コラム

今週の金融市場展望(2005年9月27日)

 本コラムで再三指摘してきたように、日本の株価が上方に水準修正されつつある。株価上昇の理由は、小泉政権が選挙で勝利したことではない。株価が企業収益の水準と比較して割安に位置していたことにある。株価は上方修正の「きっかけ」を探していた。「解散・総選挙」が株価の水準修正を始動させる「きっかけ」になったのである。
  日本の株価は引き続き上昇を続ける可能性が高い。8月8日までの米国株価との連動関係を離れて、独歩高を持続する公算が高い。いよいよ、市場は年度下期入りする。これまでの日本の資産市場での買いの主役は外国資本であった。年度下期から、国内機関投資家が「買わないリスク」を認識して、買い出動に転じるものと予想される。
先週、9月20日に国土交通省が発表した2005年の基準地価では、東京23区が15年ぶりに上昇に転じた。株式市場、不動産市場のトレンドが転換したことが示された。すべての潮流が変化してくることを考えなければならない。

 1990年から2003−5年まで、資産価格下落の時代が続いた。株価、地価が下落し、景気は低迷し、金利はゼロ水準にまで低下した。物価も下落傾向を強めた。2003−5年を境にしてトレンドが大転換し始めている。トレンド転換をいち早く捉え始めたのが外国資本であった。
  もっとも、2003年の日本経済では、「金融恐慌」に突入する可能性が現実に存在した。小泉政権が「改革路線」として提示した「退出すべき企業を市場から退出させる」方針が大銀行にも適用されるなら、金融恐慌も起こりうると市場は警戒した。小泉政権がこの路線を堅持したなら、日本は金融恐慌に突入していた。

 金融恐慌に突入しなかったのは、小泉政権が切羽詰って「改革路線」の政策を全面放棄したからだった。りそな銀行の処理に際して、「退出すべきは退出」の方針を放棄し、「退出しそうな銀行は税金で救済」に転じた。この路線がとられるなら、そもそも金融恐慌のリスクは存在しなかった。金融恐慌リスクで下方に振れていた株価は、当然大幅に反発する。
  小泉政権が「改革路線」の政策を完全放棄するとの方針をいち早く入手した外国資本は、安心して株式の積極買いに転じて、莫大な利益を獲得した。小泉政権は改革政策を完全放棄することによって、政権崩壊を免れたのである。

 2003年以降、株式市場は長期上昇のトレンドに転換した。2003年から2005年にかけて、外国資本は長期的視点で底値を買い取る動きを強めてきた。だが、株価は大幅には上昇しなかった。小泉政権の経済政策が経済の先行きに対する安心感を与えなかったからだ。
  だが、一方で企業収益は大幅に増大した。企業は人件費の削減を積極的に進め、経済全体のパイが拡大しないなかで、企業収益の拡大を実現させてきたのだ。言い換えれば、労働分配率を引き下げることにより企業収益の増大を実現させてきたのだ。

 企業収益が増大するなかで株価が低位に低迷し、両者の矛盾が拡大してきた。1989年末の状況が「バブル」だったのに対して、最近の状況は「逆バブル」と表現すべき状況にあった。日本の長期債利回りに対して、株式の益利回りが突出して高い状況が生じていたのである。
  今回の解散、総選挙をきっかけに、株式の割安感の是正が始動していると私は見なしてきている。短期集中で、株価は大幅に上方修正される可能性が高い。株価に遅行して地価の方向も変化し始めた。バブル生成の際も、株価先行、地価遅行だった。
不動産においては、人口減少社会において不動産の絶対的希少性が薄れてゆくために、二極化が一段と鮮明になると考えられる。だが、大都市優良地を中心に、地価の上昇傾向は鮮明になってゆくものと考えられる。

