コラム

今週の金融市場の展望(2006年5月15日)

 諸般の事情により本コラムの執筆に時間が空いてしまいました。4月21日以来の本コラムの執筆となり、読者の皆様には大変ご迷惑をおかけいたしました。謹んでお詫び申し上げます。

 筆者は『金利・為替・株価特報』2006年4月17日号、同2006年5月1日号、ならびに4月21日付本コラムにおいて、投資戦略上の見通し変更を記述した。4月中旬に原油価格が史上最高値を更新した。一方で4月18日に、3月28日の米国FOMC(連邦公開市場委員会)で米国の金融引締め政策終結が近いことが論議されたことが公表された。金融市場では「金融引締め終結近し」の観測が広がり、NYダウは5月10日終値が11,642ドルに到達し、2000年1月14日の11,722ドルの史上最高値まであと80ドルの位置まで上昇した。

 筆者は原油価格史上最高値更新とFOMCでの金融引締め終結論議の時間的関係に注目した。時間的に先行しているのは金融引締め終結論議である。これは3月末の出来事だ。これに対して原油価格史上最高値更新は4月中旬の事象だ。4月中旬に市場観測が交錯したのは、3月末のFOMC議事録が4月18日に公表されたためである。

 筆者は昨年8月末の原油価格史上最高値突破の金融市場への影響を参考にすべきことを指摘した。昨年の場合、原油価格最高値更新が金融市場にもっとも強い影響を与えたのは10月だった。原油価格上昇が9月の物価指数に影響し、10月中旬に発表された。このときが金融市場での警戒感のピークになった。
  原油価格が先んじて大幅に下落してしまえば、事後的に高い物価上昇率が発表されても金融市場は悪材料視しないと考えられるが、原油価格が最高値近辺で推移する場合、原油価格上昇にともなうインフレ警戒感は6月まで残存し、6月29日のFOMCでの追加利上げの可能性は高い確率で残ることを指摘した。

 金融市場は5月初旬にかけて、利上げ終結ムードに包まれて堅調に推移したが、バーナンキFRB議長自身が「市場はFRBが利上げを終結すると誤解している」と発言するなど、市場の「利上げ終結観測」には次第に揺らぎが生じてきている。
  5月10日のFOMCでは、予想通りFRBが2004年6月以来16回連続となるFFレート引上げを決定した。市場はFOMC後のFRBコメントを注視したが、コメントには「ある程度の金融引締めが必要になるかもしれないが、その程度とタイミングは経済見通しの変化に左右される」と記述された。

 結局、市場が期待していた「利上げ終結示唆」は明確には示されなかった。筆者は内外株式市場にとっては、原油価格動向が最大のリスクファクターであり、4月中旬に原油価格が史上最高値を更新したことから、4−6月にかけて金融市場に不透明感が広がる可能性が高いことを指摘してきた。
  『金利・為替・株価特報』2006年5月1日号では、正式に「基本観としては、従来見通しを若干修正し、当面の高値達成時期が8月ころにずれ込むこととする。日本の株価は4月から6月ころまでは米国株価変動の影響を受けて神経質なもみ合いが続くと考える。原油価格が小幅反落し、NYダウが史上最高値を記録することに連動し、日本市場でも8月ころに19,000円台に到達することになるのではないか。」と記述した。

 原油価格上昇、米国金融引締め持続観測残存、米国株価調整の外部環境の下で、当面、日本の株式市場は6月ころまで「ボックス相場」を形成する可能性が高いと考える。
  ここで重要なのは、大局観をどう持つかである。鍵を握るのは原油市況である。原油価格が1バレル=80ドル突破、90ドル方向に上昇を続ける場合、世界的に株価は幅のある調整に見舞われることになるだろう。各国長期金利が上昇し、景気の先行きについても強い懸念が生じるだろう。
  原油価格が1バレル=70ドル台でピークをつけて反落する場合、米国金利引上げは6月で中断され、NYダウは史上最高値を更新するだろう。日本の株価ももみ合いを経た後に再上昇し、8月ころに当面の高値を記録することになるのではないかと考える。

 今週の国内日程では、本日15日(月)に3月機械受注、福井日銀総裁講演、16日(火)に4月消費動向調査、18日(木)に4月東京地区百貨店売上高の発表が予定されている。最大の注目点は19日(金)の2006年1-3月期GDP1次速報である。

 機械受注は小幅プラスが予想されている。1-3月期GDP統計では、前期比0.3%、年率1.1%の小幅プラスの実質経済成長率が予想されている。昨年10-12月期の成長率は年率5.4%だったから、これと比較すると大幅低下の数値の発表が予想されているが、すでに市場はかなり織り込んでいると考えられる。
  4月東京百貨店売上高は天候要因から3月数値よりも悪化すると見られている。全体的に経済活動の改善一服を示す指標が多くなる見込みである。

 米国では16日(火)に4月卸売物価指数、4月住宅着工件数および着工許可件数、4月鉱工業生産指数、17日(水)に4月消費者物価指数が発表される。また米国政策当局の発言機会として、16日(火)にバイズFRB理事、ガイトナーNY連銀総裁、オルソンFRB理事、クロズナーFRB理事、バーナンキFRB議長の講演、17日(水)にスノー財務長官の議会証言、18日(木)にウォーシュFRB理事、バーナンキFRB議長、ラッカー・リッチモンド連銀総裁、プール・セントルイス連銀総裁、グリーンスパンFRB前議長の講演およびスノー財務長官の議会証言、19日(金)にガイトナーNY連銀総裁の講演が予定されている。
 
  とりわけ、4月卸売物価、消費者物価が注目される。原油価格の上昇から高めの上昇が見込まれている。市場予想は卸売物価が前月比+0.8%、消費者物価が前月比+0.5%である。市場の関心はコア指数(食品・エネルギーを除く指数)の上昇率に集中するが、それぞれ前月比+0.2%が見込まれており、結果が注目される。

 日経平均株価は4月7日終値が17,563円を記録し、2003年4月以来の高値となった。その後、調整を演じて5月15日ザラ場で16,300円台まで下落した。下落幅は1200円を超えており、調整局面での「押し目」が形成されている。
  為替市場での円高進行が日本の株式市場の不透明感を強めたが、ドルの下落も一巡する可能性が高い。詳しくは『金利・為替・株価特報』2006年5月16日号を参照いただきたいが、日本株式は当面「押し目買い」戦略を基本に据えるべきではないかと考えられる。ドルが当面の安値に近いと考えれば、輸出関連銘柄の押し目はチャンスを提供している可能性がある。

 自民党総裁選は安倍晋三氏と福田康夫氏の一騎打ちの可能性が徐々に高まりつつある。アジア外交が総裁選の大きな焦点として浮上してきた。政局の最大の焦点は2007年7月の参議院選挙である。4月23日の千葉7区衆議院議員補欠選挙で民主党候補が勝利し、小沢新代表を戴いた民主党が勢いを強めており、参議院での与党過半数割れの可能性も見えてきた。
  9月自民党総裁選挙では民主党の政策姿勢が強く意識されることになり、このことが今後の日本の経済政策運営に強く影響することになる。分析は『金利・為替・株価特報』に譲ることとするが、2007年に向けての金融市場展望の最大のポイントになってくる。

2006年5月15日
植草 一秀

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