コラム

今来週の金融市場の展望(2006年2月23日)

 日本の株式市場でのもみ合いが続いている。日経平均株価は1月13日に16,454円を記録した。昨年10月24日の13,106円から3ヵ月弱で3348円の株価上昇となった。非常に急ピッチの株価上昇で、スピードに対する調整が求められる局面だった。
 筆者は本年1月10日付の本コラムで次のように記述した。
 「日本の株式市場では、これまでの急ピッチな上昇に対する警戒感が広がり始めている。8月8日以降の株価急上昇は10月4日まで続いた。10月21日からの株価上昇は2006年年初まで持続した。日経平均株価で3000円強上昇して半月ほどの調整を演じ、次の上昇波動に移行する変動が示されてきた。16,000円台なかばまで上昇しただけに、小幅調整が生じてもおかしくはないタイミングである。」

 このタイミングで1月16日の夕刻に、ライブドアに対する家宅捜索が行なわれた。日経平均株価は1月13日の16,545円から1月18日には15,341円へと下落した。堀江貴文ライブドア前社長らが逮捕された1月23日以降、株価は上昇に転じて1月27日には16,460円と1月13日の高値を更新した。短期間で調整完了かに見えた。2月6日には16,747円の高値を記録した。
 ところが、2月10日以降、堀江前社長らの粉飾決算容疑での再逮捕、ライブドアの上場廃止の可能性が伝えられ、再び調整色が強まった。2月20日には15,437円まで下落した。

 2月13日付の本欄で筆者は、「15,000円台前半への調整の可能性」を指摘する一方で、「だが、基本シナリオを変更する必要性は高くないと考える。」と記述した。昨年8月以降の株価本格上昇について、筆者は1995年から96年にかけての株価上昇と類似した株価推移が予想されると述べてきた。
  2月13日付本欄でも記述したように、95年から96年にかけての株価上昇局面では3000円幅の株価上昇が3度実現する過程のなかで2度の調整局面が存在した。95年9月から10月にかけての1421円の下落と、96年2月から3月にかけての1384円の下落である。
  2月6日に16,747円の高値を記録しているが、調整自身は1月13日から始動している。15,000円台前半への調整を経て、株価は2月下旬ないし、3月から株価上昇の第三波動に移行する可能性が高いとの見通しを現状でも維持している。

 株価の大幅上昇局面でも、単純な右肩上がりの株価推移は過去あまり存在していない。人間の呼吸と同じように、循環、リズムが存在する。株式市場では株価が急落すると先行きが非常に悲観的に見え、急騰すると先行きが非常に明るく見えるものである。「高値掴み」や「狼狽売り」はこうした状況から生まれる。しかし、「人の行く裏に道あり花の山」の格言が示すとおり、一歩距離を置いた冷静な判断が必要である。

 重要なのは「基本観」だ。筆者は昨年8月下旬から、今回の株価上昇が2006年半ばに向けての8000円幅での株価上昇になるとの見解を示してきた。株価上昇の主因は「割安修正」であると判定し、経済の改善傾向が維持され、外的ショックが発生せず、国内経済政策の混乱が生じないとの前提条件付きではあるが、2006年半ばに19,000円から20,000円の水準まで株価本格上昇が実現するのではないかとの見通しを示してきた。
  米国では2006年の前半まで金利引上げが続くが、利上げ終結観測が広がるなかでNYダウが11,000ドルの上値抵抗ラインを上方に突破し、2006年半ばにも、2000年1月14日に記録した11,722ドルの史上最高値を6年半ぶりに更新する可能性が高いとも予測してきている。

