コラム

今週の金融市場展望(2005年7月4日)

先週、重要統計の発表が続いたのに対して、今週は大きな統計の発表がない。市場は、先週の流れを引き継ぐ動きを続けるものと考えられる。

先週、国内では、29日に鉱工業生産指数、1日に日銀短観が発表された。本年5月の鉱工業生産指数は、100.1(2000年=100とした指数、季節調整後)となり、前月比で2.3%の大幅減少となった。同時に発表された予測指数では、6月が前月比+1.7%、7月が前月比−1.2%となった。鉱工業生産指数は、本年1月の103.2(同)をピークにして、緩やかな下り坂に入っているとも考えられる。

1日発表の日銀短観では、製造業、非製造業ともに、業況判断DIが、大企業では4ポイント、中小企業では2ポイントずつ改善を示した。3月時点と比較して、小幅ながら業況が改善したことが示された。しかし、9月までの見通しでは、逆に小幅ながら業況が悪化する姿が示された。

大企業製造業の業況判断DIは、今回調査で3月調査比4ポイント改善の+18となったが、昨年9月調査での+26には遠く及ばず、また、9月見通しが+17であることを合わせて考えると、日本経済が昨年後半から本年前半にかけての緩やかな悪化の後に、再び力強く浮上するという、「日本経済踊り場説」が実現する可能性は見えてきていない。むしろ、昨年9月をピークに緩やかに下り坂に向かう可能性が高まってきている。

日銀短観で同時に発表された設備投資計画は、2004年度の実績が下方修正され、2005年度の計画が上方修正された。全産業・全規模の設備投資計画は、土地投資を除きソフトウェアを含むベースでは、2004年度が5.1%の伸び、2005年度が8.8%の伸びとなった。2005年度も、2004年度程度の設備投資の伸びが期待される状況となった。

問題は、個人消費動向である。家計の所得環境は小幅ながら改善し、個人消費を支える要因となることが予想されるが、個人消費は、所得環境以外に、天候要因や心理要因に強く影響される。2005年度後半も、定率減税半減などの増税措置が予定されており、また、2006年度以降に向けて、各種増税措置の実施が検討され始めており、こうした政策動向が個人消費を抑制する要因として作用することも予想される。

当社では、引き続き、2005年後半以降の日本経済の方向感に強い懸念を有しているが、短期的な市場観測としては、先週の日銀短観を引き継ぎ、5月下旬以降生じている日本経済に対する楽観的な観測の影響を、市場は暫くの間、受け続けるのではないかと見る。

米国では、先週29、30日にFOMC(連邦公開市場委員会)が開催され、昨年6月以降、9回連続となる利上げが実施された。利上げの幅は今回も0.25%となった。昨年6月に1%の水準にあったFFレートは3.25%の水準に達した。

6月1日のダラス連銀のフィッシャー総裁のコメントで、米国の金融引締め措置が最終局面を迎えているのではないかとの憶測が一部で広がったが、FOMC後に発表されたFRBのコメントは、この憶測を否定するものとなった。コメントでは、長期のインフレ期待は十分抑制されているが、インフレ圧力は強まっており、引き続き、金融引締めを継続して、現在の緩和的な状況を解消してゆく方針が示された。

『金利・為替・株価特報』でこれまで予測してきたように、米国の金融引締め措置は、2006年前半まで継続される可能性が高い。だが、当面は大きな経済統計の発表も無く、市場は、一進一退の動きを継続する公算が高い。

今週、6日から8日まで、英国スコットランドのグレンイーグルズでサミットが開催される。経済面では、大きなニュースが飛び出してくる可能性は高くないが、最近の為替市場の動向について、どのようなメッセージが発せられるかに関心が寄せられる。5月末以降、EU憲法批准について、フランス、オランダで国民投票によって批准が否決され、それ以後、ユーロ下落、ドル上昇が顕著になった。欧州のECB政策金利が2%に据え置かれるなかで、米国のFFレートが1%から3.25%にまで引上げられていることが背景にあるが、サミットでは、為替レート安定の重要性が再度指摘される可能性が高い。また、米国は中国人民元の切上げを強く求めており、この要求が改めて示される可能性も高い。

金融市場は、米国金融政策の帰趨に強い関心を注ぐ状況を継続している。その意味で、原油価格の変動、物価統計が注目される。7月中旬発表の6月分米国物価統計は原油価格急騰を受けて、インフレ懸念を刺激する数値の発表となる可能性が高い。7月中旬を境に、金融市場は先行きに対する警戒を再び強める可能性が高い。5月中旬からの内外株式市場の堅調な動きの転機到来はそれほど先ではない可能性に十分な留意が求められる。内外市場での長期金利低下傾向の転換点についても、同じ文脈上で考えておくべきだろう。

為替市場では、しばらくの間、米国金利引上げの基本環境下でのドル堅調が予想されるが、(1)米国でのインフレ懸念の強まり、(2)米国景気減速観測の浮上、(3)中国人民元の切上げ、などの変化を契機にドルの基調が変化する可能性に注意が求められる。

以上

2005年7月4日
植草 一秀

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