシー・ミックスについての考察
2006/12/02 06年度補正予算編成と今後の経済金融情勢
2006/11/29 当面の内外政治経済金融情勢
2006/11/15 米国中間選挙結果と今後の内外政治経済金融情勢
2006/10/29 NYダウ史上最高値更新と今後の金融市場
2006/10/04 日銀短観(10月2日)と今後の金融市場の展望
2006/10/01 安倍政権の発足と今後の日本経済・金融市場への影響
2006/09/07 今来週の金融市場の展望(2006年9月7日)
2006/09/01 『金利・為替・株価特報』発行日変更のお知らせ
2006/08/30 今来週の金融市場の展望(2006年8月30日)
2006/08/21 今週の金融市場の展望(2006年8月21日)
2006/07/14 『金利・為替・株価特報』041号発行日変更についてのお知らせ
2006/07/13 今来週の金融市場の展望(2006年7月13日)
2006/07/03 『金利為替株価特報2006年7月前期号』040号発行日変更のお知らせ
2006/06/12 今週の金融市場の展望(2006年6月26日)
2006/06/12 今週の金融市場の展望(2006年6月12日)
2006/05/31 今週の金融市場の展望(2006年5月31日)
2006/05/23 今週の金融市場の展望(2006年5月23日)
2006/05/16 『金利・為替・株価特報』037号発行日変更のお知らせ
2006/05/15 今週の金融市場の展望(2006年5月15日)
2006/04/21 来週の金融市場の展望(2006年4月21日)
2006/04/14 『金利・為替・株価特報』035号発行日変更のお知らせ
2006/04/10 今週の金融市場の展望(2006年4月10日)
2006/04/04 今週の金融市場の展望(2006年4月4日)
2006/03/27 『金利為替株価特報』034号発行日変更のお知らせ
2006/03/27 今週の金融市場の展望(2006年3月27日)
2006/03/20 今週の金融市場の展望(2006年3月20日)
2006/03/14 今週の金融市場の展望(2006年3月14日)
2006/03/07 今週の金融市場の展望(2006年3月7日)
2006/02/23 『UEKUSAレポートPlus』連載開始のお知らせ
2006/02/23 弊社調査本部移転のお知らせ
2006/02/23 今来週の金融市場の展望(2006年2月23日)
2006/02/13 今来週の金融市場の展望(2006年2月13日)
2006/02/03 今来週の金融市場の展望(2006年2月3日)
2006/01/24 今週の金融市場展望(2006年1月24日)
2006/01/17 今週の金融市場展望(2006年1月17日)
2006/01/17 『ウエクサ・レポート』発刊のお知らせ
2006/01/17 『金利・為替・株価特報』ご購読の皆様へ
2006/01/10 今週の金融市場展望(2006年1月10日)