コラム

今来週の金融市場の展望(2006年2月3日)

 1月16日夕刻のライブドアに対する強制捜査からちょうど1週間後の1月23日に、堀江貴文ライブドア社長など4名が証券取引法違反容疑で逮捕された。株式市場ではショックが広がり、日経平均株価は1月13日終値16,454円から、1月18日終値15,341円へと1,113円の調整を演じた。
 本コラムでは、1月10日の『今週の金融市場の展望』以来、日本の株式市場での小幅調整の可能性を指摘してきたが、想定どおりの株価調整が生じることになった。

 ライブドア・ショックは問題が表面化した週の週末である1月20日(金)までに収束する気配を示していたが、20日(金)のNY株式市場でNYダウが213ドル急落したことを受けて、週明け23日(月)の東京市場では日経平均株価が再び336円の急落を演じた。株式市場の混乱が拡大したことが、堀江社長の逮捕を早める要因になったと推察されている。
 1月23日以降、株式市場は急速に勢いを取り戻し、27日(金)の日経平均株価終値は16,460円と、1月13日の終値をあっさり更新してしまった。筆者は、調整が完了するまでの時間がもう少し長いものになるのではないかと考えていたが、日本の株式市場の地合いは非常に強く、株価は予想以上のスピードで出直りを演じた。2月2日(木)も、日経平均株価は前日比で230円上昇し、終値は16,710円に到達した。日本の株式市場の勢いの強さが改めて確認されている。

 筆者は、昨年8月後半以降、日本株価の本格上昇の見通しを示してきた。株価上昇の理由は、日本の株価が理論的妥当値に対して大幅に下方に位置していたことであった。企業利益の水準、長期金利水準を勘案すると、日経平均株価は20,000円の水準に上昇してもまったく不思議でない。
 8月8日の参議院本会議での郵政民営化法案否決を「きっかけ」にして、株価の水準修正が始動した。郵政民営化法案否決は、株価上昇の原因ではなく、あくまで「きっかけ」だった。化学反応の「触媒」的な役割を果たしたに過ぎない。
 郵政民営化法案否決は小泉政権の言うところの「改革」の提案を否定したものであった。その直後から株価上昇が始動したのであるから、「改革」に対する期待から株価が上昇しているとの解釈は成り立たない。「改革」とはまったく無関係に株価は上昇している。株価上昇の牽引役となった「鉄鋼」、「不動産」、「銀行」、「証券」などのセクターの株価上昇は、小泉政権が連呼する「改革」とはまったく無関係に生じている。

 そもそも、小泉政権が唱えている「改革」は内容がはっきりしない。「改革をやり遂げます」とは言うが、具体的に何をどうするつもりなのかはっきりしない。小泉政権の「改革」とは何か。最近の日本経済の改善基調が小泉政権の「改革」政策の成果でないことは明白である。『金利・為替・株価特報』2006年2月1日号にこの問題を詳論しているので、ぜひご参照いただきたい。
 2001年に発足した小泉政権の、経済政策における「改革」路線とは、「緊縮財政」と「企業の破たん処理推進」だった。2001年末にかけて、マイカル、青木建設が相次いで破たんした。小泉政権はこれらの企業破たんを歓迎するメッセージを発表した。ところが、ダイエー危機が表面化すると、政府はダイエー救済策を誘導した。「改革」政策の結果として危機が深刻化すると、あっさりと「改革」政策を全面放棄することによって、日本経済の破綻をぎりぎりのところで回避してきたのが現実である。

 2003年にはりそな銀行の危機が表面化して、ふたたび「改革」政策を全面放棄した。「退出すべき企業は市場から退出させる」と述べ続けてきたのに、重大な危機が目前に迫り、「退出しそうな銀行は税金で救済する」に180度転換したのである。よく言えば「柔軟」、悪く言えば「信念も節操も無し」である。
 日本経済の改善基調始動は、2003年の小泉政権による「改革政策全面放棄」を起点としている。竹中総務相によるダボスの国際フォーラムでの「改革の成果で日本経済の改善と株価上昇が生じている」との自画自賛の説明は、まさに笑止千万である。

