コラム

今週の金融市場展望(2005年12月12日)

 先週は株式の誤発注問題が生じて市場が乱高下したが、混乱は一時的なものにとどまった。日本の株式市場の地合いの強さが改めて確認されている。筆者は、8月8日以降の日本株式市場について、2006年央に向けての株価大幅上昇を予測してきたが、最近になって株価大幅上昇の見通しを述べる関係者が増えてきている。

 大きな株価変動には必ず理由がある。今回の株価上昇の理由は、「日本企業の株価が理論的妥当値と比較して大幅に低い水準にあったこと」だ。株価は理論的妥当値からいつでも乖離する。時折、大幅な乖離を生じることもある。いわゆる「バブル」である。「バブル」はプラスの方向にも、マイナスの方向にも発生しうる。プラスの方向を「バブル」と表現すれば、マイナスの方向は「逆バブル」と表現することができる。8月8日の時点で日本の株価は「逆バブル」の状況に置かれていたと判断できるのだ。
  8月8日の郵政民営化法案否決、衆議院解散は「逆バブル」解消の「きっかけ」になった。1990年2月18日の総選挙が「バブル」解消の「きっかけ」になったことと酷似している。筆者は8月29日の当コラムにおいて、「割安な株価の水準修正」の見解を記述した。以後、一貫して「割安修正に伴う日本株価の大幅上昇」の見通しを提示して現在に至っている。

 今週は日米両国で重要統計、イベントが予定されている。国内では、14日(水)に日銀短観11月調査が発表される。企業の景況感がどのように変化しているのかが明らかになる。また。設備投資計画の修正にも関心が注がれる。米国では、13日(火)にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。現在4.0%のFFレートが4.25%に引き上げられることが予想されるが、市場の関心はFOMC後に発表されるFRBのコメントに集中している。
  また、米国では15日(木)に11月消費者物価指数が発表になる。月次の消費者物価統計はこれまで米国金融市場のひと月の基調を定めてきただけに強い関心が寄せられる。14日(水)には10月貿易収支が、16日(金)には7−9月期経常収支が発表される。為替レートへの影響が大きいだけに、注目を怠れない。

 日本経済は2004年春から2005年秋まで、「踊り場」のなかの推移を続けてきた。鉱工業生産指数で見ると、季節調整後の計数で103(2000年=100)の水準を上回れない状況が続いてきた。1990年以降、二度103の水準を上方に抜けかかることがあったが、二度とも抜けることができなかった。2004年から2005年にかけても103を超すことができずに10月まで推移してきた。「越すに越されぬ103高地」とも表現されてきた。
  12月27日発表の11月鉱工業生産指数で、同指数が103を大きく超える可能性がある。そうなれば、日本経済の「踊り場脱却」が明確になる。12月14日の日銀短観は、鉱工業生産統計と並んで日本経済の「踊り場」脱却を確認するための極めて重要な経済統計になる。マスコミがもっとも大きく取り扱う大企業製造業の業況判断DIは、前回調査のプラス19から改善する可能性が高い。市場の事前予想値はプラス23と前回比4ポイントの改善である。

  大企業製造業の業況判断DIが昨年9月のピーク値(26)に迫るとの予想も生じている。大企業の場合、非製造業も前回数値(プラス15)を上回り、プラス17が市場予想の中心になっている。また、設備投資計画の上方修正も予想される。業種別の業況判断DIでは、業種ごとの業況の変化がはっきりと表れ、株式投資に極めて有用な情報が提供される。日銀短観の内容とその詳細な分析結果については、『金利・為替・株価特報2005年12月16日号』で詳述する予定だ。

 先週発表の経済統計では、5日(月)の法人企業統計で設備投資の強さが改めて確認された。9日発表の2005年7−9月期のGDP2次速報値では、設備投資が上方修正されたが、在庫投資が大幅下方修正されて、経済成長率は年率1.7%から年率1.0%に下方修正された。在庫の減少は次の期以降の生産増加をもたらすものとして解釈され、先行きの景気観測に対してはポジティブに受け止められる統計内容になった。
  また、先週8日(金)には、福井日銀総裁が「消費者物価の前年比が安定的にプラスを維持するなら量的緩和は終了する」とのコメントを発表したが、予想の範囲内の表現であった。同時に「量的緩和終了後のゼロ金利解除については、じっくりと状況を見定める」との方針も示された。超金融緩和をいたずらに長引かせることは、インフレ心理の醸成を通じて、長期金利を上昇させる要因になる。福井日銀総裁の発言は極めて妥当なものである。今週、16日にも福井総裁の記者会見が予定されている。市場は金融政策の変化に強い関心を払っており、発言内容が注目される。

