コラム

今週の金融市場展望(2005年10月17日)

 先週14日に発表された米国9月消費者物価統計では、前月比1.2%の上昇と26年振りの高い数値を記録した。前年比上昇率は4.7%に跳ね上がった。事前の市場予想0.9%を上回る上昇率になった。だが、同時に発表されたコア指数(食料、エネルギーをのぞく物価)は、前月比0.1%、前年比2.0%の上昇にとどまり、事前の市場予想を下回った。
 FRBはコア指数をより重視しており、コア指数の安定が市場の安心感を生んだ。NYダウは前日比70ドルの上昇を記録した。とはいえ、エネルギー価格を含めた物価指数全体が前年比で4.7%の水準まで跳ね上がったために、市場のインフレ懸念は持続することになる。

 今週は18日(火)に9月米国卸売物価指数が発表される。全体の上昇率は前月比1.1%の高い伸びが予想されている。コア指数は前月比0.3%の上昇が予想されている。原油価格の動向から判断して米国物価統計は短期的には悪化のピークを通過しつつある。インフレ懸念はくすぶるが、市場心理そのものは陰の極を通過しつつあると見てよいのではないか。
 米国長期金利は緩やかな上昇傾向を示している。10年国債利回りは、先週4.53%にまで上昇したが、当面強含み推移を継続する可能性が高い。

 米国経済は金融引締めに伴う長期金利上昇、ハリケーンの影響などを背景に、2005年10−12月期から緩やかな景気減速を示す可能性が高い。住宅価格はすでにニューヨーク・マンハッタン地域などで下落に転じており、住宅投資の減少が予想される。また、足下で発表されている各種経済指標では、8月、9月に米国を襲ったハリケーン「カトリーナ」、「リタ」の影響で数値が下方にかく乱されており、経済の基調を判断することが困難になっている。
 また、今後はハリケーン被害への対応策として1000億ドル規模の財政支出が実行される可能性が高く、この部分は逆に今後の景気を支える要因として作用することになる。

 米国に関するリスクとしては、(1)金融引締め強化、加速リスク、(2)景気減速深刻化、加速リスク、(3)長期金利急上昇リスク、(4)ドル急落リスク、などをあげることができるが、2006年にかけて米国経済はこれらの問題をクリアしてソフトランディングできる可能性が高いのではないか。米国の双子の赤字問題は本年前半には深刻さを増していたが、2005年度(2004年10月〜2005年9月)の米国財政赤字が3186億ドルに急減(2004年度は4128億ドル)したことから、懸念はいったん大きく後退している。
 米国の短期金利上昇と財政赤字減少がドル堅調の大きな背景であるが、一本調子のドル上昇も想定しにくい。その理由は、第一に米国物価上昇率の大幅上昇が米国実質短期金利を低下させていること、第二にハリケーン対策への財政支出拡大により、米国財政赤字が再拡大する可能性が高いことだ。
筆者は本年前半から、NYダウについて、9800ドルから10800ドルのレンジでのボックス相場が2006年第1四半期まで継続するとの見通しを述べてきた。さまざまなリスクファクターをくぐり抜けて、米国経済はソフトランディングを果たしてゆく可能性が高いと考えられる。

 日本では、8月以降の株価急上昇に一服感が広がっている。米国株式市場の軟調地合いも背景となって、先行き見通しについての強弱感が対立している。10月1日に発表された日銀短観も、景気の「踊り場脱却」を確認するものではなかった。一部新聞報道は「踊り場脱却宣言が正しかったことを立証した」などと記述していたが、中立・公正の立場から日銀短観を読む限り、日本経済は昨年半ば以降の横ばい推移を脱していない。
 景気の踊り場脱却は今後の課題である。企業設備投資、個人消費、米国経済、中国経済、株式市場の五つのファクターが日本経済の踊り場脱却の可否を決定してゆくことになると考えられる。企業設備投資は当面堅調な動向の継続が予想される。日銀短観でも今年度の企業設備投資は9.6%の伸び(土地投資を除き、ソフトウェアを含むベース)が計画されている。

 米国経済、中国経済、原油価格等の海外要因が第二のチェックポイントである。予断をもって断定することはできず、今後も細心の注意を払ってゆくことが求められるが、現段階では、大きな波乱発生はメインシナリオとはならないと考えられる。
 第三のチェックポイントは株価動向である。本来、株価は現実の経済動向を反映して変動するものである。しかし、2006年にかけての特徴として、株価変動が現実経済変動の原因になる「逆の因果関係」を注目しておく必要があるだろう。
 筆者が指摘してきたように、日本企業の株価割安状況が是正され、2006年央にかけて株価上昇が持続する場合、経済は強い上方圧力を受ける可能性が高い。1991年以降の日本経済の急激な悪化は、その背景に株価、地価の急激な下落が存在した。この逆の図式が成り立つ可能性があることを念頭に入れておくべきであろう。
 他方、日本の長期金利はいよいよ緩やかな上昇局面に差しかかっている。いきなり急上昇するとは考えにくいが、超低金利の是正が緩やかに始動し始めたと見ておくべきであろう。
 今後、2006年後半に向けて、日銀の金融政策の変化に細心の注意が必要になる。量的緩和の縮小、ゼロ金利政策解除と段階を追って政策スタンスが修正されてゆく可能性が高い。債券市場は市場参加者の属性が非常に近似しているために、相場の転換点で価格が乱高下する傾向を強く有している。十分な注意が必要である。

 小泉政権は9月11日の総選挙で大勝し、「わが世の春」を謳歌する状況に入っている。郵政民営化法案も10月14日に国会で可決され成立した。この追い風を背景に小泉首相は10月17日午前、靖国神社の秋季例大祭に合わせて懸案の靖国参拝を実行した。選挙、郵政民営化法成立に間髪を入れない懸案処理となった。当面、アジア諸国からの反応に注意を怠れない。
 政権を取り巻く基本環境は暫くは順風満帆と予想されるが、「陽極まれば陰に転ず」が人の世のことわりである。今後の流れの転換に留意してゆくことが必要だ。今次特別国会は11月1日に会期を終了する。国会閉会後、小泉首相は直ちに自民党役員人事、内閣改造を実施すると考えられる。予想される人事、内閣改造については、『金利為替株価特報023号』を参照していただきたいが、後継首相候補者がそろって、閣内、ないしは党三役で処遇される可能性が高い。後継候補の相互牽制を促し、小泉首相の求心力低下を防ぐことが狙いであると思われる。

 靖国参拝に対するアジア諸国の反発は非常に強い。憲法改正を視野に入れるなかでの強気の外交姿勢が示されたわけだが、株式市場は今後のアジアでの日本企業の経済活動への影響を懸念してゆくものと考えられる。2006年にはゼロ金利解除と消費税増税問題が表面化してくる。2008年の米国大統領選挙では、米国大統領が民主党から登場する可能性が高い。政局の大きな流れの転換と経済活動とのかかわりについて洞察してゆくことが求められる。
 目先については、米国市場のさまざまな懸念材料がどのように縮小してゆくかと小泉首相の靖国参拝後のアジア諸国の対応が焦点であり、中期的には小泉政権を取り巻く基本環境が2006年後半に向けてどのように変化してゆくのかを見極めることが重要である。

2005年10月17日
植草 一秀

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