コラム

今週の金融市場の展望(2006年4月10日)

 日経平均株価は予想通り、1−3月の調整期を通過したのちに昨年5月17日以来の上昇トレンドのなかの上昇第三波動に移行した。日経平均株価は1月13日に16,454円を記録して以後、調整局面に移行した。1月18日には15,341円に下落、2月6日に16,747円の高値を記録したが、再び反落。2月20日に15,437円を記録し、2月28日に16,205円に再上昇するも3月8日には15,627円へと三たび下落した。3月28日に16,690円に達し、2月6日終値を上回り、調整完了がチャートのうえで確認された。
  年度末株価は17,059円となり、終値では年度最高値で2005年度の取引を終了した。1−3月の間、調整が長引き、株価上昇の終焉を唱える見解が急増したが、筆者は見通しを変更しなかった。昨年秋以来、2006年央19,000−20,000円到達の見通しを維持し続けてきた。
  昨年9月より、今回の日本の株価上昇が1995−96年の株価上昇と似た軌跡をたどる可能性が高いことも述べ続けてきた。95−96年の日経平均株価8000円上昇のケースでは、3ヵ月3000円上昇の波動が三度形成される合間に1−1.5ヵ月1400円幅の調整が二度観測された。今回は昨年10月に20日間600円の調整が生じたが、筆者は1月10日に、95−96年同様の調整が入るとの見通しを示してきた。現実には、2月6日高値を基準とすると1ヵ月1100円幅での調整が入った。

 株価上昇の理由は「割安修正」である。日本の株価は企業収益、長期金利を基準にすると依然として割安な状況に置かれている。経済の改善傾向が続く間は株価の「割安修正」が持続する可能性が高い。4月3日に発表された日銀短観3月調査では、大企業製造業の業況判断が小幅悪化したが、全体としては、緩やかな経済改善のトレンドが持続していることが確認された。中小企業では多数の業種で不況感が依然として濃厚であり、経済全体の一段の改善が最重要の政策課題であることが改めて明示されたが、日本経済全体では緩やかな経済改善傾向が持続していることが示唆された。
 
  先週のハイライトは何と言っても民主党の代表選挙だった。ついに小沢一郎氏が民主党代表の地位に就いた。日本の政治状況の急変が予想される。民主党はメール問題でつまづき、国会における存在感を完全に失っていたが、メール問題発生によって、執行部が完全な新体制に移行した。
  筆者がこれまで多くのメディアを通じて主張してきた、小沢一郎氏を頂点とし、鳩山由紀夫氏と菅直人氏が補佐役となる最強の布陣がついに日の目を見ることになった。菅直人氏が代表選挙に立候補したために、民主党が二分されてしまう懸念があったが、選挙実施前に小沢氏、菅氏が話し合いの場を持ち、選挙結果に関わりなく、選挙後は挙党体制を構築する方針が確認された。小沢氏、菅氏をはじめとして鳩山氏、羽田氏、横路氏などの民主党幹部が挙党体制構築の重要性を訴えて調整に動いた成果が表れたと言ってよいだろう。

 昨年9月11日総選挙は、小泉政権がホリエモンなどを全面活用し、また主要メディアが小泉政権支援に全面協力したために、ムード先行で自民党が地すべり的勝利を収めた。だが、自民党が多数議席を確保したのは小選挙区制度の特性によるところが大きかった。自民党は得票率をはるかに上回る議席獲得率を享受した。見落としてならないのは、非常に多数の国民が民主党に投票した事実である。小泉政権批判票は極めて多く存在した。歴史に「もし」は無力かも知れないが、ライブドアの堀江貴文前社長の逮捕が選挙中にあったなら、自民党の得票は激減していたものと考えられる。
  小選挙区制度が導入された最大の狙いは、「政権交代が生じる政治システム」であった。自民党に代替しうる強力な政権を担いうる野党の存在が、政治に緊張感を生むのである。新生民主党に対する有権者の期待は非常に大きい。

