コラム

今週の金融市場の展望(2006年3月27日)

 2005年度も残すところ1週間になった。昨年8月8日の郵政民営化法案の参議院本会議での否決後、日本の株価は本格上昇を示した。小泉政権はこの4月末で政権発足から満5年の任期を経過する。最近、株価が上昇したので、小泉政権関係者は小泉政権の経済政策が成功したかのような説明をするが、事態改善は小泉政権の政策の成果ではない。小泉政権が当初示した政策方針を実行した期間は、日本経済は明らかに悪化した。景気は激しく落ち込んだし、株価は暴落した。企業倒産は激増し、金融恐慌さえ現実の問題になった。
 2003年春を境に日本経済は奈落の渕からの生還を果たしたが、その最大の理由は、小泉政権が当初示していた「改革」と称する政策を全面的に撤回したことにあった。この事実を的確に掴まない限り、正しい経済政策の方向も打ち出せないし、日本経済の改善を持続させることもできないだろう。

 小泉政権は当初、「緊縮財政」と「企業の破たん処理推進」を政策の中心に置いた。その結果として、株価大暴落、経済崩落、金融危機が日本経済を覆い尽くした。2003年春以降、「企業の破たん処理推進」は「税金による大銀行救済政策」に大転換された。「緊縮財政」の方針も、結局、2001年度以降、毎年度5兆円規模の大型補正予算が編成されたことに示されるように、180度の転換が示されてきた。
 こうした政策大転換を背景に日本経済の方向が転換したところに、2003年後半以降、米国経済拡大、中国経済拡大、デジタル家電ブームのフォローの風が追い風になり、日本経済の浮上が実現した。企業は労働コストの圧縮を進展させ、大企業を中心に企業収益が大幅に改善した。

 2005年8月8日以降の株価上昇は、日本企業の株価水準が理論的妥当値から大幅に下方に乖離している状況の是正が始動したものと筆者は判断してきている。現在の日本の長期金利水準を踏まえれば、日経平均株価は20,000円を超えていてまったくおかしくない。12,000円の株価水準が19,000円から20,000円水準に修正される動きが昨年8月8日以来顕在化しているというのが筆者の判断である。
 今回の株価上昇の波動は、チャートから見ると昨年5月17日を起点にしている。5月17日の10,825円から10月4日の13,738円までが4ヵ月半で2913円の上昇。10月24日の13,106円まで632円の調整が入ったのち、10月24日から1月13日の16,454円までが3ヵ月弱で3348円の上昇となった。1月13日から3月24日まで日経平均株価は15,341円から16,747円までの1406円の範囲内での推移を続けてきた。

 株価調整の背景は三つだった。ライブドアに対する強制捜査が1月16日夕刻に行なわれたが、ライブドア摘発を契機に株式市場では新興市場を中心に大幅な株価下落の反応が生まれた。第二は米国の金利引上げ政策が予想以上に長期化するとの見方が広がったことだ。原油価格上昇もこの見方を補強した。第三は日本の金融政策スタンスの変化である。3月9日に日本銀行は量的金融緩和政策の解除を決定した。
 株価の調整は三次にわたって展開された。1月下旬の株価調整の最大の背景は「ライブドア・ショック」だった。1月18日に日経平均株価は15,341円にまで下落した。だが、1月27日には1月13日終値を上回り、2月6日には16,747円にまで上昇した。第二次の調整は2月10日以降に広がった。ライブドアの上場廃止観測が広がったのだ。2月20日に日経平均株価は15,437円にまで下落した。第三次の調整は3月入り後に生じた。日本銀行による量的金融緩和解除観測が広がったのだ。日経平均株価は2月28日には16,205円まで反発していたが、3月8日には15,627円にまで下落した。

 三つの問題はとりあえず峠を越えつつある。ライブドア・ショックは一巡した。日本銀行の量的金融緩和政策解除は福井日銀総裁の巧みな政策誘導により、大きな混乱なく実施された。本年後半にゼロ金利解除が行なわれると考えられるが、政策変更の第一のハードルである量的緩和解除は極めて円滑にクリアされた。米国の金利引上げ政策については3月28日のFOMCでの15回目の利上げはすでに織り込まれている。5月10日については見通しが分かれている。だが、米国金利引上げ政策が終盤に差しかかっていることははっきりしている。
日本経済が改善傾向を維持するならば、1−3月の調整局面を経過したのちに日経平均株価が昨年5月以来の上昇波動の第三波動に移行する可能性は依然として高いと考えられる。この意味で4月3日(月)に発表される日銀短観2006年3月調査結果が注目される。

