コラム

今週の金融市場展望(2005年11月7日)

 先週日経平均株価が14,000円台に上昇した。筆者は2006年央にかけての日本株価本格上昇を予測してきた。日本の株式市場の見通しは二分されてきたが、これまでの市場推移は筆者の予測通りの展開である。日本株価の上昇は、これまで繰り返し述べてきているように、日本株価の割安修正であると筆者は判断している。詳細については『金利・為替・株価特報』をご購読願いたいが、企業収益の水準、長期金利、市場心理を勘案したときに、株価が理論値を大幅に下回っているとの判断を示してきたのである。

 8月8日の衆議院解散、9月11日の総選挙は、株価の大幅上方修正の「きっかけ」であって「原因」ではない。解散、総選挙の意味をめぐって株価が上昇しているのではなく、潜在的に上方に強い圧力を受けていた日本株が、上方に水準修正するきっかけを「解散・総選挙」で得たのである。
  状況は1990年2月18日の総選挙後の日本株価動向と類似している。1990年の年初、日経平均株価は下落していたが、下落幅は小さかった。2月18日の総選挙で自民党が勝利すれば株価は持ち直すというのが事前の市場の観測だった。総選挙は自民党の勝利に終わったが、株価は2月19日から暴落を始めた。
  2月18日の総選挙結果をめぐって株価暴落が始動したのではない。2月18日総選挙は株価下落のきっかけを与えたに過ぎなかったのだ。当時の株価は割高な水準に位置していた。割高な株価は潜在的に下方に強い圧力を受けていた。株式市場は下落するきっかけを求めていたのである。総選挙は株価下落のきっかけとなった。

 日本株は2006年にかけて大幅上昇する可能性を秘めている。株価上昇の最大の背景は日本の株価が利益水準と比較して著しく割安な水準に置かれてきたことである。株価上昇が挫折するリスクとしては、(1)米国リスク、(2)政策リスク、(3)長期金利急上昇リスク、(4)景気失速リスク、(5)その他の不測事態のリスク、の5点をあげることができる。これらのなかで、もっとも強い注意を払わなければならないのが、米国リスクである。

 10月下旬以降、米国で重要な統計発表、出来事が相次いだ。10月発表の9月物価統計は消費者物価も卸売物価も記録的な大幅上昇を示した。FRBの金融引締め政策に対する警戒感が強まり、金融市場には先行き不透明感が広がった。しかし、筆者は市場の不安心理は10月中旬に最悪の状況を抜け出すとの見通しを示した。
  米国物価環境の不透明感は増しているように見えるが、エネルギー、食料を除いた「コア」の物価指数は完全に「安定」の範囲内に収まっている。見た目の物価上昇の最大の理由は原油価格の上昇だが、1バレル=70ドルを突破し高値を記録したのちは、1バレル=60ドル近辺に反落しており、消費者物価、卸売物価には多少のタイムラグを伴ってその影響が反映されるから、11、12月に発表される物価統計では、多少なりとも落ち着いた数値が発表される可能性が高い。

 インフレ圧力の高まりに対して、米国金融政策当局であるFRBは完璧な対応を示してきた。2004年6月から12回開かれてきたFOMC(連邦公開市場委員会)では、0.25%ずつ、12回連続でFFレートの引上げが実行されてきた。1.0%の水準にあったFFレートは、11月1日のFOMCで、4.0%の水準にまで引上げられた。FRBは先を正確に見抜いた見事な対応を示してきたと言える。
  FRBの卓越した政策対応をリードしてきたのが、グリーンスパンFRB議長である。1987年より18年以上にわたって米国金融政策を取り仕切ってきた。グリーンスパン議長の類まれなる政策運営能力が、米国経済の「インフレなき成長」持続に寄与してきた貢献度には、計り知れないものがある。

 10月24日、ブッシュ大統領は次期FRB議長にバーナンキCEA(大統領経済諮問委員会)委員長を指名した。グリーンスパン路線を継承する最有力の候補者であったから、市場はこのニュースを好意的に受け止めた。ただし、グリーンスパン議長と比較すると、バーナンキ氏はインフレに対してはやや「ハト派」であると市場は認識しており、バーナンキ氏指名のニュースが公表されて以降、米国長期金利は小幅上昇傾向を示している。
  次回以降のFOMCは、12月13日、2006年1月31日、3月28日に予定されている。バーナンキ氏がFRB議長に就任して最初のFOMCになるのが、2006年3月28日である。この日にFRBがFFレートの引上げに踏み切る可能性は高い。インフレに対して厳しいスタンスで臨むことが、市場からの信頼を勝ち取る基本姿勢になるだけに、バーナンキ体制発足当初のFRBの対応が注目される。