 現在までの市場変動は、ほぼ予測どおりである。今後については、(1)原油市況および米国のインフレ懸念、金利引上げ懸念、(2)日本の金融政策変更の影響、(3)ライブドアショックの横への広がり、の三点が要監視事項である。
 ライブドアショックをきっかけにして株式市場の調整が発生したが、ファンダメンタルズに大きな変化が生じているわけではない。日本経済の改善傾向は持続しているし、2006年は経済改善を破壊するような極端な景気抑制政策は見込まれていない。
  米国、中国、原油が外的な重要要因であるが、現段階では大きな波乱はメインシナリオではない。米国は金利引上げ政策継続によりソフトランディングを実現し、中国は当面経済成長を持続させる。原油市況は不透明ではあるが、高値圏内での価格横ばい推移を想定している。

 このような前提条件のものとで、筆者は日経平均株価の19,000円から20,000円水準への上昇を予測してきている。15,000円台前半への株価下落局面は優良な投資チャンスであるというのが筆者の基本観であり、この基本観に立つなら、15,000円台前半への株価下落局面は「狼狽売り」ではなく、「押し目買い」の局面ということになる。

 『金利・為替・株価特報2006年2月17日号』では、「経済・市場の先行きをどう読むべきか」とのタイトルで(1)株式市場調整の背景、(2)金融政策論争をどう見るか、(4)米国金融引締め政策の着地点、などについて論じているのでぜひ一読いただきたい.

 今来週の日程であるが、国内では、22日(水)に月例経済報告、23日(木)に1月貿易統計が発表された。24日(金)に1月百貨店売上、28日(火)に1月鉱工業生産指数、3月3日(金)に1月失業率、1月全国消費者物価、2月東京消費者物価が発表される。月例経済報告ではこれまでの「景気は緩やかに回復している」が「景気は回復している」に表現が上方修正された。23日(木)発表の1月貿易統計では、2001年1月以来5年ぶりに日本の貿易収支が赤字を記録した。
  28日(火)の鉱工業生産指数は、経済産業省発表の予測指数では、0.9%のプラスが示されており、日本経済の改善基調を確認させるものになる可能性が高い。来週の最大の焦点は1月全国消費者物価である。前年比プラスが予想されるが、11月以降、3ヵ月連続でのプラス数値の発表となる。いよいよ「量的緩和政策解除」の条件が固まることになる。

 量的金融緩和政策は、単なる「見せ金」政策であるから、解除の実態的な影響は皆無に近い。日本経済健全化の過程で当然越えてゆかねばならないハードルである。日銀の判断で実行するべきである。問題は竹中総務相などが、外野席から横槍を入れて、市場の混乱を招いていることだ。本来波乱を引き起こす必然性はないのに、外野席からの発言が量的金融緩和策を縮小する際の長期金利上昇を大幅なものにしてしまうリスクが存在する。
  今後、3月8日、4月10日、4月28日に日銀の金融政策決定会合が予定されているが、4月28日に量的緩和縮小開始を決定し、即日実施される可能性が高い。ゼロ金利解除は量的緩和政策圧縮後の政策課題で、本年秋以降、具体的な検討段階に入る。日銀内部での徹底的な考察が求められる。

 米国では、21日(火)に1月31日FOMCの議事録が公表された。多くの委員から追加利上げの必要性を指摘されたことが判明した。3月28日FOMCで、15回連続となるFFレート引上げが実行される可能性は濃厚で、今後の経済指標、物価統計に一段と強い関心が注がれることになった。
  この意味で、22日(水)に発表された1月消費者物価指数が注目された。1月消費者物価指数は前月比0.7%プラスの高い伸びを示したが、エネルギーと食品を除くコア指数では、事前の市場予想と同じ前月比0.2%上昇となり、市場には安心感が広がった。
  23日(木)以降、FRB関係者の講演などが多く予定されている。23日(木)にサントロメ・フィラデルフィア連銀総裁講演、ファーガソンFRB副議長講演、バーナンキFRB議長講演(プリンストン大学)、24日(金)にファーガソンFRB副議長講演、28日(火)モスコウ・シカゴ連銀総裁講演などである。いずれの関係者も、インフレ未然防止の重要性、必要に応じた利上げ継続方針を示すものと考えられる。なお、ファーガソンFRB副議長は辞任の意向を表明している。