 年初来、耐震構造偽装、防衛施設庁汚職、米国産輸入牛肉への危険部位混入、ホリエモン逮捕など、小泉政権のひずみを象徴する出来事が相次いだ。国会において小泉政権を追及すべきテーマが山積していた。そのなかで民主党はメール問題で大失策を演じたのである。小泉政権に対して冷静でかつ厳しい視線を送る国民の負託は宙に飛んでしまった。
  だが、「人間万事塞翁が馬」である。民主党にとっての最大の危機が、民主党に起死回生をもたらすきっかけを提供した可能性がある。小沢氏、鳩山氏、菅氏が政権交代に向けてスクラムを組むなら、政治の状況は一変する可能性がある。この意味で4月23日投票の千葉7区の衆議院議員補欠選挙は大きな関心を集めることになる。

 今週国内では、10日(月)に2月機械受注が発表された。民間設備投資の先行指標である「船舶、電力を除く民需」の受注額(季節調整済)は前月比3.4%増となり、2カ月ぶりに増加した。11日には日本銀行の政策決定会合を受けて15時30分より福井日銀総裁が記者会見を開く。米国では、12日(水)に2月貿易収支、3月財政収支が発表される。13日(木)には3月小売売上、4月ミシガン大学消費者信頼感指数、14日(金)に3月鉱工業生産指数が発表される。

 先週7日に発表された米国3月雇用統計では、非農業部門の雇用者が前月比21.1万人増加した。事前の市場予想19万人増を上回った。また、失業率は2月の4.8%から0.1%ポイント低下して4.7%となった。失業率は4年半ぶりの低水準になった。時間当たり賃金は前月比0.2%の上昇となり、市場予想の+0.3%を下回った。

 インフレ懸念を大きく拡張する統計内容ではなかったが、市場では、米国の金利引上げ政策が拡大するとの思惑が広がり、株価下落、長期金利上昇、ドル上昇の反応が生じた。5月10日のFOMCでの金利引上げはすでにコンセンサスになってきているが、6月29日のFOMCでも利上げが継続されるとの見方が広がり始めている。市場のインフレ警戒感はやや先走りすぎの傾向があると見られる。
  今週、FRB関係者では、10日(月)にオルソンFRB理事講演、バイズFRB理事講演、11日(火)にフィッシャー・ダラス連銀総裁講演、スターン・ミネアポリス連銀総裁講演、13日(木)にコーンFRB理事講演、バイズFRB理事講演、オルソンFRB理事講演が予定されている。
 
  日本では、18日(火)に日銀支店長会議が開かれ、28日に日銀から「経済・物価情勢の展望」が公表される。ゼロ金利解除についての論議が今後高まってゆくと考えられる。物価、生産、雇用の重要統計の発表は28日(金)に集中する。ゴールデンウィーク前に資金運用のポジションを軽くする動きが4月後半には取られる可能性がある。
  米国では17日(月)の週に物価統計が発表される。引き続きインフレ懸念とFRBの対応が市場の最大の関心事項であるだけに、17日の週が注目されることになる。

 当面のもうひとつの監視事項は原油価格である。先週末はナイジェリアの石油生産施設の操業再開に楽観的な情報が伝わり、原油価格が小幅低下した。それでもWTIは1バレル=67ドル台の高値で推移しており、原油市況からは目を離せない。米国のイランに対する姿勢は引き続き強硬であり、米国がイランに対して部分空爆を検討しているとの情報も流れている。中東情勢と原油市況の動きには常に目を配っておく必要がある。

 当面、日本株価上昇、ドル堅調、長期金利強含みの市場推移が予想される。4月下旬、GWに向けてのポジション調整から日本株価が小幅調整する可能性は考えられる。だが、日経平均株価年央19,000円台乗せの予測は維持することとする。米国金利引上げ政策は5月から6月に分水嶺に差し掛かると考えられる。年後半、ドルが下落しやすくなると考えられる点に留意が必要である。長期金利は世界的に上昇傾向を示している。金利の中長期のトレンドが転換していることを念頭に入れておくべきである。

 日本の政治に久しぶりに緊張感が復帰する可能性が高い。「小泉改革」の真贋を判定する明確な事項が政府系金融機関再編に関しての「天下り」問題である。小泉政権が「天下り」をあくまで死守しようとするなら、「小泉改革はまやかし」であることが明白になる。この問題についての民主党の追及が期待される。

2006年4月10日
植草 一秀

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