コラム

今週の金融市場展望(2005年7月25日)

今週の金融市場は、先週21日夜に発表された中国人民元切上げの影響を市場が織り込んだ後、改めて市場の基調を占う展開となりそうだ。週末の29日に、日本の2005年6月鉱工業生産指数、米国2005年4−6月期GDP成長率速報が発表される。また、同日、イエレン米国サンフランシスコ連銀総裁が講演を行ない、米国金融政策の先行きにいかなるメッセージを示すかが注目される。週末以降の方向感は、これらの指標などが決めてゆくことになると思われるが、週内の市場は、市場がいま保持している先行き方向感に誘導されることになるだろう。

米国の物価上昇率は、6、7月に発表された5、6月分の数値が、非常に低いものになった。原油価格の史上最高値更新で懸念されているインフレ観測が、この物価統計で強く抑制された。他方、米国景気指標はいまのところ極めて堅調であり、「インフレなき成長持続」のシナリオが、こうした経済データで支えられる状況が続いている。

NYダウは4月20日に10,012ドルの年初来安値を記録したが、5月から7月にかけて反発に転じており、先週末は10,651ドルの水準で引けた。景気、インフレ、金融政策についての見通しを軸に、株価は神経質な動きを続けているが、当面は、「インフレ無き成長持続」シナリオが辛うじて維持されており、3月の高値、10,940ドルを目指す流れが維持される公算が大きい。

週末の経済指標、連銀総裁発言が今後の金融引締め強化予想を生む場合には、株価上昇が抑制される可能性もあるが、次の大きな焦点は8月10日FOMC、8月中旬発表の7月米国物価統計となる。FRB(連邦準備制度理事会)は、8月も0.25%の金利引上げを継続する可能性が高く、また、8月発表の7月物価統計はやや高めの数値となる可能性が高い。8月中旬に米国株価が戻り高値をつける可能性が高いと考えられるが、週末統計等によっては、その時期が若干前倒しになることも予想される。

日本の株式市場は米国株式市場との連動性を強く有しており、基本的には、米国市場の動向に大きく左右される状況が継続されるだろう。日本の株価は5月17日に10,825円の年初来安値を記録した。5月から7月にかけて緩やかな反発局面を維持している。先週末には11,695円に小幅反落したものの、3月高値の11,966円を目指す展開が続いている。29日に発表される6月鉱工業生産指数は、前月比で2%程度のかなり高めの伸びが予想されており、日本経済についての楽観的な見通しが、しばらくの間は維持される可能性が高い。

米国市場に連動する形で、株価はしばらく年初来高値を視野に入れた堅調な動きを継続する可能性が高い。しかしながら、上述したように、米国株式市場の方向感は、8月半ばには転換する可能性があり、また、国内では、郵政民営化法案否決の可能性が生じるにしたがい、短期的な政局混迷を材料にする株価下落の動きが表面化する可能性もある。

小泉政権の終焉は、日本経済、日本の株式市場にとって間違いなく非常に大きな好材料であるから、基本判断を間違えないようにしなければならないが、超短期では、政局混迷が材料視されやすいことに留意が必要である。逆に言えば、政局混迷を材料にしての株価下落局面があれば、絶好の投資タイミングが提供されるということでもある。

米国の金融引締め政策は2006年前半まで、FFレートで4.0%から4.5%の水準に達するまで、継続される可能性が高い。米国で金融引締め政策が維持されている間は、株価の本格上昇は見込みにくい。株式市場は、この意味で株価抑制のふた、キャップが暫くの間、かぶせられる可能性が高いことを留意しておく必要がある。

中国の人民元切上げは、中国当局の高い外交能力を示すものとなった。切上げ率が予想されたレンジのなかでは最低水準となったこと、自発的な決定の形が確保されたこと、当面、経済には大きな影響が生じないこと、ドルの動向に大きく揺り動かされる状況を避ける通貨バスケット方式が取られたこと、など、中国政府の要望をほぼ満たす政策決定となった。

中国の物価上昇率が落ち着きを取り戻した現在、中国自らは大幅な元切上げを必要としていない。しかしながら、米国からの人民元切上げ要求は日増しに強まる状況にあった。9月の胡錦濤国家主席の米国訪問を成功させるうえでも、小幅の人民元切上げは不可欠であった。2%の切上げで、経済には大きな混乱は生じない。今後、人民元の追加的な切上げが必要となるだろうが、「はじめの一歩」をとりあえずスムースに踏み出したことになる。

内外の長期金利は、今後の中期的な方向に注意が必要になる。米国のFFレートが4%台にまで上昇することを前提に考えると、米国10年国債利回りは、4%台後半に上昇してゆくことが想定される。一時的に4%を割り込んでいた米国10年国債利回りは、やはり底を確認したと見るべきである。長期金利は国際間で裁定が働きやすく、内外の長期金利は、今後緩やかに強含む可能性を考慮すべきである。

為替市場では、次第にドル堅調を支持する要因が増加していることに留意が必要である。米国の財政収支が急速な改善傾向を示し始めている。ブッシュ政権は2000年度から2004年度にかけて、史上空前ともいうべき積極財政を行ない、財政赤字を激増させたが、景気拡大の副産物として、税収の急激な拡大が生じ始めており、2005年度から財政赤字の急激な縮小が予想されている。積極財政は超短期では財政赤字拡大要因だが、中長期では財政赤字削減要因であることを立証しつつある。

米国貿易収支は大幅減少を示していないが、日本の経常収支黒字は大幅に減少している。米国金融引締め継続の見通しと合わせ、ドル上昇要因が増加していることを注視する必要がある。詳細については、『金利・為替・株価特報』2005年8月1日号を参照されたい。いずれにせよ、次の大きな分岐点が8月に生じる可能性が高いことを踏まえて、今週の動きを追ってゆくことが肝要と思われる。

2005年7月25日
植草 一秀

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