 日本では、竹中総務相を中心に量的緩和政策の維持、ゼロ金利政策の維持が主張されている。超金融緩和政策を維持してインフレを誘導し、名目経済成長率を引き上げる。他方、ゼロ金利政策維持により長期金利低位安定を目指すとの主張である。この主張には、経済学の初歩的事項に関する決定的な誤りが含まれている。
  超金融緩和政策の維持によって長期金利の低位安定を目指すことは不可能である。超金融緩和政策がインフレ誘導策としてとられるのであるから、市場のインフレ予想は強まることになる。インフレ予想の強まりは名目長期金利の上昇要因になる。

 2004年から2006年にかけてFFレートを1%から4.50%にまで引き上げてきた米国では、長期金利がほとんど上昇しなかった。中長期のインフレ期待の強まりが完全に遮断されたためである。仮にFRBが1%のFFレートを維持してきたなら、インフレ心理は燃えさかり、長期金利は急騰していたはずである。
  竹中総務相の提案は、経済学の初歩的事項さえ理解していないのではないかと思わせる内容となっている。量的金融緩和の縮小は、実行しても問題はほとんど生じないだろう。福井日銀総裁は「ぶれない発言」を繰り返し、量的金融緩和解除に向けて着実に歩を進めている。地ならしを十分にした上で、4月28日の政策決定会合で量的緩和政策解除を決定し、即日実施する可能性が高い。

 ライブドアショック、皇室典範改正案の白紙撤回により、小泉政権のレームダック化が加速的に進行することになった。「満つれば欠くる」のが世の習わしである。昨年9月11日の総選挙での自民党大勝がピークになった。小泉政権は堀江貴文ライブドア前社長を「改革」の「旗手」として総選挙の候補者に擁立し、全面支援した。ホリエモン擁立により若者の投票率を引上げ、自民党大勝がもたらされた。
  しかし、堀江社長の栄光は欺瞞に満ちたものであったことが次第に明らかにされ始めている。堀江前社長は竹中総務相が頻繁に発言していた「がんばったものが報われる社会」の象徴的な成功者として位置づけられてきたが、その実態は「額に汗する努力の成果」ではなく、「粉飾とマネーゲームにより創作された砂上の楼閣」だった。

 小泉・竹中政策が推進してきた「弱肉強食」、「市場原理主義」、「拝金主義」、「対米隷属・売国政策」に対する冷静な見直しの機運が徐々に広がってゆくことが予想される。民主党はメール問題で思わぬ失策を演じているように見えるが、このことをきっかけにして小沢一郎氏か鳩山由紀夫氏が早い段階で新党首に就任し、挙党一致体制を構築するなら、2007年参議院選挙に向けての準備態勢が早い段階で確立されることになる。政治のダイナミズムを回復するためには、結果的に望ましい変化が生じる可能性が生じてきている。民主党内の適正な責任処理に関心が寄せられる。

 「小さな政府」には二つの意味がある。「政府の無駄の排除」と「結果における格差の容認」だ。ほとんどの国民が前者の意味での「小さな政府」に賛成であるのに対し、後者の意味での「小さな政府」に賛成の国民は少数派である。民主党は「天下り全面禁止」政策によって「政府の無駄排除」をより強く主張する一方で、「真の弱者に対する保護」を明確に打ち出すべきである。
 小泉政権は高齢者や障害者に対して、冷酷無比の政策を推進する一方で、「天下り死守」など官僚利権の温存に精力を注いでいる。この政策のどこが「改革」なのか。「小泉政権の改革はまやかし」との真実をメディアがまったく伝えないなかで、国民の目を覚まさせ、国民に真実を伝える方策を真剣に考えなければならない。この点で民主党に課せられた役割は極めて重大である。

2006年2月23日
植草 一秀

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