コラム

今週の金融市場展望(2005年12月20日)

 クリスマスを控えて海外市場では金融取引が閑散となるなかで、2006年の金融市場動向を展望しての相場変動が続くことが予想される。先週は14日(水)の米国10月貿易収支発表を契機に為替市場で急激な円高が生じた。株式市場では週の後半に日経平均株価が600円強下落した。為替市場、株式市場ともに価格変動(ボラティリティー)がやや拡大してきている。

 今週は、20日(火)に米国11月卸売物価、米国11月住宅着工件数、22日(木)に日本11月貿易統計、23日(金)に米国11月一戸建て住宅販売件数の発表が予定されている。日本の株式市場、為替市場では先週大きな相場変動が見られただけに、変動後の今後の方向を占う重要な週になる。

 先週13日(火)にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、予想通り0.25%の利上げが決定された。利上げは確実視されていたが、市場の関心は利上げ決定後のFRBのコメントに集中していた。焦点の「金融緩和の解除」の表現は削除された。先週の本欄で記述したが、筆者はFRBが「金融緩和の解除」の表現を削除する場合、新たに、「金融引締め措置の可能性」を示す可能性があることを指摘した。現実にFRBは、「今後も必要に応じて金融引締めを目的とした金利引上げがあり得る」との表現をコメントに盛り込んだ。
 金融市場では、「金融緩和の解除」の表現が削除されれば、これまでの一連の金利引上げ措置が完了することを意味すると受け止めてきたが、現実には、それほど単純なことでないことが明確になった。今後のFOMCは、1月31日、3月28日、5月10日に予定されている。グリーンスパン議長の下での最後のFOMCが1月31日になる。3月28日はバーナンキ新議長の下での初めてのFOMCになる。
 筆者は米国の金利引上げ措置が2006年前半の中ごろまで持続すると見ている。FFレートの最終到達点は4.75%〜5.0%と考える。利上げの最終局面まで、NYダウは1万ドルから1万1000ドルのレンジの中でのボックス相場を演じる可能性が高いと考える。

 14日(水)に発表された10月米国貿易収支は688億ドル(季節調整後)となり、過去最大となった。米国の双子の赤字は、2005会計年度(2004年10月〜2005年9月)の財政赤字が前年度比で1000億ドル減少したことから、深刻さが大幅に後退していたが、貿易収支赤字、経常収支赤字は過去最大を更新する動きを続けていた。
 米国金利引上げ終了の憶測が浮上したところに、貿易赤字が過去最大を更新し、為替市場ではドルが急落した。今後の為替市場の見通しについては、『金利・為替・株価特報2005年12月16日号』を参照いただきたいが、為替市場は非常に微妙で重要な局面に差しかかっている。外貨建て資産に対する投資の戦略の根幹に関わる問題であるだけに十分な考察が求められる。

 12月14日(水)に日銀短観2005年12月調査結果が公表された。大企業製造業の業況判断DIは、9月調査のプラス19から2ポイント上昇してプラス21になった。昨年9月のピーク値が26で、今回、この水準に接近するとの見通しも一部にあったが、現実には、景気改善のペースは非常に緩やかであることが判明した。中小企業の業況判断DIは製造業、非製造業のいずれも4ポイント改善した。中小企業の業況は依然としてあまり良くないが、それでも業況の改善傾向は確実に持続している。
 業種ごとの数値の変化は大きく、とりわけ株式市場でのセクター選択に非常に有効な、「前回見通しと今回実績の乖離分析」に基づくと、株式市場での注目セクターが大きく入れ替わる結果が生じている。詳細は『金利・為替・株価特報2005年12月16日号』を参照いただきたい。

 先週15日(木)に発表された11月米国消費者物価指数では、コア指数(食品・エネルギーを除く物価)の前月比は+0.2%と予想通りであったが、全体数値の前月比は0.6%の下落となった。前月比の下落率としては、1949年7月以来56年ぶりの大幅下落となった。この物価下落も米国金利引上げ政策早期終了観測を補強するものになっている。

 2006年に向けて日本株価の上昇が持続する可能性が高い。筆者は2006年央に日経平均株価は19,000円水準に上昇するとの見通しを示してきたが、現状でもこの見通しを変更していない。リスクファクターとしては、米国経済、中国経済、原油価格、為替レートの外部要因と国内経済政策の内部要因をあげることができる。
米国経済についてはソフトランディングを前提に置いている。中国経済も当面は成長を持続する可能性が高いと考える。原油市況は高水準でのもち合い推移を想定している。為替市場は先述したように微妙な局面に差しかかっていると判断する。

 問題は国内経済政策である。財政政策、金融政策のいずれも重要だが、2006年については金融政策が焦点になると考えられる。財政政策については、消費税増税問題が最大の懸案だが、これまで示してきたように、2007年7月の参議院選挙までは消費税増税問題が封印される可能性が高い。
 2007年度の消費税増税については、谷垣財務相と与謝野経財相が積極発言を続けていた。これに対して、竹中総務相と中川自民党政調会長が「増税よりも歳出削減の優先」を主張して、意見対立があるかのような報道がなされていた。

 筆者がこれまで記述してきたように、これは見え透いた「三文芝居」である。両者の意見対立があるなかで、最終的に小泉首相が登場して「増税よりも歳出削減の優先」の裁定を下して、それ以後増税論議を封印する。封印の期限は2007年7月の参議院選挙である。参議院選挙後に増税論議を解禁し、一気に税率引上げを決定して、2008年4月に実施する。衆議院の解散総選挙を2009年まで先送りすれば、忘れやすい日本人のことだから、総選挙で大敗せずに済む。
 このようなシナリオが用意されていることは明らかである。それでも2007年7月の参議院選挙は自民党が敗北する可能性が高い。敗北の程度によっては新しい首相の責任問題が浮上する。小泉首相は、参議院選挙を新総理に適度に敗北してもらい、自分が首相に再登板するシナリオを思い描いている可能性もある。
 12月19日(月)に小泉首相の「2007年度の消費税増税見送り」のコメントが発表された。予想通りの展開である。このような見え透いた三文芝居を国民は見抜いてゆかなければならない。歳出削減は重要だが、もっと重要なことは、どのような順序で歳出を削減してゆくのかである。

 総選挙後の政策上の最大の焦点は、政府系金融機関改革において「天下り全面禁止」を決定するのかどうかである。老人医療費の自己負担の激増が決定された。「障害者支援削減法」が実体上の内容である「障害者自立支援法」が成立して、障害者に過酷な自己負担が強制されることになった。その一方で官僚利権の最大の温床である「天下り」の全面禁止は決定しないのであろうか。
 「天下り全面禁止」を決定しないならば、その瞬間に「小泉改革はまやかし」の仮説が「真」であることが客観的に立証される。「小泉改革」の本質が、「強者が利権をむさぼりますます強くなることを支え、少数弱者を切り捨てる」、「改悪」であることが判明する。「天下り全面禁止」を確定するのかどうか、国民はすべての関心をこの一点に注ぎ、「小泉改革」なのか「小泉改悪」なのかを見定めなければならない。

2005年12月20日
植草 一秀

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