 11月4日に発表された、米国10月雇用統計では、非農業部門雇用者数が5.6万人増加した。事前の市場予想は10万人の増加だった。失業率は5.1%から5.0%へ低下した。米国労働省は雇用者増加数が予想を下回ったのは、ハリケーンによる影響ではなく、ハリケーン被災地域以外での雇用者数の伸びが基調を下回っているからである可能性が高いと説明した。
  2005年7-9月期GDP実質成長率は年率で3.8%を記録している。長期金利上昇の影響で、今後、住宅価格の下落、住宅投資の減少が予想されるが、景気の急激な悪化のリスクは現段階ではそれほど高くない。他方、ハリケーン被害に対応した財政支出が1000億ドル規模で予定されており、米国経済が下支えされる可能性も高まっている。

 米国の双子の赤字拡大に伴う、ドル急落、株価急落、金利急上昇のリスクは、米国財政赤字の大幅減少により低下した。米国財政赤字は2004年度の4130億ドルが2005年度の3190億ドルへと約1000億ドル減少した。双子の赤字問題を背景にしたドル下落圧力は大幅に低下している。他方、米国短期金利の大幅上昇と日本のゼロ金利政策継続の組み合わせは、実質短期金利要因によるドル上昇を支えている。
  筆者は、円ドルレートについて、1ドル=120円に差しかかる程度の円安・ドル高を想定しておくべきだと記述(「今週の金融市場展望」(2005年10月24日)参照)したが、1ドル=120円の水準に接近している。
米国長期金利もこれまでの予測どおりに、小幅上昇傾向を示し続けている。先週は10年国債利回りが4・67%にまで上昇したが、今後は4.5−5.0%のレンジへと変動レンジを切り替える可能性が高い。米国長期金利上昇に伴う住宅価格下落、住宅投資減少が想定される重要なリスクファクターであるが、いまのところ、この側面からの景気失速リスクも限定的であると考えられる。

 日本の経済政策運営も日本の株式市場にとっての大きなリスクファクターであるが、急激な大増税が実行されるリスクはそれほど高くないと考えられる。最大の焦点は消費税率引上げであるが、2008年1月の消費税率引上げは断念される可能性が高まっている。2007年7月に参議院選挙が予定されており、2008年1月実施の場合、2007年前半の通常国会が消費税国会となる。消費税国会直後の参議院選挙では、与党が地すべり的な大敗北を喫しかねない。
  この理由から、消費税増税は2008年4月に実施される公算が高まった。2006年1月、2007年1月に定率減税が廃止され、総額3.3兆円程度の増税が実施されることが見込まれるが、現時点では、ここに大型増税が上乗せになる可能性は高くない。

 2006年前半にかけて十分な観察が必要であるのは、個人消費動向である。株価が上昇すると、個人や企業経営者のマインドが著しく好転する。現在、軟調である個人消費が力強さを発揮する可能性が生じてくる。高額所得者の消費を中心に非必需品消費の拡大に十分な目配りが必要になる。
  国内長期金利は米国長期金利と強い連動関係を持つ。米国長期金利が上昇すれば、日本の長期金利についても上昇を警戒しなければならない。日本の長期金利急上昇については、日銀の政策変化が非常に重要な鍵を握る。日銀の量的金融緩和縮小、ゼロ金利政策解除の思惑に連動して、長期金利の急上昇=長期債市況の急落が生じるリスクが表面化する。2006年のリスクとして念頭に入れておかなければならない。

 日本経済の基本方向について、筆者は「踊り場」を上方に脱却する可能性が高いと判断しているが、予断をもっての決め付けは危険であるので、今後の経済指標をしっかりとウォッチしてゆくことが肝要である。
  今週は、11日に日本の2005年7−9月期GDP1次速報が発表される。事前予想では、前期比実質0.3%、年率1.8%成長が見込まれている。1−3月期の5%成長、4−6月期の3%成長に引き続き、2%以上の年率成長率が発表されれば「踊り場脱却」見通しが補強されることになる。

 米国では、10日に9月貿易収支とミシガン大学消費者信頼感指数速報値が発表されるが、それ以外には大きな経済統計の発表が予定されていない。11日は「ベテランズデー」で米国債券市場は休場となる。株式市場では通常取引が行なわれる。FRB関係者、ECB(欧州中央銀行関係者)の発言に引き続き注目が必要である

2005年11月7日
植草 一秀

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