 米国では、13日(火)にFOMCが開催される。昨年6月以来、13回連続となる金利引上げが決定される可能性が高い。FFレートは4.25%に達する。サンフランシスコ連銀のイエレン総裁がすでに講演で述べているが、「金融緩和政策の解除」と「慎重なペース」の二つの表現がFOMC後のコメントのなかでどのように変化するのかに関心が注がれている。
  これまでFRBは、金利引上げ政策について「金融引締め」ではなく「金融緩和の解除」と表現してきた。金利水準がニュートラルな水準に達すれば、「金融緩和の解除」の目的は達成されることになる。この表現の変更は、一連の利上げ政策が終盤に差しかかることを示唆するものと受け取られる可能性が高い。

 しかし、逆にFRBが米国経済の基調の強さを背景にインフレ懸念を依然として強く意識しているなら、「緩和的」であるとの表現を排除して、新たに「金融引締め」を示唆する表現を盛り込むことも考えられる。「金利引上げ政策の終了示唆」を期待するムードが強いが、逆にFRBが依然として「強いインフレ警戒感」を保持し、その考え方を示す可能性も否定しきれない。
  現段階で利上げ政策が否定され、株価上昇に弾みがつけば、結局再びインフレ懸念が広がることも予想されるだけに、市場に対して強い楽観論を与えることについて、FRBが慎重である可能性を念頭に入れておく必要があると思われる。FRBの傾向としては、インフレに対して「甘い」スタンスを示すよりも、「厳しめの」スタンスを示す方が、「インフレなき成長持続」には良策との判断をもっていることが多い。ゆき過ぎた先行き楽観論を戒めてFRBの動きを見守る必要がある。

 14日(火)に米国10月貿易収支、16日(金)に米国2005年7−9月期経常収支が発表される。米国の双子の赤字問題については、2005年度に財政収支が1000億ドル程度改善した一方で、経常収支は市場最大値を更新し続けている。財政収支改善がドル上昇の重要な心理要因になったが、経常収支の悪化はドル上昇の大きな重しになる。
 米国の金融政策が金利引上げ政策を維持している間、ドルは堅調に推移することが予想されるが、米国の金利引上げ政策は2006年前半に一巡する可能性が高い。米国金利引上げ終了の見通しが広がるに連れて、ドル上昇力が鈍る可能性をそろそろ視野に入れてゆくべきである。

 15日発表の米国11月消費者物価統計では、前月比0.4%下落が予想されている。FRBがとりわけ重視している「コア指数」(食料、エネルギーをのぞく物価)では、前月比+0.2%が見込まれている。10月発表の物価統計がインフレ懸念のピークになったが、以後、数値は落ち着きを取り戻しており、市場のインフレ懸念はかなり落ち着いたものになっている。米国経済のソフトランディングは可能性を高めていると言って良いだろう。

 筆者がこれまで予測してきたとおりに、日本では株価の大幅上昇が持続している。株価水準は利益水準、長期金利水準を勘案すると依然として割安であり、大きな外部環境の変化がなければ当面は上昇基調を維持する可能性が高い。国内機関投資家は完全に出遅れているが、次第に「買わないリスク」を痛切に感じ始めている。
 国内機関投資家の慎重姿勢が相場の最大の安心材料である。機関投資家が総出動を始めたら警戒しなければならないだろう。内需主力セクター、国際優良株、出遅れセクターが交互に物色の対象になってゆく「循環物色」が今後も続く可能性が高い。米国の政策リスク、日銀の政策リスク、中国の政治経済情勢リスク、為替レート急変リスク、欧州の金利引上げリスクなど、警戒を怠れない要因はいくつも存在するが、基本観を明確にした上で、リスクファクターを念頭に入れてゆく対応が重要と思われる。

2005年12月12日
植草 一秀

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