コラム

今週の金融市場展望(2005年9月20日)

 日本の株式市場では、8月8日解散、9月11日総選挙の政治イベントを「きっかけ」にした株価水準の上方修正が進行している。これまで、本欄や『金利為替株価特報』で記述してきたように、株価は上方への水準修正のきっかけを模索していたと考えられる。
年初来、8月8日まで、日本の株価は米国株価との連動性を強く維持してきた。米国では、原油価格の急騰を背景にしたインフレ懸念が常に意識され、昨年6月以来継続しているFRBによる金融引締め政策についての見通しとあいまって、時折、先行き警戒感が広がってきた。

日本の株式市場も、米国の市場動向から強く影響を受ける状況を続けてきた。ところが、8月8日の衆議院解散をきっかけに、日本の株価が米国の市場動向と離れて変動し始めるようになった。
この点について、私は、1990年2月19日以降に観察された日本の株価暴落との類似性を指摘してきた。このときもきっかけは総選挙だった。総選挙は自民党が勝利し、事前の市場観測ではその場合には株価上昇との見方が有力だったが、現実には総選挙翌日から、株価暴落が始動した。
株価は理論価格から乖離することが多い。株価が理論的に適正な価格から大幅に乖離しているのが、「バブル」や「逆バブル」の状況である。株価が理論価格から大幅に乖離すると、均衡価格(理論的に適正な価格)に戻ろうとする復元力が働く。理論価格との乖離が広がり、復元に向けてのエネルギーが蓄積されると、何らかの事象を「きっかけ」にして株価が理論価格の方向に急激に変動することが生じる。

私は、現在、日本の株価が理論価格よりも大幅に下方に位置していると判断している。何らかのきっかけで株価が大幅に上方修正される可能性が高まっていたと見る。小泉政権の政策内容と現在の株価上昇との間に、因果関係はほとんど観察されない。
8月8日に郵政民営化法案が参議院で否決された。この直後から株価は急反発に転じたが、この時点で、小泉政権が総選挙で勝利する見通しは存在しなかった。その後に小泉政権の優勢が伝えられてゆき、株価は上昇を継続した。株式市場は、小泉政権が窮地に追い込まれても一転して優勢に転じても、一貫して強い上昇力を示したのである。

私が株価上昇を予想している最大の背景はPERの低さである。2006年3月期企業収益予想を踏まえると、日本の株価PERは20倍を下回っている。20倍のPER益利回りに置き換えると5%超を意味する。PER20倍は米国市場と大差がないが、一方、債券利回はりは米国が4.3%、日本が1.3%である。
現在の日本の超低金利と比較して、日本株式の利回りは、あまりにも高い。利回りが低下するためには、企業利益が減少するか、株価が上昇することが必要である。企業利益は依然として拡大基調を維持している。このことを踏まえると、株価が大幅に上方修正されても不思議ではない。

どのようなセクターの株価上昇が見込めるのかについては、『金利・為替・株価特報』を参照願いたいが、日本の株価水準が大幅に上方修正される可能性について、十分な検討が必要である。
株価上昇が実現すると、このこと自身が景気支持要因になる。とりわけ個人消費にプラスの影響が生じる。日本景気は、通常の在庫循環からは景気警戒感が必要な局面に差し掛かっていたが、こうした特殊な要因での株価上昇、個人消費堅調によって、景気の一段の改善を見込める客観情勢が強まっている。

米国におけるインフレ懸念、金融引締め、ドイツの政治情勢混迷とユーロの揺れ動きなど、海外要因には不透明感が存在し、日本市場もそれなりの影響を受けることが予想はされるが、日本市場はしばらくの間、上方に向かう「ひとり旅」を継続する可能性が高い。この上昇相場への対応が各種投資ファンドのパフォーマンスを大きく左右する要因になることが予想される。

米国では、20日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催される。先週15日に発表された米国8月消費者物価統計は、非常に微妙な数値になった。全体の物価指数は前月比0.5%上昇と高めの上昇を示した。前年比上昇率も3.6%に達した。他方、エネルギーと食料を除く「コア」の物価指数は、前月比0.1%、前年比2.1%上昇と非常に落ち着いたものになった。
物価の基調を示す「コア」指数が落ち着いていることは、物価情勢を考える上での安心材料だが、ハリケーン「カトリーナ」来襲後に小幅下落した原油価格が、新たなハリケーン「リタ」の接近により、再び騰勢を強めており、市場のインフレ懸念は依然としてくすぶり続けている。

他方、ハリケーンの影響で短期的には経済に下方圧力が生じることが予想されており、FRBはこの影響にも配慮して今回は利上げを見送るのではないかとの見方も生じている。私は、0.25%の金利引上げを今回も実施する可能性が高いと考えているが、FRBの対応とFOMC開催後に発表されるコメントに関心が寄せられる。
金利引上げを実施する場合、コメントのなかで、足元のインフレが十分抑制されていることが強調され、また、ハリケーンの影響など経済の下方リスクに対しても注視してゆくことが併記されるのではないかと考える。市場の反応としては、利上げ後に安心感が広がることも予想される。いずれにしても、今週の金融市場での最大の注目点は、米国FOMCおよびその後のコメントである。

9月18日、ドイツで総選挙が実施された。野党キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が与党社会民主党(SPD)を上回る多数の議席を確保したが、いずれの勢力も過半数には届かなかった。政権樹立は、与党、野党と少数政党とによる今後の連立交渉に委ねられることになった。
ドイツ政局の混迷からユーロが下落基調を強めている。他方、米国の金利引上げ観測が強まり、ドルがユーロに対して上昇を強めている。円ドルレートは、米国金利引上げ観測の強まりからドルが小幅上昇しているが、円建て資産への資本流入も続いており、ドルの大幅高は生じていいない。
今後も、金利差に基づくドル買いと、日本の実物資産取得を目的とする円買いとが綱引きの関係を演じる可能性が高い。米国で利上げが行なわれる場合、利上げ後には材料出尽くしでドルが反落する可能性がある。

当面の最大の注目対象は日本の株式市場である。株価上昇とそれに連動する日本経済浮揚の可能性を考察しておくべきである。ただし、小泉政権が総選挙で圧勝した後、直ちに「緊縮経済政策」の片鱗が示され始めている。2006年1月、2007年1月実施の定率減税全面廃止だけで、国民負担は1年あたりで3.3兆円も増加するが、この方針がすでに明確に示された。
2008年1月の消費税率引上げの可能性は依然として強く、2006年後半以降の政策論議と市場の反応が警戒される。目先は楽観的な情勢が広がっているが、先行きには大きな暗雲も見え隠れしている。短期、中期、長期に分けた市場展望と投資戦略構築が求められている。

2005年9月20日
植草 一秀

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