コラム

今週の金融市場展望(2005年11月14日)

 日本の株価上昇、ドルの堅調、内外長期金利の小幅上昇の傾向が持続している。筆者はこの基本環境が持続すると予測してきた。

先週発表された日本の7−9月期GDP統計は、景気の改善傾向を示すものであった。株価上昇−景気回復−金融環境好転の好循環が持続するのかどうかが、日本についてのチェックポイントである。
米国については、FRBによる金融引締め政策が持続しているが、(1)インフレは顕在化しないか、(2)景気失速はないか、(3)ドル急落はないか、を見定めてゆく必要がある。米国のソフトランディングの可否がポイントである。

今週は、米国で重要な経済指標の発表、要人発言が多く予定されている。日本では、ブッシュ大統領が来日して日米首脳会談が行なわれる。11月20日には、プーチンロシア大統領の来日も予定されており、外交日程が立て込んでいる。

今後を展望する上での二つの大きな留意点が米国金融政策と日本株価である。筆者は昨年11月来、金融市場展望の縦軸として、米国のインフレ懸念と米国金融政策の重要性を提示してきた。この問題を考察する上での最重要経済指標が毎月中旬に発表される物価統計である。一般化して言えば、物価統計がひと月の金融市場の基本環境を決定すると表現しても良い。
物価統計はこの意味で非常に重要である。今週、15日(火)に10月米国卸売物価指数が、16日(水)に10月米国消費者物価指数が発表される。インフレに関する基調判断、FRBの政策運営を考えるうえでの基本統計の発表だ。

10月発表の9月統計は卸売物価、消費者物価ともに歴史的に高い上昇率を示した。筆者は、この統計が市場心理悪化の悪材料出尽くし局面を形成すると判断した。9月統計の前月比上昇率は卸売物価で1.9%、消費者物価で1.2%と歴史的高水準になった。
10月統計では、卸売物価、消費者物価ともに前月比横ばいが予想されている。FRBがより重視しているのは、コアの物価指数(食品、エネルギーを除いた指数)であるが、事前の市場予想ではいずれも前月比0.2%上昇が見込まれている。物価上昇の最大の背景は原油価格の上昇である。原油価格はWTI先物相場で一時1バレル=70ドルを突破したが、現在は60ドルを割り込む水準にまで反落している。物価統計の前月比上昇率は9月統計が最高値を記録した可能性が高いのである。
とはいえ、市場はコア指数に注目する。前月比上昇率0.2%を中心に高めの数値が発表されれば、インフレ懸念がより強く意識され、低めの数値が発表されれば市場には安心感が広がる。統計数値には当然のことながら誤差が含まれ、事前に確実な予測をすることは不可能である。発表される数値にしたがって市場変動が引き起こされる。

重要なことは、基調についてどのような判断を持つかである。筆者は米国では、FRBのインフレ未然防止に向けての確固たる姿勢が功を奏して、インフレ抑制が成功すると考えている。他方、懸念されているのは金利上昇、住宅価格下落、住宅投資減少による景気失速である。
日本のバブル崩壊過程を踏まえれば、この問題を軽視することはできないが、現段階では全米規模でのバブル崩壊、景気急減速の恐れはそれほど高くないように思われる。
米国政府はハリケーン被害に対する災害復旧事業費として1000億ドル程度の財政追加支出を予定していると見られ、財政支出が米国経済を下支えすることも予想される。

第二のポイントは、日本の株価動向である。『金利・為替・株価特報』で再三にわたって指摘してきているように、筆者は現在の株価上昇の最大の背景は、割安な株価の適正水準への上方修正であると考えている。8月8日の衆議院解散を「きっかけ」に、株価の上方への水準修正が始動したと見なしている。
現在の長期金利水準、企業収益水準を踏まえると、日経平均株価が2万円の水準を回復しても不思議ではないと思われる。小泉政権の経済政策は経済活性化最重視ではなく、今後、拙速な緊縮財政運営が強化されるリスクも否定し切れず、この要因をマイナス要因として考慮しなければならない。