 資産価格の方向変化は経済にも重大な影響を与える。金融資産残高の蓄積が進む現代経済の特徴として、資産価格変動が経済変動の結果ではなく、原因になる側面が強くなってきている。
  株価上昇は消費者、企業経営者の「予算制約」を大きく変化させると同時に、心理状況をも大きく変化させる。心理の好転が景気拡大要因となり、景気の拡大がまた次の資産価格上昇要因になる。
  日本経済は、昨年央以来の「踊り場」を依然として脱却していないが、2006年にかけて経済浮揚傾向が強まると考えられる。小泉政権の政策の帰結ではなく、市場の循環変動を背景にした景気改善が2006年にかけて実現されてゆく公算が高い。株価−景気−株価のプラス循環について、しっかりとした認識が必要である。

 米国では、9月20日のFOMCで予想通り0.25%の金利引上げが実施された。だが、ハリケーン「カトリーナ」による被害が認識され、利上げに反対する意見が提示されたことが注目される。原油価格上昇を背景にしたインフレ警戒感と、米国経済の減速懸念とが交錯しており、今後の金融政策運営については、見通しが難しくなることが予想される。
  今週、グリーンスパンFRB議長の講演が予定されており、同議長が景気、インフレ、金融政策について、どのような見解を表明するかが注目される。

 私は、米国経済の今後の方向について、景気の緩やかな減速、慎重な金利引上げの継続、物価安定の持続を予想している。FFレートは2006年3月ころまで引上げが継続し、最終的には4.25%〜4.50%程度まで上昇すると見ている。経済成長率は2006年前半に年率2%弱の水準まで低下する可能性を考慮している。株価は、金利引上げが続く間はボックス圏内の動きを継続すると考える。
  日本では、今後、株価上昇とそれに連動する経済改善が予想されるが、2006年には、二つの大きなリスクが表面化することになると考える。ひとつは日銀のゼロ金利政策の解除である。いまひとつは、2008年1月の消費税率引上げの意思決定である。
  総選挙後に誕生した政権が、経済成長優先の政権であったなら、日経平均株価の2万円回復も十分に想定できる。小泉政権は経済回復優先の政策路線を選択してこなかった。この分だけ、株価上昇は鈍ることになる。1万7000−1万8000円程度がターゲットになるのではないだろうか。

 9月26日、特別国会において小泉首相が所信表明演説を行なった。小泉首相は郵政民営化法案反対派の議員を一掃した上で、327議席の与党勢力を獲得したから、いよいよ「改革」が急進展しないとおかしいということになる。しかしながら、所信表明演説では、「郵政民営化」後の政策課題が鮮明には示されなかった。
  当面、秋以降に予定されているのが政府系金融機関の統廃合、民営化論議である。私はかねてより政府系金融機関改革に際して、「天下り廃止」が示されるかどうかが、最大の注目点であると述べてきた。「天下り」こそ、「役人天国」、「無駄な政府」をもたらしている根源である。

 小泉首相は、旧田中派の基盤であった旧郵政省、旧建設省、旧運輸省にメスを入れることには積極的だが、旧大蔵省=現財務省・金融庁の利権には指一本触れてこなかった。今後論議の対象になる政府系金融機関は、財務省天下り先の御三家と呼ばれる日本政策投資銀行、国際協力銀行、国民生活金融公庫を含んでいる。
  この改革論議のなかで、「天下り全廃」が示されないなら、結局、小泉政権の「改革」はまがいものに過ぎなかったことが判明する。誰の目にもはっきりと分かる、リトマス試験紙となるのが、「天下り問題」への小泉首相のスタンスである。月は必ず「満つれば欠く」のが自然の摂理である。小泉政権が絶頂に差しかかっていることは、今後の暗転を意味するものである。

 為替市場では、日本の経常収支黒字縮小と米国での金利引上げ政策がドル高要因である一方、日本に対する実物資産取得のための資本流入が円高要因として作用する。両者が引き続き綱引きの関係を形成すると考える。

2005年9月27日
植草 一秀

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