コラム

今週の金融市場展望(2005年8月29日)

今週の金融市場は、国内では引き続き9月11日総選挙の結果を模索する動きを継続し、米国では、原油価格の上昇が続くなかで、米国景気、金融政策スタンスにどのような変化が生じてくるのかを見定める動きが継続するだろう。欧州では、9月1日(木)にECB(欧州中銀)理事会が予定されており、欧州経済の変化にも関心が寄せられる。

8月8日の衆議院解散以来、総選挙に向けての政局変動が本格化しているが、今週30日(火)に第44回衆議院選挙が公示され、選挙戦はいよいよ本番に入る。
小泉首相のパフォーマンスと権力に迎合する大手マスコミの世論誘導により、解散直後から先週まで選挙戦は「郵政民営化法案に賛成か反対か」を問う選挙との位置づけを強制されてきた。その結果、世論調査などにおいて小泉政権支持の傾向が強く表れてきた。
しかし、総選挙はその結果によって政権が確立される選挙であり、国民にとっては、衆議院の任期4年間の生活全般を託す意味を有している。国民にとってそもそも関心の極めて薄かった郵政問題だけを争点に投票が行なわれることは間違っていると言わざるを得ない。総選挙の意味は「政権選択」であり、国政全般に関する主要問題について、各政党がどのような公約を国民に示すか、その政策公約を踏まえて国民がどのような政権の枠組みを選択するのかが総選挙の真の意味である。
朝日新聞が8月25、26日に実施した世論調査では、世論動向に大きな変化が生じ始めたことが示された。小泉首相の政治手法について、「共感しない」(41%)が「共感する」(38%)を初めて上回った。また、「総選挙で議席が増えてほしい政党」では、自民28%にたいして民主25%とこれまでの調査のなかでもっとも接近した結果となった。
時間が経過するにしたがい、国民世論に大きな変化が生じるものと考えられる。第一の変化は、選挙の争点が、選挙戦当初の郵政問題から、年金、雇用など本来国民が重大な関心を寄せている問題に移行してゆくこと。第二の変化は、小泉首相の民主主義の基本ルールを無視した独裁的な政治手法に対する、冷静で厳しい批判が有権者の間に広がってゆくことである。
年金問題で自民党は、いまもっとも深刻な問題になっている国民年金について、まったく政策を示していない。さらに、共済年金と厚生年金の一元化についても「推進する」との表現しかとっていず、国民に一元化を確約していない。また、民主党が公務員や特殊法人職員の「天下り」について、明確に「禁止」を示しているのに対し、自民党は「天下り禁止」を示していない。
武部勤自民党幹事長はテレビの討論番組で「2007年度の消費税率引き上げ」を明言した。その後、発言修正に動いたが、小泉政権が継続する場合、2007年度に消費税率の再引き上げを実施することは確実である。前週の本コラムにすでに指摘しているが、今回の総選挙の隠された最大の争点は、「2007年度の消費税大増税」と、その前哨戦ともいえる「サラリーマン大増税」を意味する2006年1月の定率減税全廃、各種控除制度見直しによるサラリーマン増税の是非である。
8月30日の総選挙公示から9月11日の投票日にかけて、大増税政策の是非が選挙の大きな争点として浮上してくることが予想される。また、自民党本部が郵政民営化法案に反対した前自民党議員を落選させるために送り込んだ、「刺客」と称せられる候補者が、比例区でどのような処遇を与えられるかが明らかになる。各候補者が比例区での当選を保証されての立候補ということになれば、「退路を断った真剣勝負」とかけ離れた、みせかけだけの「刺客」ということが明らかになり、有権者の強い反発を招く可能性が高い。選挙戦の後半には選挙の風向きが大きく変化することも考えられる。

株式市場では、8月8日の「郵政民営化法案」否決を境に株価上昇力が強まる傾向が観測されている。市場は、選挙結果にかかわりなく、株価水準のかさ上げのきっかけを得ようとしているようにも見える。
バブル崩壊期に入った1990年、株価暴落が本格的にスタートしたのは1990年2月19日だった。2月18日に総選挙が実施された。自民党が大勝すれば株価は反発するとの見通しが広く語られていたが、現実には、自民党が選挙に大勝したにもかかわらず、株価暴落が始動していった。選挙結果は株価下落の理由ではなく、単なるきっかけであったにすぎないと考えられる。
日本企業の企業収益は大幅に増大している。現在の日本経済の極めて大きな供給余力(需給ギャップ)を踏まえれば、適切な経済政策さえ採られれば、3%経済成長を5年程度持続することは可能である。こうした状況を踏まえれば、日経平均株価が1万4、5000円台に水準修正を示しても不思議ではない。総選挙が選挙結果とは関わりなく、こうしたきっかけを提供するとの考え方も成り立ちうる。
経済全般に対する影響として、次に重大になるのは、2007年度消費税大増税問題である。株価はいったん水準を大きく切り上げても、1997年同様に、経済の持続的成長を損なう無謀な増税策が採用されれば、その後、大きく反落してしまうことも考えられる。

米国では、8月26日にグリーンスパンFRB議長がワイオミング州で講演し、住宅価格の上昇を背景にした消費者や金融機関の行動に対して「歴史はそれほど優しくなかった」とかなり強い警告を発した。他方、原油価格の上昇が持続しており、WTI先物価格は時間外取引ですでに1バレル=70ドルの大台を突破し、米国のインフレ心理をさらに刺激することが予想される。
今週は、9月1日(木)に8月IMS製造業景気指数、2日(金)に雇用統計の発表が予定されている。これまで本コラムで再三指摘してきているように、米国株式市場は、景気、インフレ懸念、金融政策の三つのことがらの間で揺れ動いてきており、インフレ懸念拡大、金融引締め強化予想が生じると株価が下方圧力を受け、これらが後退し、景気楽観論が広がると上昇圧力を受けることを繰り返してきている。今週前半は、先週からの流れを引き継ぎ、市場に警戒感が広がりやすい状況で幕を開けることになるだろう。
日本の株式市場は米国市場変動の影響を強く受け続けており、NY市場での調整は日本の株価にも少なからず影響を与えるものと考えられる。日本の株価がNY市場との連動を断ち切って本格上昇を果たすためには、日本政府が日本経済の成長持続を確実に確保する明確な成長政策を示すことが必要になるだろう。選挙後の株価動向を判定するためには、この点も総選挙を観測する際の重要な焦点となる。

為替市場では、日本の経常収支黒字が減少すること、米国金利が上昇の方向にあることが円安・ドル高の要因であるが、米国でのインフレ懸念拡大と日本の資産市場への海外からの資本流入が円高・ドル安要因であり、しばらくはなお、両者が綱引きを演じ、一進一退を継続することが見込まれる。

内外債券市場は、米国での長期金利動向が鍵を握る状況が継続するものと考えられる。米国長期金利が上昇する局面では、日本などにおいても長期金利上昇、債券価格下落に注意が必要である。

2005年8月29日
植草 一秀

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