コラム

今週の金融市場展望(2005年10月31日)

 『金利・為替・株価特報』で示してきている基本見通しは、次の通りである。米国のインフレ懸念と金融政策、日本経済の先行き方向感の二点が市場展望の核である。米国では、短期金利の段階的引き上げを継続して「インフレ無き成長持続」を確保する戦術が採用されている。FRBの基本スタンスは極めて明瞭であり、2004年6月以来、FFレートの段階的な引上げが継続されてきた。
  問題は、米国の金融引締めがいつまで継続するか。FFレートの最終到達点はどの水準になるか。インフレを顕在化させずに済むか。経済の失速は避けられるのか、などの諸点である。つまり、米国経済がソフトランディングできるのかが第一のポイントである。
筆者は、FRBが2006年前半の中ごろまで金利引上げ政策を継続し、FFレートが最終的に4.25%〜4.75%の水準にまで引き上げられると予想してきた。インフレの抑制に成功する。実質経済成長率は瞬間風速の年率表示で2%割れの水準にまで低下するが、失速は回避される。結局、ソフトランディングする可能性が高いとの見通しを提示してきている。

 日本経済については、依然として「踊り場」を脱却していないが、今後「踊り場」を上方に脱却する可能性が高いとの見通しを示してきた。2006年にかけての最大の焦点は株価動向である。通常は、株価と実体経済との間には、実体経済→株価の因果関係が強く働く。株価は実体経済の変化を映して、あるいは先取りして変動するものなのである。
  ところが、時に両者の因果関係が逆転することが生じる。株価→実体経済の因果関係が強く表面化することが生じるのである。詳細については、『金利・為替・株価特報2005年11月1日号』を参照願いたいが、逆の因果関係が重要になる局面が存在する。2006年前半にかけて、逆の因果関係が重要性を増す可能性がある。

 8月8日以降、日本の株式市場の変動が一変したことは本コラムでも指摘してきたことである。10月12日の日経新聞には、日米の株価推移が8月8日以降一変したことを示すグラフが掲載されていたが、日本市場の米国離れが顕著になっている。
  日本については、株価上昇、景気浮揚を2006年にかけての基本シナリオに置いている。もちろん、リスクファクターは多く存在する。日本経済改善持続の鍵を握るのが株価動向であると考える。日本株価の重要な変動要因として、米国動向、国内政策動向をあげることができる。

 先週は24日、米国ブッシュ大統領はFRB次期議長にベン・バーナンキ氏を指名した。フェルドシュタイン氏、ハバード氏、コーン氏などの候補者が取りざたされていたなかで、筆者も最有力と予想してきたバーナンキ氏が指名された。
  週末28日には、7−9月期GDP速報が発表された。事前予想は年率3.6%成長であったが、3.8%成長の実績となった。ハリケーンの影響がどのように表れるのかに関心が寄せられていたが、とりあえず軽微な影響となり、株式市場では株価が大幅に上昇した。今週、4日(金)に10月雇用統計が発表される。引き続きハリケーンの影響に関心が寄せられる。

 バーナンキ氏は現在大統領経済諮問委員会(CEA)委員長としてホワイトハウス入りしている。FRB理事からCEA委員長に就任した。グリーンスパンの政策路線を踏襲するとの期待感から株式市場は株価大幅上昇の反応を示したが、グリーンスパン現議長と比較して、ややインフレに対してハト派的傾向があるとの見方も存在する。デフレ回避のためのインフレ目標設定、量的金融緩和重視の主張をこれまでに示してきたからだ。
  米国長期金利はバーナンキ議長指名のニュース発表後に上昇傾向を強めている。インフレに対する厳しいスタンスを表示することが市場から求められているとも言える。米国10年国債利回りは4.567%にまで上昇した。筆者はかねてより米国10年国債利回りの上昇を予想してきたが、今後は変動のレンジが4.5%−5.0%に切り替わる可能性が高い。長期金利上昇の影響で住宅価格は下落に転じ、住宅投資は減速することが予想される。