 今週、国内では27日(月)に法人企業景気予測調査(2006年1−3月)、30日(木)に2006年2月鉱工業生産指数、31日(土)に3月東京、2月全国消費者物価指数、2月失業率、2月有効求人倍率が発表される。27日(月)に発表された法人企業景気予測調査では、大企業全産業の景気判断指数が2005年10−12月期のプラス10.5から、2006年1−3月期には6.1に低下したことが発表された。原油価格の上昇で先行き不透明感が増したこと、2月に雨天が多かったことなどが影響したと考えられる。4月3日発表の日銀短観での業況判断DIが悪化する懸念が生じてきている。
 31日(金)発表の物価統計では2月全国消費者物価指数が前年比で+0.5%程度の数値になることが見込まれている。昨年10月以来、5ヵ月連続での前年比ゼロ以上の数値となる。30日(木)発表の2月鉱工業生産指数では、7ヵ月ぶりに生産指数が小幅低下することが予想されている。だが、先行きの予測指数ではプラス数値が発表される可能性が高く、生産の改善基調は継続することが見込まれている。ただ、短期的には生産指数の前月比マイナスに市場が反応することも考えられる。

 米国では、27日(月)、28日(火)に連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される。2004年6月以来15回目の利上げが決定される見通しである。FFレートは2004年6月の1.0%よりも3.75%高い4.75%に達する見通しである。市場の関心はFOMC後に発表されるFRBのコメントに注がれている。
 先週24日(金)に発表された2月の新築1戸建て住宅販売は季節調整後の年率前月比で10.5%の減少を示した。また、2月末の新築住宅在庫戸数も54.8万戸と過去最高を記録した。2004年以来の金利引上げ政策がようやく住宅投資抑制の影響を発揮し始めたとも考えられる。FRBは今後の政策について、今後の経済指標を注視する方針を示すと考えられるが、金利引上げ終結を示唆する表現が加えられるかに関心が集まるだろう。

 また、30日(木)に2005年10−12月期GDP確定値、31日(金)に2月シカゴ購買部協会景気指数が発表される。FRB関係者の発言機会としては、29日(水)にガイトナー・NY連銀総裁、ラッカー・リッチモンド連銀総裁、バイズFRB理事、30日(木)にプール・セントルイス連銀総裁、31日(金)にファーガソンFRB副議長、ホーニグ・カンザスシティー連銀総裁、バイズFRB理事の講演等が予定されている。
 今後のFRBの金融政策の自由度を狭めるような発言は予想されないものの、利上げ終結が近付いていることを示唆する発言が含まれるのかが注目される。

 日本経済の改善継続について、慎重論が聴こえ始めている。企業収益の伸び率の鈍化、景況感改善ペースの低下、設備投資伸び率の低下などが懸念され始めている。しかし、いまのところ景気悪化を示す兆候は観測されておらず、あまりに先走った悲観論は必要ないだろう。日本経済にいま必要なことは、成長の持続である。大企業の景況感は良いが、中小企業では非製造業を中心に景況感は依然として深刻な不況の下に置かれている。経済成長持続重視の政策方針を明示して、経済主体の心理悪化を回避しなければならない。

 3月27日付日本経済新聞が報じた世論調査では、小泉内閣に対する支持率が2月の前回調査での45%から3%ポイント上昇して48%になった。失策4点セットが並べられたのに支持率は逆に上昇した。最大の要因はメール問題での民主党の対応の拙さである。次期首相にふさわしい人物についての調査では、民主党代表の前原氏をあげたのは1%にとどまった。
 民主党が体制を刷新しなければ、日本の政治は一党独裁に陥ることが明白になっている。政治の次の焦点は2007年夏の参議院選挙だから、民主党はこの選挙に照準を合わせて、新体制を構築すべきである。前原代表の降板を明確にしたうえで、いつ新体制を構築するか、新体制をどのような布陣するか、直ちに検討を開始するべきだろう。新体制は小沢一郎氏、鳩山由紀夫氏、菅直人氏、横路孝弘氏などのベテラン幹部が叡智を結集して、挙党一致で決定すべきである。世論調査は民主党の体制刷新が不可欠であることを明確に示している。

2006年3月27日
植草 一秀

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