コラム

今週の金融市場展望(2005年8月22日)

米国金融市場は引き続き、米国のインフレ懸念、景気、金融引締め政策の間での綱引きに左右される状況が持続するだろう。日本の金融市場では、当面、9月11日の総選挙結果を見定めることが最重要の関心事項となり、選挙結果を受けて選挙後に新しい方向感が定められることになるだろう。

先週、16日(火)に発表された米国7月消費者物価指数は、前月比0.5%の高めの上昇を示した。前年比上昇率は6月の2.5%から3.2%へと大幅に上昇した。
17日(水)に発表された米国7月卸売物価指数も前月比1.0%の上昇となり、前年比上昇率は6月の3.6%から4.6%へと上昇した。原油価格上昇が最大の背景であり、NY先物市場ではWTI価格が1バレル=65ドル台に乗せるなど、史上最高値を更新している。米国内ではガソリン価格が大幅に上昇しており、消費者物価統計では前年比で約20%の上昇を示している。
しかしながら、FRBが重視している、食料品、エネルギー価格を除いたコアの物価動向では、消費者物価指数において、6月、7月ともに前月比0.1%の上昇にとどまっており、7月の前年比上昇率も2.1%にとどまった。

現段階では、米国でのインフレは適正にコントロールされており、金融引締め政策が一段と強化されてゆく情勢にはない。しかしながら、エネルギー価格の上昇が続いており、FRBはエネルギー価格の上昇が物価全般の上昇につながる懸念がないかどうか、警戒を強めているものと考えられる。
また、8月5日の7月米国雇用統計では、事前予想を超える雇用拡大が示され、FRBは賃金上昇圧力の強まりにも警戒感を強めているものと考えられる。FRBは8月9日のFOMCで、昨年6月以来、10回連続となるFFレートの引上げを決定した。FFレートは昨年6月の1.0%の水準から3.5%の水準にまで引上げられた。

次回FOMCは9月20日に開催されるが、FRBは引き続き金利引上げを継続する可能性が高い。米国経済の基調は現在のところ堅調で、同時に原油価格の上昇が持続しており、FRB金融引締め政策は2006年前半まで継続される可能性が高い。FFレートの最終到達水準については、これまで筆者が示してきた4.0%−4.5%を超えて、4.5%−5.0%の水準に到達するとの見通しも生じ始めている。
米国経済は金融引き締め政策の進展を受けて、今後、景気減速を示してゆく可能性が高い。長期金利が上昇し、住宅価格、住宅投資、個人消費が徐々に減速してゆく公算が高い。93年から94年にかけて米国で金融引締め政策が実行された期間、米国の株価はボックス圏内の推移を続けた。米国の金融引締め政策が持続する間、株価は一進一退の推移を続ける可能性が高い。

日本の株価は、1999年以降、米国株価との強い連動性を維持し続けてきた。2000年以降、日本政府が独自の景気浮揚政策を採用せず、日本景気が基本的に米国景気に連動してきたことがその背景と考えられる。2005年に入っても、日本株価の米国株価との連動性は依然として強い。
その日本の株価が、8月8日の参議院での郵政民営化法案否決を契機に強い上昇力を示し始めたことには、注意が必要である。総選挙を境に、日本株価上昇のトレンドが強まる可能性が生じ始めている。

小泉政権は小泉政権が提出した「郵政民営化法案」に賛成か反対かを総選挙の唯一の争点にしようとしているが、時間が経過するなかで、こうした「シングル・イッシュー・ポリティックス」に対する批判的な論調が強まってきている。総選挙の結果は政権を樹立する原点となり、総選挙の最大の意味は、当然、国民が衆議院の任期である4年間の政権をどう選択するのかということになる。
国民にとって関心の高いテーマは、年金、イラク自衛隊派遣、靖国参拝、北朝鮮拉致、少子化、税制などであり、郵政問題はマイナーな問題にすぎない。しかも、「郵政民営化法案」反対イコール「郵政民営化」反対ではなく、小泉政権が提出した「郵政民営化法案」の是非と「郵政民営化」の是非とは区別して論議されねばならない。
選挙後の経済動向を洞察する上で、もっとも重要な事項は、自民党がマニュフェストで示した「2007年度をめどに消費税を含む税の抜本改革を実施する」ことである。自公政権が持続する場合、小泉政権は2007年度に消費税率の再引上げを実施する可能性が非常に高い。
次の参議院選挙は2007年央であるが、2007年度の消費税率引上げとなると、その決定は2006年年末になる。つまり、今回総選挙が実施され、自公政権が維持される場合には、国政選挙を経ずに消費税増税が決定される環境が整うことになるのである。
9月11日の総選挙は、この意味で、「2007年度の消費税増税」を認めるのかどうかという、極めて重大な意味を持つ選挙となる。すでに、共産党がこの点を鋭く指摘し始めており、9月11日が近づくにつれて、総選挙が「郵政民営化法案」についての賛否を問う国民投票的な意味を持つことは正当でなく、「4年間の政権を選択する選挙」であるという、正当な選挙の位置づけが徐々に有権者の間に広がることが望ましい。

8月8日の参議院での郵政民営化法案否決以来、株価上昇力が強まっているのは、総選挙により小泉政権が消滅し、成長重視の経済政策が実施されるとの期待感が生じてきていることの表れと考えられる。ただし、選挙情勢は現段階では白紙の状況であり、9月11日選挙までは、米国市場動向、選挙結果予測などをにらみながら、一進一退の推移を続ける可能性が高いのではないか。
選挙の位置づけを左右するスケジュールとして、今週26日(金)に、21世紀臨調が主催する、主要政党のマニュフェスト評価の大会が開催される。こうした論議を通じて、総選挙の位置づけが正しい方向に是正される可能性が高い。いずれにせよ、総選挙後の株価上昇トレンド形成の可能性について、留意しておくことが重要と思われる。

債券市場では、引き続き、中期トレンドとしての金利上昇に警戒すべきである。米国の長期金利が上昇する際、国際間の金利裁定により日本の長期金利も上昇しやすくなる。短期の波動では、一進一退を繰り返すので、短期と中期の区別が必要であるが、暫くは中期トレンドの変化に留意しておくべきである。
為替市場では、米国金利引上げ政策を背景とするドル上昇圧力と、日本の株式市場への資金流入を背景とする円高圧力が綱引きの関係を形成している。持合い状況が暫く持続しそうである。
大きな経済指標の発表が予定されていないなかで、米国経済の基調と日本の政局の読みを中心にした市場変動が見込まれる。

2005年8月22日
植草 一秀

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