1992年以降に、株価が本格上昇したことが4度あった。上昇期間は半年から1年半、上昇の値幅は日経平均株価で5,000円から8,000円であった。日経平均株価が2006年央にかけて、16,000円から19,000円の水準まで上昇することは十分に想定できる。株価が上昇すると、このこと自体が景気拡大要因になることにも留意が必要である。
資産価格が13年以上続いた下落トレンドから上昇トレンドに転じているのだとすれば、そのインパクトは強烈である。これまで縮小し続けた金融与信残高が増加に転じることも予想される。
株価上昇は景気の鍵を握る個人消費にも強く影響を与える。現在の日本経済では、設備投資が堅調だが、個人消費は基調が依然として脆弱である。株価上昇は個人消費の拡大をもたらす可能性が大きい。

米国では、今週、15日(火)に10月小売売上高が発表される。10月の自動車販売が不調であったため、前月比0.7%減少が見込まれている。自動車を除くベースでは、前月比0.2%増が予測されている。米国景気の基調を判断する材料として受け止められると考えられる。

特筆すべき事項は、15日(火)に、次期FRB議長に指名されているバーナンキCEA(大統領経済諮問委員会)委員長に対する上院銀行委員会での指名承認公聴会が開かれることだ。バーナンキ氏は、グリーンスパン現FRB議長と比較して、インフレ抑制についてやや「ハト派」と見なされている。米国10年国債利回りはバーナンキ氏指名発表後に4.5%を突破して上昇した。
バーナンキ氏はFRB議長の職責を成功裏に務めるために、まず、市場に対して「インフレファイター」としての印象を強く与えなければならない。グリーンスパン氏との違いを強調するのでなく、いかにグリーンスパン路線を忠実に引き継ぐかについて時間をかけて説明することが予想される。この試みが成功するなら、米国長期金利の上昇傾向は若干抑制されることになると思われる。

バーナンキ氏以外に、今週はFRB関係者の発言が数多く予定されている。モスコウ・シカゴ連銀総裁(15日)、ファーガソンFRB副議長(15日)、フィッシャー・ダラス連銀総裁(15日)、サントロメ・フィラデルフィア連銀総裁(16日)、ピアナルト・クリーブランド連銀総裁(17日)、プール・セントルイス連銀総裁(17日)などの講演、発言が予定されている。今後のFRBの政策運営についてどのような方針が示されるか注目が必要である。

15日(火)にブッシュ米国大統領が来日する。16日(水)に日米首脳会談が開催される。米国産牛肉輸入再開は、ブッシュ大統領来日に向けて、土産として用意されたものである。また、沖縄の普天間基地問題については、地元の強い反対にもかかわらず、キャンプ・シュワブ近郊の沿岸地域への移転方針が固められた。米国に従属する小泉政権の基本姿勢が改めて確認されている。
日経新聞が日本の上場企業の外国人持ち株比率が30%を突破したことを伝えていたが、小泉政権の政策により、日本の優良な実物資産所有権が激しい勢いで海外に流出し続けている。日本の実質的な植民地化が進行している。自由化、開放政策を推進することと、優良資産を破格の安値で海外資本に提供することとは、本質的に異なる。後者は国益に反する政策である。
米国政府による「対日規制改革要望書」の存在を広く世に知らしめた関岡英之氏が、文藝春秋12月号に論文を寄稿している。「国益擁護派」と「米国隷属派」の対立が、現在日本の対立図式の基本であることを明確に論証している。「国益擁護派」がしっかり立ち上がらなければ、取り返しのつかない事態が到来するだろう。

為替市場では、米国の経常収支赤字が史上最大水準で推移するなかで、ドル堅調が持続している。最大の背景は実質短期金利差の変動である。米国では、現在4.0%のFFレートが2006年前半に4.5%にまで引き上げられる可能性が高い。日本では、2006年後半にも、ゼロ金利政策が終了する可能性があるが、2006年半ばまではゼロ金利が持続する。欧州は2.0%のECB(欧州中央銀行)の政策金利が維持されている。ドイツ、フランスの政情不安定化も為替レートに影響を与えているように見える。しばらくドル堅調の傾向が持続する見込みである。
米国金融政策、日本株価上昇の可否を軸に市場動向をきめ細かくウォッチしてゆくことが必要だ。

2005年11月14日
植草 一秀

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