 今週は1日(火)にFOMCが開催される。0.25%のFFレート引上げが確実視されている。経済関連の統計としては、同じく1日(火)に10月ISM製造業指数、4日(金)に10月雇用統計の発表が予定されている。
  10月14、18日に9月米国消費者物価、卸売物価指数が発表され、大幅な価格上昇が示された。市場のインフレ懸念が強まり、先行き不透明感が広がったが、先行き不透明感のピークではないかというのが、筆者の判断であった。『金利・為替・株価特報2005年10月16日号』は「米国リスクが峠を越え投資継続の好機」とのタイトルでレポートを執筆した。

 日本では、28日(金)発表の9月鉱工業生産指数が前月比0.2%の小幅上昇となった。経済産業省発表の予測指数では3.0%の大幅上昇が示されていたから、予想を大幅に下回ったが、10月と11月の予測指数がそれぞれ、+2.4%、+1.9%と高い上昇の見通しとなっており、基本的に「踊り場脱却」の可能性が高まってきている。

 小泉政権は自民党役員人事、内閣改造を31日(月)に前倒しで実施した。自民党三役は幹事長の武部勤氏と総務会長の久間章生氏が留任、政調会長には中川秀直氏が起用された。官房長官には安倍晋三氏が起用され、将来の首相候補としての地位をより強めることになった。
  次期首相候補として名前をあげられているなかでは、麻生太郎氏が外相、谷垣禎一氏が財務相(留任)に配置され、福田康夫氏は入閣しなかった。郵政民営化、総選挙での論功行賞から、二階俊博氏が経済産業相、与謝野馨氏が金融・経済財政担当相に就任した。小泉首相のコントロールが完全に効く体制が固められたといってよい。
  小泉政権が直面する課題としては、第一に日本経済改善の基調を強固にすることができるか、第二に政府系金融機関改革で「真の改革」を実現できるか、第三に消費税増税をいつどのような形で実行するのか、の三点を特に取り上げることができる。総選挙後、定率減税の完全廃止や10−15%の消費税率などの話題が広く論議され始めているが、近視眼的な緊縮財政は日本経済の健全な発展にとって百害あって一利無しである。今後の政策論議に十分な注意が必要である。
 
  為替市場では、短期金利動向が最大の変動要因になっている。10月28日に発表された10月ユーロ圏物価上昇率(速報)では、前年比2.5%の上昇が示された。欧州中央銀行(ECB)は
物価安定の目安を2%以下としており、ECB基準金利(現行2.0%)引上げの思惑が広がり始めている。3日(木)にECB定例理事会が開催されることから、欧州の金利引上げについても注意が必要である。
  日本では、28日に発表された消費者物価指数で10月東京前年比が0.3%下落、9月全国前年比が0.1%下落となった。11月以降に発表される物価統計は、日銀による量的緩和解除、ゼロ金利政策終了の問題に直結するために監視を怠れない。
  ドルは短期金利差を背景に強含みの推移を続けている。10月26日(水)に日本の9月貿易統計が発表になった。前年比21.1%の黒字減少になった。黒字減少は6ヵ月連続である。金利差、貿易黒字減少が円安、ドル高の背景である。日本の実物資産取得に伴う円買いが円高要因になっている。両者は綱引きの関係にあるが、差し引いてドル買いがやや優勢な情勢が続いている。

 米国経済がソフトランディング路線を歩み、日本政府が直ちに超緊縮の経済政策を実行しないことを前提にすれば、日本の株価上昇、日本経済の浮上持続という筆者が提示している基本シナリオが実現する可能性は高いと考えられる。
  米国では、レフコ証券の破綻、GMの経営不安、ブッシュ政権幹部のスキャンダルなどの波乱要因がうごめいており、注意が必要である。中国はいまのところ成長持続路線を進んでいるが、常に監視が必要である。欧州の金融政策の変化、米国の長期金利動向など監視事項が多いなかで、細心の注意を払いながら日本の株価上昇の可能性を探ってゆくべきである。現実の投資戦略構築に関しては、ぜひ『金利・為替・株価特報』を参考にしていただきたい。

2005年10月31日
植草 一秀

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