コラム

今週の金融市場展望(2005年10月24日)

 米国におけるインフレ懸念が金融市場全体の不透明感の大きな背景になっている。日本市場では8月8日の衆議院解散以来、株価の上方への水準修正が進行したが、米国経済の不安定感が強まるにつれて、強弱感が対立する状況が持続している。9月14日、18日に発表された本年9月の米国物価統計は記録的な上昇率を示した。
 FRBが重視しているコア物価指数(食品、エネルギーを除く物価)は、依然として落ち着きを維持しているが、全体の物価上昇率が大幅に上昇しているために、心理的なインフレ懸念が広がる状況が持続している。

 米国のインフレ懸念は、米国の金融引締め政策強化、長期化を予想させ、海外諸国との短期金利差拡大がドル上昇を支えて、日本などへの資本流入を抑制させる要因として作用している面も否定できない。今週は、米国のインフレ心理を左右する大きな経済指標の発表が予定されていないため、先週からの市場の地合いを引き継いで、米国の先行き見通しがどう変化するかが第一の注目点になる。
 日本の株式市場については、米国のインフレ懸念拡大、NYダウ下落などの状況変化に直面しても、株価下落局面では継続的な押し目買いが株価の底堅さを生み出しており、株価の騰勢が再び始動するのかどうかが注目される。日本では、週末28日(金)に重要統計が相次いで発表される。経済の先行き方向感が変化するかどうかに注目する必要がある。

 9月18日に発表された米国9月卸売物価指数は前月比1.9%の上昇を示した。事前の市場予想1.1%を大きく上回り15年8ヶ月ぶりの上昇率となった。前年同月比では、6.9%上昇となった。コア物価指数は前月比0.3%、前年比2.6%上昇であった。消費者物価、卸売物価ともに、コア指数が落ち着きを維持しているために、市場の大きな混乱は生まれていないが、全体数値の大幅上昇が市場のインフレ心理を刺激していることは間違いない。
 次回FOMCでの利上げ実施は確実な情勢で、今回の金融引締め措置の終着点についての見通しが再び変化し始めている。筆者は一貫して金融引締めが2006年前半まで持続し、FFレートは最終的に4.25%から4.75%まで引き上げられることになると予想してきたが、現段階での市場観測はこの見通しに近いものである。
 問題は、米国経済の失速があるか、米国での真正インフレの顕在化があるかどうかである。今週28日(金)に米国2005年7−9月期GDP速報値が発表される。事前の市場予想は実質GDP前期比年率成長率3.6%を見込んでいる。8月、9月に大型ハリケーンが米国を襲ったが、この影響がどの程度表面化するかにも関心が寄せられている。いまのところ、米国経済失速のリスクは浮上していない。今後、ハリケーン対策としての財政支出追加が1000億ドル規模で実現されることも想定され、米国経済の失速リスクは限定的である。

 物価上昇率は大幅に上昇している。前年比上昇率は消費者物価が4.7%、卸売物価が6.9%と、FRBの許容限度を完全に突破している。しかし、次の二点から真正インフレの顕在化は避けられる可能性が高い。第一は、コア物価上昇率が安定していることだ。FRBがとりわけ注目している消費者物価のコアは前年比2.0%と完全に許容範囲内に収まっている。
 第二に原油価格が当面のピークを記録し、若干落ち着きを取り戻していることである。今後、時間の経過とともに物価上昇率の前年比は低下してゆくことが予想される。「インフレ懸念」は強まっているが、真正インフレは顕在化していないし、今後も顕在化するリスクはそれほど高くない。
 FRBによる金利引上げ政策の持続が予想されるものの、結果としてインフレは未然に防止され、景気失速も回避される可能性が現段階では高いように思われる。当面、NYダウはレンジのなかで気迷い気分の強い推移を継続する可能性が高いと思われるが、大きな波乱は回避できるのではないか。
 
 日本市場では8月8日の衆議院解散を契機とする株価上昇に一服感が広がっている。経済活動も政府、日銀の声明とは裏腹に、発表されている経済統計から判断する限りは、昨年半ば以来の横ばい推移を脱し切れてはいない。日本経済が改善持続の方向に進むのか、調整の方向に進むのか、予断を許さない状況にある。
 株式市場の気迷い気分は日本経済の先行きに対する不透明感を反映したものであると考えられる。米国でインフレ懸念が広がり、株式市場の調整色が強まっていることも株価抑制要因として作用している。しかしながら、株価動向を細かく観察すると、株価下落局面では幅広く押し目を買う動きが広がっており、株式市場の地合いがしっかりしていることが伝わってくる。

 今週は週末の28日(金)に重要な経済指標の発表が集中する。とりわけ、9月鉱工業生産統計が注目される。経済産業省が発表した予測指数では前月比3.0%の高い伸びが示されているが、市場の事前予想では前月比2.0%の伸びが予想されている。同時に発表される10月、11月の予測指数の内容によっては、日本経済の「踊り場脱却」が明確に示される可能性もある。非常に重要な経済指標となる。
 また、26日には9月貿易統計が発表される。通関貿易黒字額は前年比3割程度の減少が予想される。9月分で6ヶ月連続の減少となる。日本の貿易黒字減少と米国短期金利上昇がドル堅調の基本的な背景である。ドル上昇がやや強まる局面も想定しておくべきであろう。円・ドルレートで1ドル=120円程度までの円安、ドル高は想定しておくことが必要ではないかと思われる。

 28日には、日本の9月全国、10月東京の消費者物価指数画が発表される。また、9月失業率も発表される。日本経済の成長、雇用、物価などの主要指標が明らかになる。日本経済の「踊り場脱却」の可能性が高くなれば、株価が反騰傾向を明確にする可能性もあるだろう。
 日本の長期金利は株価の小幅調整をうけて、小幅反落している。今後の動向は日本経済の方向感、株価の方向感に依存することになる。日本経済の基調が2006年にかけて堅調であり、株価もなお上方に水準修正を持続する場合には、長期金利は段階的に水準を切り上げてゆくことが予想される。

 景気、株価、金利がこう着状態に入っている。今後の展開をどう読むのか、非常に重要な局面であるが、基本シナリオとしては、米国経済のソフトランディング、日本経済の改善持続、日本株価の上昇、日本長期金利の緩やかな上昇、米国短期金利上昇と経常収支不均衡縮小を背景としたドル強含み傾向、を想定している。常に基本シナリオを修正する体制を取りつつ、経済指標、市場変動をウォッチしてゆくことが肝要である。

 日本では、来週に予定されている内閣改造、自民党役員人事に向けての思惑が広がっている。小泉首相が与党、政府の全権を握る体制が強化され、一段と閉塞感の強い状況が生まれる可能性が高い。日本経済の健全な成長を持続させる方針が鮮明に打ち出されれば、日本経済、株式市場は完全にアク抜きできる局面であるが、その可能性はいまのところ高くない。
 2006年後半はゼロ金利解除、消費税増税方針決定などの大きな悪材料が表面化することが予想される。2006年半ばまでの大幅浮上のチャンスを現実化できるかどうか、小泉政権の新しい体制についての見極めが重要である。

2005年10月24日
植草 一秀

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