 日本の株価上昇基調は、外部環境に大きな変化が生じなければ2006年なかばまで持続する可能性が高いと考えられる。株価は依然として割安な状況に位置しており、理論的妥当値に向かって上昇を継続する可能性が高い。株価上昇は個人消費を中心に景気改善をさらに強化する要因になる。株価上昇−景気拡大−金融拡大の好循環が成立する可能性を十分に念頭に入れておく必要があろう。
 今回の株価上昇の起点は、昨年5月17日の日経平均株価10,825円である。8月8日の11,778円から急騰が始動して、10月4日に13,738円をつけた。5月からの上昇は4ヵ月半で2913円、8月からの上昇が2ヵ月で1960円だった。
 10月24日の13,106円から第二波動が始動して、本年1月13日に16,454円を記録した。3ヵ月弱で3348円の上昇を示した。1月18日まで超短期の調整を演じて、1113円下落した。1月18日の15,341円を起点に第三波動がすでに始動している。2月2日には16,710円まで上昇した。すでに1369円の反発を観測している。

 今後、注視しなければならない外部環境とは、米国経済、中国経済、原油市況、為替レートである。米国経済がソフトランディングできずに失速することになれば、当然のことながら日本経済はマイナスの影響を受ける。中国経済の影響も拡大している。米国での現在の最大の関心事項は米国の金融政策で、金融政策の動向を判定する上では、原油市況の動きからも目を離せない。

 1月31日、米国FRBは2004年6月の金利引上げ以来、14回連続となるFFレート引上げを全会一致で決定した。昨年秋以降、米国の利上げについては、利上げ終結観測が時折浮上してきた。筆者は、当初より、2006年3月28日のFOMCまで、利上げが継続する可能性が高いと予測してきた。本年年初にも12月雇用統計が発表され、雇用者増加数が事前予想よりも少なかったために、利上げ終了観測が一時的に広がった。
 筆者は、利上げ終結の判断は時期尚早との見解を示した。NYダウは一時的に4年半ぶりに11,000円の大台回復を実現したが、その後反落した。1月31日のFOMC後の声明でも、「必要に応じての金利引上げ」の可能性が示され、市場では利上げ継続の見通しが広がり、NYダウは依然として10,000ドルから11,000ドルのボックス内の推移を続けている。

 次回FOMCは3月28日に開催される。バーナンキFRB新議長のデビュー戦となるFOMCである。バーナンキ議長としては、デビュー戦を利上げで飾りたいところだと思う。3月28日利上げ実施の確率は現状では50%を超えていると判断する。
 原油価格が昨年8、9月の高値に接近する推移を示している。WTI先物相場で1バレル=70ドルを突破することが生じれば、3−4月にかけて米国では再びインフレ懸念が強まることが予想される。原油価格−卸売物価−消費者物価−統計数値発表という順序で影響が市場に伝播されてゆく。この場合、4月頃まで米国のインフレ懸念、利上げ継続観測が残存し、NYダウはボックス圏内の推移を継続する可能性が高くなる。

 来週の日程では、6日(月)に12月日本景気動向指数速報値が発表され、9日(金)には福井日銀総裁の会見が予定されている。景気動向指数の一致指数は昨年8月以来5ヵ月連続での50%超になる可能性が高い。日本経済の緩やかな改善傾向持続が改めて認識されることになるだろう。
 9日(金)の日銀総裁記者会見に注目が集まる。日銀の量的緩和政策解除、ゼロ金利政策解除について、政府関係者の発言がかまびすしくなってきているが、福井総裁は消費者物価指数の前年比プラスが安定的に実現した段階での量的緩和解除の方針を改めて明言する可能性が高い。

