コラム

今週の金融市場の展望(2006年1月17日)

 ライブドア(東証マザーズ4753)が16日に、証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部と証券取引等監視委員会の家宅捜査を受けた影響で、17日の東京株式市場は昨年来最大の株価下落を演じた。17日の日経平均株価終値は前日比462円8銭安(2.84%)の15,805円95銭となり、昨年12月27日以来の16,000円割れとなった。日経平均株価の下げ幅は2004年5月10日の554円12銭以来の大きさとなった。

 1月10日付本欄でも記述したが、日本の株式市場は昨年8月以来の株価急騰局面を経過したところに位置し、急激な株価上昇を実現したあとで、スピードに対する調整を入れてもよいタイミングに位置していた。
 株価急騰の出発点は昨年8月8日である。昨年8月8日終値11,787円から10月4日終値13,738円までの上昇幅が1960円だった。10月24日終値13,106円から切り返して、12月中旬に600円ほどの値幅での調整をはさみつつも、本年1月13日終値で16,454円の高値を記録した。この間の上昇幅は3348円である。

 株価上昇のスピードが速く、かつ上昇幅も大きいことから、スピードに対する調整があっておかしくない状況である。このタイミングでライブドアへの家宅捜査のニュースが表面化した。日本の株式市場は節分ころまでの小幅調整局面を迎える可能性があるように思われる。

 ライブドアへの強制捜査の影響は決して小さくないと考えられる。二つの重要事項を指摘できる。第一は、ライブドアが昨年2月8日にニッポン放送株を立会外取引を利用して瞬時に30%取得したことについての事実関係の確認だ。ライブドアの株式取得については、実質的に市場外取引であり、届出のない取得は違法ではないかとの指摘があった。
 当時の伊藤金融担当相は国会答弁で「違法でない」と発言した。しかし、立会外取引の当事者同士が事前に株式売買について了解していたとなると違法取引の疑いが浮上する。今回の家宅捜査によってニッポン放送株取得の経緯も明らかになる可能性があり、株式市場での他の大手参加者にまで捜査が発展してゆく可能性がある。

 第二は、小泉政権がライブドアの堀江貴文社長を時代の寵児として取り扱い、総選挙においても亀井静香衆議院議員に対する「刺客」として選挙活動を全面的に支援した点である。小泉政権は一方で、障害者に対する「支援削減」を主たる内容とする「障害者自立支援法」を成立させ、社会的弱者である障害者に対する冷酷な対応を強化してきている。また、高齢者の医療費自己負担を急増させる制度変更を強引に推進している。

 政府系金融機関改革において最大の焦点は、「天下りの全面廃止」決定と、財務省利権にメスを入れることにあったが、小泉政権は結局、「天下りを温存」し、財務省所管の日本政策投資銀行、国際協力銀行、国民生活金融公庫のいわゆる「天下り御三家」について、形態は変更するにせよ、最終的に温存する可能性を強めている。財務省の官僚利権を全面擁護するのが、小泉政権の基本スタンスである。

 社会的弱者である高齢者や障害者には冷酷無比な対応を展開し、他方で財務省を中心に官僚利権を擁護し、米国を中心とする外国資本には巨大利益を供与する。金融市場の諸制度の不完全性を活用してたまたま成功した者を時代の寵児として絶賛する。これが小泉政権の基本スタンスだった。有権者の人気さえ取れれば、論理の一貫性は問わない。これがポピュリズムを基本路線とする小泉政権の流儀である。
 ライブドアの堀江社長は自ら執筆した著書のなかで、「政治は割に合わないからやらない」とはっきり言明していた。その堀江氏を「刺客選挙」のために引き立て全面支援したのが小泉政権である。その堀江氏が経営するライブドアに大きな疑惑が浮上している。小泉政権の本質を見つめ直す格好の機会が国民に提供される可能性がある。

 今回の事案は単純な一過性の問題とは捉えられないと考える。株式市場の重要なプレイヤーに波及してゆく可能性があることを市場関係者は十分に踏まえてゆく必要がある。2月初旬にかけて株式市場の熱を冷まさせる冷却剤の働きを演じる可能性があるだろう。

 昨年9月11日の総選挙で小泉政権が大勝利を納めて以来、主要メディアは権力迎合を一段と鮮明にしている。首相の靖国参拝問題を論じるテレビ番組に参拝賛成者しか出演しないのでは、「偏向」も歴然としている。政府系金融機関改革問題で、「天下り全廃」についての徹底論戦も求められるが、権力迎合に堕落している大手メディアは、この問題を取り上げようともしない。

 何かをきっかけに流れは必ず転換するはずである。ライブドアに対する強制捜査はそのさきがけ現象かもしれない。通常国会は1月20日に召集される。5月18日まで150日会期の予定で開会される。民主党は「天下り全面禁止」を党の方針として決定した。「天下り全面禁止」について国会で徹底した論戦が繰り広げられなければならない。

 今週の金融市場では、18日(水)に米国12月消費者物価指数が発表される。全体指数、コア指数のいずれについても、前月比0.2%の上昇が見込まれている。19日(木)には、米国12月住宅着工件数が発表される。住宅投資の減速がどの程度のスピードで進行するのか注目される。20日(金)には米国ミシガン大学の消費者信頼感指数速報値が発表される。米国の景気実勢の推移について引き続き注視が必要である。
 今週もFRB関係者の発言が多く予定されている。18日(水)には、バイズFRB理事、ラッカー・リッチモンド連銀総裁の講演が、19日(木)にはグイン・アトランタ連銀総裁の講演が、20日(金)にはラッカー総裁の講演が予定されている。また、18日(水)には米国地区連銀経済報告(ベージュブック)が発表される。

 日本では、20日(金)に福井日銀総裁の会見が予定されている。政府関係者から金融政策についての発言が激増している。日本銀行の独立性が損なわれる傾向が強まっている。先週も記述したが、外部から日銀に圧力をかけるのではなく、日銀が独自に適正な金融政策を実行できるための体制をどのように確立すべきかにエネルギーを注ぐべきである。
 財務省は次期日銀総裁に財務省出身の武藤現副総裁を擁立しようとしている。小泉政権は財務省を基盤として行動し、財務省の利権を徹底的に擁護しているが、日本経済の過去15年間の混迷の最大の要因が財務省の政策にあったことを忘れてはならない。財務省から日銀への天下りも禁止すべきである。

 株式市場では2月にかけてスピード調整が演じられる可能性がある。個別材料株を丹念に発掘することが必要である。為替市場では、米国金利引上げ政策が終盤に差し掛かっていることを背景に、ドル下落材料に反応しやすい地合いが生じている。ボックスの中で「ドル小幅急落後じり高」の推移がしばらく繰り返されるのではないかと考えられる。

 株価大幅上昇が持続してきただけに、値動きもやや荒っぽくなってきている。市場の株価変動のリズムを測りながら、いくつかのテーマを循環的に手がけることが効率の良い運用結果をもたらすと考えられる。

日本の長期金利は再び小幅低下した。年後半の長期金利上昇をターゲットにする場合には、1月から4月にかけての金利低下局面をじっくりと狙う必要がある。

2006年1月17日
植草 一秀

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