コラム

今週の金融市場展望(2005年10月11日)

 米国株式市場が軟調な推移を継続している。昨年11月以来、筆者は米国金融市場を支配する要因は、インフレ懸念とFRBの金融引締め政策であると述べてきた。前回の本格的な金融引締めは、1993年末から1995年前半にかけての1年半実施された。この間、米国の株価は完全なボックス相場を示現した。
 筆者は、米国金融引締め政策が2006年前半まで持続することを予想してきた。FFレートが4%台前半まで引上げられることも予想してきた。米国で金融引締め政策が実行される間、米国株価はボックス相場を示現することも予想してきた。
 筆者が示してきたNYダウの予想レンジは9,800ドルから10,800ドルである。現在米国では、インフレ懸念、金融引締め強化予想、景気減速懸念が重なり、株価は予想レンジの下限に向かう動きを続けていると考えられる。

 米国金融市場の基本動向と、今後の株式市場の反応に対する洞察が重要な局面である。日本の株式市場は、本年8月8日までは、米国市場の写真相場の傾向を強く有していた。8月8日の衆議院解散を契機に、日本の株価変動の米国市場離れが示されてきた。本欄でも記述してきたように、日本の株価は利益水準と比較して割安な状態に位置していたが、衆議院解散を契機に上方へ水準修正を示し始めたと考えられる。
 しかしながら、米国市場の調整が大幅になれば、当然日本市場は影響を受けることになる。米国からの株価下落圧力と国内要因からくる株価上昇圧力がせめぎあう局面が到来している。
当面の小幅調整の幅を見極めつつ、調整後の展開を読んでゆくことが重要である。今週は米国インフレ懸念に関連した最重要指標が発表される。この山場を越えて市場がどのように反応してゆくのかを見極めておくことが必要である。

 米国では、金融政策運営に関連したスケジュールが多数予定されている。11日には、9月20日開催のFOMC議事録が公開される。オルソンFRB理事が利上げに反対した理由が明確にされる可能性がある。また、グリーンスパンFRB議長、オルソンFRB理事、コーンFRB理事、プール・セントルイス連銀総裁、フィッシャー・ダラス連銀総裁が今週相次いで講演する。
 オルソン理事は前回FOMCで利上げに反対票を投じたFOMCメンバーである。他方、フィッシャー・ダラス連銀総裁はインフレ懸念に強い憂慮を示しており、両者の見解の相違がどのように表面化するのかも注目点である。

 週末14日に、9月消費者物価指数が発表される。事前の市場予想では、前月比0.9%の非常に高い上昇が示されると見込まれている。FRBがより重視している、コア(食料、エネルギーを除く)指数は、0.2%上昇が見込まれている。
 予想通りの数値が発表される場合には、市場のインフレ懸念は拡大する可能性が高い。金融引締め強化予想が広がり、長期金利上昇、株価下落が強まる可能性がある。NYダウが10,000ドルの大台を割り込むことも想定される。
発表数値が市場予想よりも大幅に縮小する場合は、逆に安心感が広がり、株価は反発することが予想される。いずれにしても、市場心理は当面の悪化のピークに差しかかっていると考えておくべきであろう。

 日本市場は、米国株価が下落すれば、連動して若干下方に圧力を受けることになると考えられる。8月8日以降の株価上昇基調に水が差される可能性がある。しかし、10月中旬の押し目を経過した後は、再び上昇力を回復する可能性が高いのではないか。
米国経済は、金融引締めの強化により、2005年10−12月期以降、緩やかな減速を示す可能性が高い。また、カトリーナ、リタの二つのハリケーンも短期的に米国経済の押し下げ要因として作用することが予想されている。景気減速のなかでインフレ懸念が強まっていることが、株価下落の大きな背景になっている。
 しかし、米国政府はハリケーンへの対応策として2000億ドルから3000億ドルの財政支出追加方針を示しており、今後、財政支出追加が現実化するにしたがって、新たな景気押し上げ要因も経済に影響を与えることになる。
景気失速は財政支出拡大により回避される可能性が高い。米国株価がボックスを下に抜けて大幅下落するリスクはそれほど大きくないと考えられる。

 国内ではとりわけ大きな経済指標の発表は予定されていない。昨年来、横ばい推移を続けている日本経済の基調に大きな変化は生じていない。10月1日に発表された日銀短観でも、日本経済の横ばい推移が確認された。政府、日銀の「踊り場脱却宣言」は、日本経済の再浮上を示唆するものだったが、短観は日本経済が依然として「踊り場を脱却していない」ことを確認させるものとなった。
日経新聞などは政府支援の姿勢を強めており、日銀短観報道のなかで、「踊り場脱却が確認された」との論評を発表していたが、客観的には極めて不自然な評価と言わざるを得ない。

 日本経済が踊り場を上方に脱却できるか否かは、今後の動向に依存している。企業の設備投資は積極的であり、この点は日本経済支援要因として作用することが見込まれる。個人消費は、所得環境は小幅改善しているものの、消費心理は依然として低迷を抜け出せていない。海外要因が重要性を増しているが、米国での株価下落、景気減速が鮮明になれば、日本経済への影響は重大になる。
 日本の株価上昇が本格化することが、日本経済の最大の支援要因になると考えられるが、現時点では、確定的にこの予測を示すことはできない。日本経済が順調に浮上できるのかは、今後の米国経済動向と日本の株式市場動向に強く規定されることになると考えられる。

 米国経済がソフトランディングし、日本の株価の上方修正が持続する前提に立てば、日本経済の再浮上、株価の順調な上昇持続を見込むことが可能になる。ただ、現状では、この見通しは「ひとつの楽観シナリオ」にとどまっており、実現確実な見通しの段階には至っていない。
 今週の経済指標を受けての米国経済、米国市場の反応が非常に重要である。原油価格も騰勢はすでに一服しており、9月物価統計が発表されてしまえば、物価上昇の強い圧力は物価統計からは遠のくことが見込まれる。米国市場の市場心理が悪化のピークに差しかかっていることを念頭に入れた展望が重要である。

 為替市場では、米国金利上昇予想が引き続きドル支持要因である。だが、2005年度の米国財政赤字が大幅減少したこともドル支持要因として作用しやすい。だが、ハリケーンに伴う巨額の財政支出追加は財政赤字を再拡大させる要因になる。日本への実物資産取得のための資本流入も持続が予想される。これらの要因を総合すると、緩やかなドル強含みの市場推移が予想される。
 欧州では、ドイツで新たにCDU・CSU連合のメルケル氏が首相に就任することが確定した。SPDとの大連立が成立する見込みである。シラク・フランス大統領とシュレーダー・ドイツ首相が牽引してきたユーロ統合の流れが、大きく挫折したとの側面も指摘できる。5、6月に仏、オランダで、ユーロ憲法批准の国民投票での否決の決定が相次いで下された。その延長上に、シュレーダーの首相退任が表面化し、当面、ユーロに対する慎重な見方がじわじわと広がる可能性がある。

 日本の金利動向に影響を与える日銀の政策決定会合が12日(火)に開催される。量的金融緩和の縮小、ゼロ金利政策の解除が今後、経済政策上の大きな争点として浮上するが、足元での急変は予想されない。長期金利変動要因としては、日本経済の方向感、米国金利動向、日本株価の推移が重要と考えられる。日本の長期金利は当面は横ばい推移が見込まれる。

2005年10月11日
植草 一秀

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