 竹中総務相、中川政調会長は中期的にインフレ率を高めて名目GDPの伸び率を高める一方、長期金利の上昇を抑制する政策運営を提唱しているが、極めて危うい前提に立った論議といわざるを得ない。詳論は『金利・為替・株価特報』2006年2月16日号に掲載する予定であるが、「希望」と「現実」は異なる。竹中氏、中川氏はこの主張の文脈のなかで、日銀の超金融緩和政策の持続を主張しているが、短期金利と長期金利の基本的関係についての経済学の初歩さえ理解しているのか疑わしいと感じざるを得ない。
 金融政策は日銀のプロフェッショナルが日銀の使命を忠実に実行することを判断基準において、日銀内部でまず検討されるべきものである。米国でも金融政策の判断は基本的にFRBに委ねられている。政府、財政当局が金融政策に介入することは非常に危険なことと言わざるを得ない。日本固有の問題としては、財務省出身者が日銀副総裁に起用されていることだ。場合によっては、次期総裁に就任してしまうことも考えうる。過去の歴史的教訓を踏まえて、財務省出身者の日銀総裁就任を排除する方針の決定が重要である。

 米国では、3日(金)に1月雇用統計が発表される。市場予想よりも強い数字は金利引上げ補強材料と理解され、株価下落、ドル上昇、長期金利上昇要因と理解されるだろう。逆に市場予想よりも弱い数値は、株価上昇、ドル下落、長期金利下落要因と理解されるものと考えられる。
 10日(金)には、12月米国貿易統計が発表される。同時に2005年の米国貿易収支も発表される。年間赤字は7000億ドルを突破し、史上最大値になるものと予想される。12月赤字の水準に依存するが、米国貿易赤字の巨大さが改めて認識されることになるとすれば、ドル下落要因として受け止められるだろう。
 日本で今後予定されている重要統計としては、2月17日(金)の2005年10−12月期GDP1次速報、4月3日(月)の日銀短観2006年3月調査結果、4月28日(金)の日銀「経済・物価情勢の展望」(展望レポート)発表などをあげることができる。

 小泉政権に対する風向きははっきり「逆風」に転じている。ライブドアの堀江社長逮捕の小泉政権に対する影響は極めて大きい。小泉政権はホリエモンを「改革の旗手」として、2005年9月11日「刺客総選挙」の象徴として位置づけた。「拝金主義」、「弱肉強食」、「市場原理主義」、「外国資本優遇」がホリエモンに帰属する属性と考えられるが、このコンセプトがそのまま、小泉政権の「改革」路線と二重映しになっている。
 高齢者に対する負担の激増、障害者に対する冷酷な対応、一方で外国資本に対する優遇、高級官僚に対する利益供与、などが小泉政権の政策の基本特徴となっている。今回のライブドア・ショックによって、国民がこうした現実を冷静に見つめなおす機会を得ることになれば望ましいことである。

 自民党内の反小泉の感情を有している人々は、福田康夫氏を次期自民党総裁に擁立する方向で、水面下で活動を開始しているように思われる。「市場原理主義」、「外国資本優遇」、「弱肉強食推進」、「皇室典範改正」、「靖国に代わる公的慰霊施設設立反対」などに対する反発は自民党内でも根強く存在する。
 ライブドア問題に加えて、米国産牛肉輸入再開問題、耐震構造計算偽装問題、防衛施設庁汚職問題、などが次々噴出し、小泉政権の「わが世の春」は一変し始めている。通常国会での論議状況によっては、秋の自民党総裁選挙の状況が一変する可能性も生じ始めている。国民の視点に立った意義ある国会論戦が望まれる。

 政府系金融機関改革問題での最大の焦点は「天下りの全面禁止」を決定するのかどうかである。国民に対して容赦のない「痛みのある政策」を強行実施している小泉政権であるから、「天下り全面禁止」を決定するのは当然の責務である。国民に痛みを強制し、「天下りを温存」するなら、その瞬間に「改革」は単なる「庶民いじめ」で「まやかし」であることが判明する。
 小泉政権の約5年間に財務省の権限、権力は飛躍的に強化されてきた。財務省の支配権、利権の維持・拡大を推進する小泉政権の政策のどこが「改革」なのかとの素朴な反論が一気に噴出することになるのではないか。この点について、民主党が国会論戦の中でどのように政府を追及するのかが注目される。

2006年2月3日
植草 一秀

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