コラム

今週の金融市場展望(2005年8月9日)

郵政民営化法案は8月8日、参議院本会議で125票対108票の大差で否決された。日本国憲法は国会を国権の最高機関と定めている。国会議員は選挙によって国民から選出されており、国会の議決は国民の意思を表示するものである。内閣総理大臣といえども、国会の議決を重く受け止める責務がある。

小泉首相は自ら提案した郵政民営化法案が国会により否決されたことを受けて、衆議院を解散するとの暴挙に打って出た。法案を否決したのは参議院であり、衆議院は法案を可決している。総選挙を実施しても参議院の構成は変化しない。衆議院に同じ法案を提出しても参議院で否決される公算が高い。小泉首相による衆議院解散は権力の濫用のそしりを免れない。

株式市場について、ほとんどのメディアは郵政民営化法案が否決されれば、「改革後退」と受け止められて株価が下落するとの予想を示してきた。しかし、現実には、郵政民営化法案否決後に株価は急反発して、8月8日の日経平均株価は前日比上昇で引けた。メディアのものの見方がいかにあてにならないものであるかが、改めて証明された。

本欄ですでに述べてきたように、郵政民営化法案の否決は、日本が健全化してゆく第一歩としての、非常に大きなプラスの意味を持った出来事である。郵政民営化法案の否決により株価が上昇することは極めて順当な反応なのである。

問題は、日本経済を最悪の状況に追い込んできた小泉政権が、今回の解散総選挙を通じて消滅するのかどうかにかかってくる。小泉政権消滅となれば、株式市場にとっては最大の朗報となる。今後の選挙戦を通じて、選挙後の政治体制を見定めることが最重要のポイントとなってくる。

小泉政権が掲げている「改革」はまやかしの改革である。「小さな政府」を目指す本当の施策は「郵政民営化」ではない。「天下りの廃止」こそ、「小さな政府」を目指す決定的な具体的施策である。小泉政権は「郵政民営化」を主張してきたが、「天下り廃止」にはまったく取り組んでこなかった。竹中大臣は筆者とのテレビ討論で、天下り廃止について、「そのようなささいなこと」と表現した。

民主党が、小泉自民党に対して、「天下り廃止」を軸にした「真の改革」の提案を提示するなら、国民も、どちらが本当の改革を目指しているのかについて、初めて真相に気付くことになると考えられる。自民党から公認を得られない郵政民営化法案に反対した自民党議員のグループと民主党が総選挙後に結束して政権を構成する可能性も考えられる。

いずれにせよ、小泉政権が消滅するのかどうかが当面の最大の注目点である。小泉政権消滅となれば、日本経済が再生されてゆく展望が大きく開けることになる。「真の改革」の実現、日本経済の活性化、社会保障制度改革を軸とした長期の財政健全化政策など、小泉政権がまったく取り組んでこなかった多くの問題が山積している。次期政権がこうした問題にいかに真剣に取り組んでゆくのかが焦点となる。

今週、9、10日の日程で米国FOMC(公開市場委員会)が開催される。昨年6月以降のFOMCで、10回連続となるFFレートの引上げが実施される公算が高い。6月、7月と、米国のインフレ指標が落ち着きを示し、インフレ懸念は後退しており、FRBの金利引上げは株式市場の強い圧迫要因にはならないと考えられるが、金融引締めの強化そのものは、景気抑制要因であることへの留意は求められる。

当面の最大の焦点は、16日(火)に発表される7月分米国消費者物価指数である。高めの数値が発表されれば、沈静化しているインフレ懸念が再燃することが考えられる。米国株式市場では、高値警戒感がつきまとう展開の持続が予想される。

国内では、12日発表の2005年4−6月期GDP成長率が注目される。年率で1−3%程度のプラス成長が予想されるが、日本経済の緩やかな改善の認識が継続する可能性が高い。日経平均株価は本年3月の高値を更新した後、政局絡みで小幅反落したものの、郵政民営化法案が否決され、小泉政権終焉に対する期待感が生じ、反発する傾向を示し始めている。9月11日投票の総選挙の結果と、選挙後の政治体制を見定めてゆく状況が持続するものと考えられ、株式市場は一進一退の推移を続ける公算が高い。

為替市場では、ドル堅調の地合いの継続が予想される。米国金融政策は短期金利引上げの方針を維持している。米国の財政赤字も景気回復による税収増加から、急速に減少の方向を示し始めている。米国の景気減速が明確になる、あるいは米国のインフレ懸念が強まるまで、ドルは堅調な地合いを継続する可能性が高い。FOMC閉会後FRBが米国のインフレ情勢、金融引締めスタンスについてどのようなコメントを発表するのかにも注目を怠れない。

内外の長期金利は、6月末以降、緩やかな上昇傾向を示している。米国の短期金利引上げが継続し、米国長期金利も緩やかな上昇を持続している。内外金利は強い裁定が働き、米国長期金利の上昇は日本の長期金利の要因になる。緩やかな長期金利上昇傾向に注意が必要である。

2005年8月9日
植草 一秀

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