コラム

今週の金融市場展望(2005年10月3日)

 名実ともに年度下半期に入った。10月3日朝発表された日銀短観2005年9月調査では、企業の業況判断が2期連続で改善したものの改善幅は極めて小幅にとどまった。大企業製造業の景況感は昨年9月がピーク(業況判断DI=26)で、2005年9月調査で業況判断DIが1ポイント改善して19ポイントとなったものの、ピークからはかなり低い水準にとどまっている。

 政府、日銀は8月9日に「景気の踊り場脱却」を宣言したが、各種経済指標は日本経済が依然として踊り場を脱却していないことを示している。企業の経常利益見通しでは、大企業の2005年度下期経常利益見通しが1.8%下方修正された。企業収益の増益基調に変化はないものの、利益見通しが下方修正されたことには留意が必要である。
  日本経済は、依然として昨年半ば以来の横ばい推移を続けている。在庫・出荷の循環からは、景気が下降してゆくリスクが高いが、株価の大幅な上方修正に伴い、経営者心理、消費者心理が鼓舞されれば、景気が上向くことも考えられる。

 日本の株式市場では、8月8日に郵政民営化法案が参議院本会議で否決され衆議院が解散されて以来の株価上昇のスピードが早いことに対する警戒感が広がっている。強弱感が交錯する局面である。今後の動向を左右する主要な五つのポイントについてチェックしておく必要がある。

 第一は日本経済の基本的方向である。日銀短観は日本経済がなお横ばいの動きを継続することを示唆している。企業の業況判断は良好で設備投資も積極的である。全規模・全産業の2005年度設備投資計画(ソフトウェアを含み土地投資を除く)は、前年度比9.6%の伸びが計画されている。2004年度の5.1%(実績)を大幅に上回る伸びが計画されている。
  雇用人員判断も全規模・全産業の雇用人員判断DIが−2ポイントとバブル崩壊後初めて「不足超」に転じた。雇用人員の不足感は雇用者所得の増加につながる背景となり、今後の家計所得増加、家計消費増加が期待されることになる。
  だが、全体としての景況感は、データの上では頭打ち傾向を強く示唆している。大企業製造業の業況判断DIは2004年9月がピークで、ピーク更新の可能性は現段階では見えていない。日本経済は依然として踊り場の中にとどまっているのが実態である。

 第二は為替市場の変化である。米国の短期金利引上げ措置が継続している。日本のゼロ金利政策は当面維持される見通しである。日米実質短期金利は米国が日本を上回る方向で逆転した。今後も米国短期金利は上昇が見込まれる。日米実質短期金利差の変化方向はドル高要因である。
  他方、今後米国の内需が抑制され日本の内需が拡大傾向を示すと、日米の経常収支不均衡は縮小傾向を示し始めることになる。この要因もドル支持要因である。残る要因は政策要因である。一般的に表現すれば米国の金融政策当局は、「景気支持により強い関心を持つときにドル安を容認」しやすく、「インフレ抑制により強い関心を持つときにドル高を望む」傾向を有している。
  現在、FRBの関心事項はインフレ抑制に傾いており、ドルの堅調は容認されていると考えられる。これらの要因がドル堅調の市場動向を生み出している。また、2005年度米国財政赤字の大幅減少もドル支持要因と見なすことができる。

 他方、円高要因としては日本の実物資産取得のための外国資本の日本への流入と、ドル高が進行すれば米国経常収支の赤字縮小が妨げられることを踏まえた、米国政策当局による円高牽制スタンスをあげることができる。現状では、ドル高要因と円高要因が綱引きの関係にあるが、全体としてはややドル高要因が優勢な情勢となっている。
  円安傾向がやや強まる場合、国内産業に与える影響にも変化が生じてくる。輸出比率の高い製造業の業況がさらに改善されてゆく。一般機械、精密機械、自動車産業は景況感の改善を継続しているが、さらにフォローの風を受けることになるだろう。

 第三のチェックポイントは米国経済の動向だ。今週は米国経済に関する重要な経済指標が多く発表される。3日には米国供給管理協会(ISM)製造業景況指数、7日には9月雇用統計が発表される。いずれも、ハリケーン「カトリーナ」、「リタ」の影響が表れることが予想されているが、どのような数値となるかは非常に予測が難しくなっている。
  9月26日にグリーンスパンFRB議長が講演し、「大型ハリケーンの米国経済への影響は一時的にとどまる」との見解を表明した。そのうえで、「物価の上昇率は安定圏の上限にあり、超低金利政策をさらに修正する必要がある」と発言した。金融引締め政策の継続が明確に示された。金融引締め政策の継続を前提とすると、今週発表される経済指標が事前予想よりも弱い場合、景気に対する弱気の見通しが広がる可能性が生じる。その場合には、株価下落要因として作用する可能性が高い。一時的な市場の反応であると考えられるが留意が必要である。

 第四は日本の株価動向である。筆者は日本株価の上昇は、割安水準に放置されていた株価の上方への水準修正と捉えている。経済指標、米国市場動向、為替レートの変化を背景に一進一退を示すと考えられるが、当面は堅調な市場動向を示す可能性が高いと考えられる。
  株価が上昇すること自身が経済の変動要因になることを重視する必要がある。日本経済は昨年来の横ばい推移を続けているが、今後株価が上昇を続ける場合には、経済の改善が示される可能性が高い。経済改善を後押しする政策スタンスが示されるかどうかも注目点である。

 第五のチェックポイントは、長期金利の動向である。日本経済の改善が継続し、株価が一段と上昇すれば長期金利は上昇を加速させる可能性がある。長期金利上昇は逆に株価上昇を抑制する要因として作用する。長期金利動向にも留意が必要である。
日本銀行はすでに量的金融緩和政策の見直しに着手している。2006年にかけて消費者物価上昇率が前年比で安定的にプラスを維持するようになれば、ゼロ金利政策解除が議題として浮上してくる。長期金利の本格上昇は短期金利の引上げ後と考えられるものの、債券市場はすでに神経質な展開を示し始めている。
  当面10年国債利回りは1.3%〜1.7%程度の水準で推移するものと考えられるが、2006年以降の長期金利大幅上昇の可能性について、あらかじめシミュレーションしておくことが大切である。

 日本株価の上昇傾向、その中での内需関連と輸出関連の循環、ドル堅調下での外国為替の取り扱い、長期金利の上昇警戒、などの事項を個別にしっかりと見極めてゆくことが求められる。
  日本経済については、一本調子の経済浮上が見込まれているわけではないが、株価上昇に伴う緩やかな経済浮上シナリオを基本にすえて先を読んでゆくことが重要と思われる。

2005年10月3日
植草 一秀

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